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1章【1】 パターンを壊すことからコミュニケーションを始める

 他人と話していて、ふと自分のことを自分でないように、どうでもいいものとして感じてしまうことがある。自分を客観視しているのとは何か違う。「またいつもと同じような話をしているな」と思うような、そういうぼんやりとした虚しい感覚だ。そんな感覚を抱きながらも、いつも通りに愚痴や悪口を言ったり、現状の不満を、他人や環境のせいにしながら吐き出す。

 聞いてくれる相手からは「そういうものだよ」と、その狭く、つまらない世界にさらに自分が閉じ込められる慰めが与えられる。何かに向かう熱狂は湧いてこず、この場所、現状に留まり続けるのだろうなという感覚。もちろん、このままでいることが好きなわけではない。

 しかし、この会話がなくなってしまったら、他人との関わりがなくなってしまう。発展性のない会話だけど、それをなくしてしまえば、独りになってしまう。それは時間を潰すためだけにつけられたテレビを見ることや、なんとなく手持ちぶさたにスマホをいじくってSNSを見ることに似ている。

 不毛な話し相手を選び、不毛な会話をするというパターンをくり返しているということを、自分では気がついている。だから、ときどき、人と会うことが憂鬱になる。だけど、会わないよりはマシだと思って会ってしまう。

 他人同士の会話を聞いていてもそうだ。その会話は彼ら以外の誰かもしていたような内容で、彼らも心から楽しんでいるようには思えない。

 年上の人から受ける説教、また年下の人へする説教。友人との、愚痴や不満の言い合い。

 街で出会った女の子とも、いくつかのタイプに分類されるような会話のパターンを受け止めて、彼女たちが求めていることを察知して、彼女たちの期待通りに会話を進めて口説いていく。それらは僕がしなくても、周りにありふれている。

 会話をして、相手とより親密になるわけでもない。ましてや、会話をきっかけに互いに自分自身をより良く変化させていくわけでもない。

 そんなパターン化された会話を壊す方法はないものだろうか。

 かといって、常々相手に感じている不満を、本人を前にして喚わめき散らしても仕方がない。

勇気はいるが、それで人間関係をきちんと築けるとは思えない。

 こんな同じことのくり返しでしかないような会話をせずに、丁寧に相手に自分の気持ちが伝えられていれば、周りの人たちとの会話を疑いなく楽しめていたに違いない。そうできていないのは、自分のこれまでの他人との関わりの積み重ねによるものだ。そのときどきに、自分の気持ちに嘘をついて他人と関わり続けた結果だ。

 どうすればよいのか。

 そのためには、自分がどのようなパターンをとり続けているのかを知る必要がある。同じパターンをくり返しているときは、自分がそれをしていることに気がついていない。「何をしているか自分では分かっているつもりだ」と思うかもしれない。分かっている部分はいい。

でも、分かっていない部分を知る必要がある。

 パターン化している生活を送っている自分の、自覚していない動きの癖、そのときの自分の気持ちや、見過ごしている相手の反応……そうしたものを細かく見ていけばいくほど、自覚していなかった自分を発見できる。今の自分がどのようなパターンのコミュニケーションをとり続けているのかということを知ると、自然と振る舞いが変わる。無意味なこと、無駄なこと、逆効果なこと、自分を不幸にすることでしかないことを、良かれと思って進んでやってしまっていることに気がつく。

 今まで気づかずに続けてきていたパターンを見つけることができたら、同じようにはし続けられない。他人から指摘された悪い癖は「気をつけなければ」と思いながらも、くり返してしまう場合が多い。しかし、自分で気がついたものは、自然とやめるようになる。

 それらがやめられていったとき、自分がいかに無駄なことをしていたか、自分がいかにエゴで動き、他人を見ておらず、そのせいで不適切なことをして、他人を遠ざけてしまっていたかが分かる。

 しなければいけないことを身につけるのではない。してはいけないのに、知らないうちにし続けていることをやめるだけでいい。

 この本では、僕自身が取り組み、試行錯誤してきたこと、カウンセリングや講習で人に伝えて感じたことを書いていこうと思う。それは誰にでも通用する一般的な真実やノウハウというものではないが、その一方で、できるだけ磨いて純度を高めていけば、いろいろな人の役に立つように伝えられるのではないかという思いがある。

 しかし、結局は個人の経験によって得た、一人の人間の思考や感覚の扱い方である。

 僕としては自信を持って届けられるものだが、参考程度に軽く読みながら、好きなように使ってもらえればと思う。そのようにした方が、書かれたことを鵜呑みにするよりも、僕が伝えたいことを自分自身の感覚を使って理解していただくことにつながると思う。

『あなたは、なぜ、つながれないのか:ラポールと身体知』より)


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