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シェルター

寝る時に決まって行うことがある。
子どもの頃から毎日だ。
布団の中に入り、冬であれば毛布に包まる、夏であればブランケットに包まる。

頭も手も足も布の中に入れてしまう。
布自体の暖かさと自分の体温が混じり合い
一つになり、やがて全ての感覚が鈍くなる。
これはシェルターだ。
なによりも強固で外界にある全てから私を守ってくれる。

朝起きて、電車に乗り会社に行く。
車内にいる人間は皆、小さい長方形の機械に夢中だ。こんなに人間がいるのに同じ顔は一つもない。この人達はシェルターを持っているのだろうかと沢山の顔を見ながら考える。
会社につくといかにもシェルターを持ってなさそうな上司が怖い顔をしながら口を縦横に動かしなにかを言っている。いつからかこの人の言うことが聞き取れない。
親指と人差し指を擦りながら頭の中ではシェルターのことでいっぱいだった。
目の前に居た上司がこちらを睨みながら背を向けて席に戻っていくのをぼーっと見つめながら
この人は何故大きい声と威圧するような顔をするのかなぁと思いながら私も席に着く。

あっとゆーまに1日が終わり帰路に立つ。
再び電車に乗ると朝と全く同じ光景が目の前に浮かぶのでなんだかおかしくなり頬が緩む。
私は朝とは違う。
皆とも違う。
だって私には帰ったらシェルターがある。

アパートの階段を一段飛ばして登り、ドアノブを人差し指と親指で回す。
手洗いうがいをし、お風呂に入る。
これからシェルターに入るんだから身体をしっかりと綺麗にするのは当たり前だ。
いつものサプリメントを机の上に並べて左手に握り、朝買ったのに半分も減ってないペットボトルを持ってベッドに向かう。
布団に頭から入り、手も足も中に入れる身体中が全て入ったことを確認して左手にあるものを口に投げ込みペットボトルの水を飲み干す。
気持ちが落ち着き、意識がゆらゆらとする。
いつからだろう嫌なことを嫌だと感じられなくなったのは。
シェルターに入ると全てが曖昧になる。
痛みも快感も久しく感じていない。
朝起きたらシェルターの立て付けが悪くなり、二度と出られなければいいのにと考えながら瞼を閉じると頭の中に張っていた一本の線が痛みもなく切れた。






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