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たまの「衝動買い」で本当に買おうとしているもの

家族で神戸にある商業施設、MOSAIC(モザイク)を訪れた。
ちょっとしたお土産売り場や、素敵なお店もあるし、食事をする場もたくさんあるのでとても気にっている。

すぐ隣には、大型商業施設のUmie(ウミエ)があり、子どもたちに大人気のアンパンマンミュージアムもある。
海沿いの広場から、かの有名な神戸のランドマーク「ポートタワー」もみえ、実に”神戸っぽい”場所だ。

体力オバケの息子は、最近何かと「ねえ、走ろう!?」と誘ってくる。
4歳児にとって、ウィンドウショッピングは地獄のようだ。
気になるお店に後ろ髪をひかれつつ、息子の有り余る体力を削るために、アンパンマンミュージアム横にある広場に移動した。

こういう場合、息子の相手は基本的に運動好きの夫にお任せし、私は芝生やベンチに座って足を組み、うふふと微笑みながらそれを見守っている。
我ながら幸せを絵にかいたような構図だな、と思う。

あちこち走り回りながら遊んでいると、ふと懐かしい匂いがした。
すぐには何の香りか思い出せない。でも、心温まるそれを、私はいつかどこかで必ず嗅いでいる。

その昔、小学校5年生の時に初めての海外旅行で訪れたバリ。
ホテルには南国の花がたくさん飾られていた。店先に所狭しと並ぶバリ猫。筋肉隆々の男たちが踊る民族舞踊。

中学生まで住んでいた実家。
玄関にあるちょっとしたスペース。母が季節折々色んなものを飾っていた。ヒヤシンス。絵画。フラワーアレンジメント。

母方の祖母の家。祖母の化粧台には、宝石みたいな瓶に入った、透明や薄い黄色のような液体がたくさん並んでいた。化粧台の近くにある大きな箪笥の中には、着付けの先生だった祖母の着物がたくさん入っていた。

香りに誘われるようにふらふらと足を踏み入れたそこは、「有馬香心堂」というお香の専門店だった。

頭がくらくらしてしまうくらい、なぜか胸がどきどきしてしまうくらい、その時その場所でたかれているお香の香りが好きだった。

バリで感じた異国情緒あふれる香り。
実家の玄関先で母が時々たいていたお香や、飾られた花の香。
祖母が使っていた化粧品や香水。着物がまとう和の香り。

そんなものが入り混じったような、私にとっては複雑で奥深い香りだった。

どうしてもこの香りにもう一度包まれたくて、その場で「神戸開港物語」という、きんもくせい・カシス・みやびの3点がセットになったものを購入した。このうち、「みやび」にあたる香りが、その日店内でたかれていたお香ということだった。せっかくなので、目に留まったかわいらしいお香立ても一緒に迎えることにした。

時々こうして心が動いたものを衝動的に買うことがある。

綿密に計画を立てて、事前に下調べをして買い物に行く時と比べると、たまにお金を使いすぎるし、あとになってやっぱり買わなきゃよかったと後悔することもある。

でもやっぱりやめられない。
それは、心を動かされたこと自体が嬉しいからじゃないかと思う。

もしかしたら半年後にはもうお香のことを忘れているかもしれない。

でも、またいつかどこかで何か懐かしい香りを感じた時、私はバリ島、実家の玄関、祖母の化粧台に加え、恐らくその日訪れた「有馬香心堂」で見た景色、息子がお香を見つめていたキラキラした瞳を思い出すと思う。

日々記憶は薄れていく。
当たり前に消え去っていく毎日のなかで、記憶に残るような出来事に出会うこと自体に感動している。
忘れたくなくて、手放したくなくて、つなぎとめるような気持ちで買ったものたちで、私の日々が彩られていく。

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