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ダイアモンド #シロクマ文芸部(読む時間)

読む時間が必要だから、しばらく待って欲しい

と少し俯いて彼はいいました。カタンっと小さく椅子を鳴らして、私は立ち上がります。このたった一枚の紙の何を読むというのでしょう。行間を読むとでもいうのでしょうか。10年前、彼はいいました。

「君がしたいようにしていい。いつでもそれに応じるから」と。

寛容な言葉だと思ったりはしませんでした。そこから逃れようと笑うたびにかき混ぜられて、濁る、心に沈み込んだおりのような言葉でした。そんな悲しみがあの紙を透かしてみたら映るのでしょうか。私にはもうあげる時間がありません。

もう時間切れよ

私たちが一緒に暮らし始めてから15年が経った秋の初めのことです。もったりと湿気を含んだ空気がほんの少し軽くなったころ、私は決心しました。それはそれまでに流した涙と未練と執着を、溶かして混ぜて濾過して出来上がったダイアモンドのようなものです。そう、地球上で一番硬い物質であるダイアモンド、世界で一番美しい宝石。

これから私はこの大粒のダイヤを身につけて生きていきます。胸を張って、凛々と。


小牧部長、今週もありがとうございました。

日曜日になるとそわそわしてしまいますが、無事に提出できてよかったです。

いただいたサポートは毎年娘の誕生日前後に行っている、こどもたちのための非営利機関へのドネーションの一部とさせていただく予定です。私の気持ちとあなたのやさしさをミックスしていっしょにドネーションいたします。