zzz
いつ切れたかも思い出せない傷を
口の中で探しながら窓を眺める。
高さが異なる建物がお互いに身を寄せ合って
支えあっている姿はかつて砂浜に作った山のようだった。
血の味もしない口の中の傷は確かに頬の裏側に
存在しているが痛みはもう無い。
山の前を名前も分からない鳥が数羽目の前を
横切る。何かを言いながら。
テレビから流れるニュースでは、有名ミュージシャンが覚醒剤を所持していたことをスーツを着た人間が荘厳な雰囲気を醸し出しながら、怒りを顕にした口調で誰かに向かって伝えている。
急なチクリとした痛みが上半身に走るが
どこから生じているのか全く分からず、
自分の体を捻りにながら鏡を確認したが
外傷は無い様に思えた。
「xxxという曲は僕も学生時代に勇気を頂いていた思い出の一曲なのですが、この曲も薬物を使用して作られたものだと思うと大変遺憾です。続いては、、、、」
その次にオレオレ詐欺から女性を救った
高校生のニュースが流れて、同じスーツを着た人間が笑顔で彼の行動を賞賛している。
物心ついた時にこの世界には明確に善にカテゴリされているもの、悪にカテゴリされているものがあった。
誰が決めたのだろうとその頃から考えていたが、今も答えがわからないままだ。
大きく分けると誰かに利益をもたらす行動は善で不利益を被らせるものが悪だということになんとなく気づいた。
昔から善悪について考えるとどこからか痛みが走るが、年々弱くなる。
窓から目を背け、自分の足の甲を見ると
先週したやけどが治りかけていることを知る。
たまたま自分が悪にカテゴリ化される行動を
起こしていないだけで、いつかその様な行動を
起こす気がなんとなく昔からしている。
その時僕は悪いことをしたと感じられるのだろうか。
そんなことを考えながら、テレビを消そうとリモコンを手にした時に
19歳の少年が33歳の男性を肩がぶつかったが謝らなかったという理由で暴行したというニュースが流れてきたが全てを伝え切る前にテレビを消した。
椅子から立ち、キッチンでコーヒーを淹れる。
立つ湯気が近くの空気を湿らす。
冷めていないコーヒーに口をつけるが
熱さを感じることはない。
何処に行く宛も無いが、服を着替え
玄関に向かう時、長年の原意不明の痛みはもう自分に起こることが無い気がした。
ドアノブに手をかけ、外に出ると
先ほど見た鳥が僕の家の前に巣を作ろうと
小さな枝を集めていた。
僕はその枝を集めて手に持ち、思いっきり投げた。
枝は上空に舞い、ちれぢれに落ちていく。
ドアと鍵を閉め、振り返ると再度名前が分からない鳥の内の1羽が僕の落とした枝を拾い戻ってきた。
僕は歩みを進めエレベーターのボタンを押した時、小さい頃の様に鈍痛が身体に響いた。
痛みに悶えながらも自分の口元が緩んでいることに驚きながらボタンから指を離した。
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