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春が来て(4) #シロクマ文芸部


春の夢は淡いオーガンジーに包まれて、まるでふわりと空へ舞い上がった。振り返りもせずに浅青の空に溶けていく。

三週間前のことだった。美玖はお花見と称して友達の若葉を誘いピクニックにやってきた。そこに幼馴染の佐久間亨さくまとおるが同じ医大に通う友達の宗佑そうすけを連れてきた。風が吹いた。

ヒトメボレ

本当に一瞬、周りの音が聞こえなくなって全てがスローモーションになるんだ。

美玖はポカンとしながらそう思っていた。チラチラと宗佑を見るのをやめられない。彼はまさに「さわやか」で、涼やかだった。箸を握る手も桜を見上げる顎のラインも何もかも素敵。そのうち、誰ともなしに、桜の思い出を話し始めた。若葉が初恋の話を始める。美玖が何度も聞いたことのある「風車の君」の話だ。嬉しそうに話す若葉を横目で見ながら、宗佑の耳がなんだかちょっと赤いなあと思っていた。

桜はあれからすぐに散ってしまったけれど、美玖の恋心はまるで春の夢のようにパステルカラーのままだった。昨日の晩、亨から「風車の君」の正体を聞くまでは。

運命の人

っているもんなんだ。いや、運命の人たちか。

美玖の恋はこうして終わりを告げた。涙もでなかった。空がとってもきれいだったから。

終わりは始まり。次の恋はもうそこまできている。

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小牧部長、気忙しくてうっかりしていましたが、いつの間にかシロクマ文芸部1周年を迎えたのですね。おめでとうございます。

私の記憶が正しければ、一年間皆勤できたのではないかと思っています。今月は、ほんの気まぐれで、500文字、四つ連作、とやり出したものの、とても大変でした。長編小説を書かれる皆様を心から尊敬致しております。

創作大賞が始まったのですね。
私は今回はレシピ部門なるものに、時間があったら挑戦したいですね。

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