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祝砲

運ばれてきた味気ない食事を無理やり体内に循環させて、窓を見ながらうつらうつらしていたときのことであった。

気にも留めず、流れてきたニュースは生後三か月で虐待されて死亡した幼児の両親が逮捕されたらしい。

幼児が何をしたのだろうか、幼児は何を望んだのだろうか、幼児は自分にどういったことが起きていたのか理解することはできたのだろうか。

そういったことを耳に挟むたびに私はトカレフの引き金を引き、上空へ向けて一発放つ。銃声だけが色のない空に響き、空気を揺らす。そうすることしかできないのだ。

これは同情では決してない。
不条理に対して目を瞑り、耳をふさぎ、隅で体育座りをすることしかできないこの世界からの解放を祝しての一発なのだから。

物心ついた時からこの窓からの景色を見ている。
ここで幾度もの四季を見るだけ。
私に関わる人間はこの十年で入れ替わる。
まるで細胞のようだった。

私は逃れることすらできない。感覚のない手ではトカレフを握ることすら叶わない。

誰も求めていないこの世界でただ意識だけが存在するだけなのだ。

眠る前に必ずトカレフを左のこめかみにあてる、軽い引き金を引き、撃つ。
私は死んでもいないし、生きてもいない。
弾の入っていないトカレフを私と理不尽に対して撃ち続ける。
いつか弾を見つけられることを祈って。


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