李琴峰

作家、翻訳家。芥川賞、芸術選奨新人賞受賞。芥川賞『彼岸花が咲く島』→http://am…

李琴峰

作家、翻訳家。芥川賞、芸術選奨新人賞受賞。芥川賞『彼岸花が咲く島』→http://amzn.to/3y0SYPY。芸術選奨新人賞『ポラリスが降り注ぐ夜』→http://amzn.to/3hdIPIU。公式サイト→http://likotomi.com

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  • 【漢詩和訳】シリーズ

    李琴峰が好きな漢詩を現代日本語の散文に訳し、短い文章を添えるシリーズです。

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最近の記事

【記事まとめ】思索のノート:虹の筆で彩って

 2023年4月~2024年3月の1年間、長野県をベースにした地方紙「信濃毎日新聞」において、月に1回のペースで「思索のノート:虹の筆で彩って」というコラムを執筆してきました。  このコラムはタイトルからも分かるように、すべてクィア/LGBTQ+の観点から書いています。日本に住む一人のクィア女性(レズビアン)から見た世界の景色、クィアの文化と歴史、差別の現状とそれに対する批判、時事問題と論考など、毎回違うテーマを取り上げています。  日本の新聞において、このようにはっきり

    • 李琴峰の2023年振り返り

       2023年も終わりを迎えようとしていますね。皆さんは元気に生きていらっしゃいますか?  2023年は色々なことが大きく動いた1年だったと思います。悲しいこともあれば、嬉しいこともあります。絶望に浸るような理不尽なことも起きたが、曇り空の向こうから一筋の光明が見えるような希望を抱いた瞬間もありました。  社会的には、LGBT理解増進法が改悪に次ぐ改悪の末、与党の賛成多数で通りました。この法律は当事者不在どころか、議論の最中には差別主義者が国会に招かれて堂々と差別発言をまき

      • 李琴峰新刊『肉を脱ぐ』試し読み

         ※この記事は、2023年11月1日に刊行された李琴峰の新刊『肉を脱ぐ』(筑摩書房)の試し読みです。  ■Amazonページ:https://www.amazon.co.jp/dp/4480805141  湯船に浸かると、髪の毛先、乳房の先端、そして全身の毛穴から粉末くらいの小さな粒子がぽこぽこと浮かび上がり、お湯の中で広がっていく。かじかんで寒暖の区別がつかなくなりかけていた手足は、次第に温かいという知覚を取り戻していく。  鼻の下ぎりぎりまで顔をお湯の中に浸け、冷え

        • 他者を書くということ:クィアの観点から

          ※この記事は、米アイオワ大学国際創作プログラム(International Writing Program)参加中に、アイオワ公共図書館で開催されるパネル・ディスカッションのために書いた発表原稿です。パネルのテーマは「他者を書くこと(Writing the Not-Self)」。記事は英訳を前提に書きました。 --  一人のクィアの創作者として、私は常に「他者を書くこととはどういうことか」と自問自答せざるを得ない。  日本でクィアの経験を書くのは容易ではない。日本はいま

        【記事まとめ】思索のノート:虹の筆で彩って

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          声明:トランスジェンダー・ジャパン関係者が性加害告発を受けた件について

          2023年11月2日 李 琴峰   過日、「東京トランスマーチ」の主催団体である「トランスジェンダー・ジャパン」(以下、TGJP)の関係者が性加害の告発を受けたことを、「一般社団法人ふぇみ・ゼミ&カフェ」をはじめとした団体の声明で知りました。    私はクィア・コミュニティの一人として、普段からトランス差別を含むあらゆる差別に反対・抵抗する立場を明らかにしており、自らの創作・言論活動でも差別解消に努めてまいりました。TGJPは限られた人数と資金で、手弁当で運営されている団体

          声明:トランスジェンダー・ジャパン関係者が性加害告発を受けた件について

          誹謗中傷裁判カンパのお願い

          ryuchellさんの訃報を知った時に書いたnote記事でも触れていますが、私、李琴峰は今、複数の誹謗中傷者を相手に、民事訴訟や刑事告訴など法的措置を取っています。 これらの法的措置へのカンパを募るために、この記事を執筆しています。   発端は言わずもがな、2021年7月の芥川賞受賞でした。受賞以降、私は夥しい数の誹謗中傷を浴びてきました。私への人身攻撃、差別発言、低レベルの侮辱と悪口、そしてデマと誤情報が、SNSを中心に広まりました。 これらの誹謗中傷はかなり長いあいだ続き

          誹謗中傷裁判カンパのお願い

          ryuchellさんの訃報に関連して

          Facebookで友人がryuchellさんについて「ゆっくりお休みください」とつぶやくのを見て、芸能活動を一時休止するのかなと思いました。確かに、ryuchellさんに対するSNSでの誹謗中傷がかなりひどいものだったので、寂しいけれど心身の健康のために少し休んだ方がいいかもしれない、と私は気楽に考えました。   次の瞬間、ryuchellさんの逝去を報じるニュースが目に入りました。私はひどく動揺し、しばらく言葉を失いました。記事によると、「現場の状況から判断して自殺だった」

          ryuchellさんの訃報に関連して

          李琴峰の2022年振り返り

           先日、33歳の誕生日を迎えました。  年末に誕生日がある人にとって、歳を取ることと1年を送ることがほぼリンクしており、誕生日になると、また1年が終わってしまったのか、という感慨にどうしても耽ってしまいます。  2022年は色々なことが起きましたね。ロシアによるウクライナ侵略戦争、神道政治連盟のLGBT差別冊子配布事件、安倍元首相銃殺事件、そしてその後の統一教会をめぐる一連の騒ぎ。Twitter買収によるオンライン環境の悪化、防衛費の増額と増税、台湾と中国の緊張関係など、世

