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イケブクロアンダーテイク

俺はオオマでお前は初対面。
はじめましてでさよなら。
お前に酒はいらない。俺もだ。
俺の体は機械で頭はヘルメット、そして葬儀屋。
お前が飲むのは鉛玉で十分。

「ふざけッ…!!」

俺は返り血をもらう。
それで十分。
血は温かく生きている実感を思い出す。
それで十分。
お前を担ぎ、棺に詰める。そして製薬会社ピサシス に売り払い50万を貰う。
俺はそれで生きている。
俺の人生はそれだ。

パンッ。

紅い花のように男の頭が爆ぜる。
項垂れた首を見て胴を抱える。
棺に詰める。

「オオマ、早い!早すぎ!!」

ザヴが口を出す。
アシスタントが死体性癖の女だと仕事はやり難い。

「保冷材よこせ」
「早い!だって、もっと…!!」
「腐る。いい、俺がやる。ピサシス のアイザワに電話しろ」

唇を尖らせ、ザヴが携帯を取り出した。
俺はバックパックを漁る。
ピサシスはこの死体で薬を製造する。

「ねぇ、オオマ」

何だ、と言って俺は保冷材を棺に投げた。

「代われって」
「アイザワが?」

携帯を取り上げると、聞いた声がした。

「あー、オオマ、どうだ?」
アイザワの声はいつも甲高かった。

「首尾順調だ。どうした」
「あー、すまん、殺して欲しい輩がいて」
「その手の類は」

俺達は殺し屋ではない。殺すべき奴を殺すのが仕事で、その死体を運ぶ。
そうじゃない相手を殺すのはお門違い。

「あー、『ミシュラクラ』だ。死体を持って来い」
「15回殺した」
「まだ死体は弊社には存在しない」
「もう一度言う。『15回殺した』」
「オオマ、『超能力』は欲しくないか?」

切ろうとした電話を留める。ザヴがまた唇を尖らす。

「サイボーグに『超能力』はいらない」
「生身に興味は?」
「言いたい事が分からない」
「死体を持って来い。話はそれからにしよう」

俺は電話を切った。

「何の話?」

ザヴに携帯を投げる。ザヴは眉を顰める。

「お前はクビだと」
「ウソが下手すぎ」

俺はチタンになった指を動かして、眺めた。

「死ねと言われた」

【続く】

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