「新河津死物見物衆」

《金剛冶金》の紋がぎらりと睨みを効かせ、使い込まれた長筒が、ずだうんと音を立てて輩の眉間に大穴を穿つ。
良い気味だ。ああ良い気味だ。
《畦道亭》の亭主が血相を変えて寄って来る。鴉みてえな声でぎゃあぎゃあ喚くものだからつい手が出ちまう。しょうがねえから砂利銀を詰めた巾着を放り投げてくれて遣る。
ふと野次馬衆の中に妙な奴が居ることに気付く。人が起っ死んでるって言うのに目に怯えた物が無え。何とも何とも嫌な餓鬼だ。
「坊主、」
言い掛けてから考えた。案外此奴みてえな者ンが俺を殺しに来るのかも知れ無え。結局最初に言おうとした事を其の侭言う。
「坊主、死に物見物は良い趣味じゃあ無えぞ」
長筒の尻で餓鬼の額を小突き、暖簾を捲って《新河津》の町へ出た。

特に何もないけど投げ銭できます。