          李琴峰の2022年振り返り

          【中文】李琴峰出道5周年紀念限量版《流光》NFT小說專案

          ★★★本專案販售期間已過,感謝支持★★★2022年5月,正是李琴峰作家出道5週年的月份。李琴峰出道作《獨舞》首次登上日本的文學雜誌,是2017年5月,正好是5年前的事。 出道之後一路走來,自覺寫了不少東西,但回頭一看,發現竟也才過了5年而已。不管如何,出道5週年畢竟是作家生涯的一個重要里程碑,在此,李琴峰隆重推出首批「NFT小說」,作為出道5週年的紀念! 本次企劃首波販售所獲得的淨利10%金額,將會用於捐款,回饋社會。   ■販售期間:5/20(五)台灣時間20點~ ■販售網

          【中文】李琴峰出道5周年紀念限量版《流光》NFT小說專案

          【日本語】李琴峰作家デビュー5周年記念NFT小説「流光」プロジェクト

          ★★★本プロジェクトは終了しました★★★ 2022年5月に、李琴峰は作家デビュー5周年を迎えます。 李琴峰の初の小説『独り舞』(原題「独舞」)が文芸誌で掲載されたのは2017年5月で、ちょうど5年間経ちます。 色々書いてきたつもりですが、振り返ってみると5年しか経っていないか、という気持ちもありますが、ともかく作家デビュー後に迎えた初めての節目に、記念として「NFT小説プロジェクト」をやってみることにしました。 なお、本プロジェクトの一次販売による純利益の10%に相当する金額

          【日本語】李琴峰作家デビュー5周年記念NFT小説「流光」プロジェクト

          李琴峰新刊『生を祝う』試し読み

           ※この記事は、2021年12月7日に刊行された李琴峰の新刊『生を祝う』(朝日新聞出版)の試し読みです。  日本で「合意出生制度」が確立されたのはちょうど私が生まれた年、今から二十八年前のことだった。  五十数年前、「失われた三十年」の末に日本が迎えたのは、世界を席巻する流行り病の災いだった。収束まで五年もかかり、世界人口の三分の一が失われたと言われるその災禍が、もともと不況だった日本経済を一気にどん底へ叩き落した。多くの国民が職を失い、国全体が食糧不足に陥り、街に出ると

          李琴峰新刊『生を祝う』試し読み

          李琴峰の2021年振り返りと展望

           早いもので、2021年が終わりを迎えようとしている。  2020年2月、コロナ禍が始まったばかりの時、まさかこれほど長続きすることになるとは誰も思っていなかったに違いない。あっという間に2年間が経とうとしている今も、疫病の終息の兆しが見えない。  「緊急事態宣言中の日数」が「緊急事態宣言が出されていない日数」よりも多い(東京都の場合)2021年、ありがたいことに李琴峰は大きな躍進を遂げた。  まずは2月、昨年刊行した連作短編集『ポラリスが降り注ぐ夜』が、第71回芸術選

          李琴峰の2021年振り返りと展望

          「反日」を一掃せよ

           7月中旬、芥川賞を受賞した数日後のことである。ネット上で、そこそこ人気のある某右翼ライターがある記事を発表した。受賞会見をしている時の私の顔写真とともに掲載されたその記事によれば、「李琴峰の芥川賞受賞は、反日左翼による日台離反工作かもしれない」だそうだ。  ファンタスティック! この方のほうが私より小説を書くのに向いているかもしれないと思われるほどの、すさまじい想像力だ。これからも小説でご飯を食べていく者として、このライターの宣伝にならないよう、ひとまずここでは彼の名を伏せ

          「反日」を一掃せよ

          【解決済み】知念実希人さんによる国籍差別発言に関連して

          ★★★  本件は既に当事者間で和解に至り、解決済みとなりました。 ★★★  2021年9月8日、作家の知念実希人さんは私のツイートを引用RTする形で、以下の国籍差別的なツイートをしました。  知念さんはこのツイートで、私のTwitterでの発言を「露骨」な「政治活動」と表現し、更には「外国籍の作家」と強調しています。これは「外国籍の人は(たとえ日本で生活していても)日本の政治について発言するな」という、明らかな国籍差別です。  この点について、既に以下のツイートで抗議し

          【解決済み】知念実希人さんによる国籍差別発言に関連して

          『ポラリスが降り注ぐ夜』が芸術選奨新人賞を受賞

          この度、李琴峰『ポラリスが降り注ぐ夜』(筑摩書房)が、第71回「芸術選奨文部科学大臣新人賞」文学部門を受賞しました。 「芸術選奨文部科学大臣新人賞」は「芸術選奨新人賞」とも呼び、文化庁主催の賞で、各年度「芸術各分野においてその業績により新生面を開いた芸術家に対し贈られる」賞です。 文学、演劇、映画、音楽、舞踊、文学、美術、放送、大衆芸能、芸術振興、評論等、メディア芸術、計11部門あります。 文化庁の発表によると、『ポラリスが降り注ぐ夜』への贈賞理由は以下の通りとなります

          『ポラリスが降り注ぐ夜』が芸術選奨新人賞を受賞

          『SFマガジン』2021年2月号「百合特集2021」読後感

           『SFマガジン』2021年2月号で、2回目の百合特集を組んでいる。前回の百合特集は2019年2月号なので、ちょうど2年ぶりである。  前回の百合特集でもかなり話題になり、私の周りでも読書会が開かれたりしたが、私自身は特集そのものより少し遅れて、『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』で掲載作品を読んだ。女性同士の関係性を扱う「百合」の特集にもかかわらず書き手がほとんど男性だったということも気になるが、それより残念に思ったのは好きな作品があまりなかったということである

          『SFマガジン』2021年2月号「百合特集2021」読後感