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永元千尋 略歴 : 第2部/飛躍編


飛躍編

1993-1994 : 初めての挫折

「作家になるにはまず社会勉強だ、生まれ育った故郷と全く違う環境に突撃するぜ!」という観点から単身北海道へ飛び、札幌のススキノ繁華街でバーやスナック向けに氷を卸す仕事に就くも、あまりに環境が違いすぎて精神的に病む。2年と保たずUターンである。
 その後は実家の飲食業を手伝いながら小説を書き続けていたが、いったん執筆を始めると集中してのめり込んでしまい「気がつけば朝」という事態がたびたび発生。働きながら作家を目指すのって難度高すぎじゃね?! という根本的な大問題にようやく気付く。
 

1995-1996 : それは転機か転落か

 Windows95が登場、一般家庭にインターネットの普及が始まる。新しいもの好きの父親が使いもしないのにPCを一式揃えて放置し、これ幸いとばかりに私物化して好き勝手に使い始める。
 20代になったばかりでいろんなものを持てあましていたため、エロゲーにうっかり手を出して決定的に人生を踏み外す。
 

1997(春) : ALICE SOFT

 当時大流行していた〔ファイナルファンタジー7〕や〔ときめきメモリアル〕の二次創作小説を書いてWeb掲示板に投稿したり、〔To Heart〕のCGを描いて〔初音のないしょ!〕に収蔵されたりしながら毎日楽しくダラダラ過ごしていたところ、将来を心配した両親に「いい加減ちゃんとしろ」とガチで怒られる。

「俺はまだ本気出してないだけ」

 と虚勢を張り、とにかく文章を書いて飯が食える仕事はないかと当時まだ一般的ではなかったネット検索を駆使して調べたところ、大阪のPCゲーム会社〔アリスソフト〕の求人を発見。たまにムラムラしたとき少しずつ書き進めていた男が女になってレズやら男やら触手やらに犯されまくる未完の小説(10年後まで引っ張ることになる壮大な前フリ)を送ったところ「原稿料やるから何か書いてみ?」とありがたいお返事をいただく。
 

1997(夏) : 蒼海に堕ちて…

 主人公が性転換してヒロインになり陵辱されまくるエロ小説はさすがにマニアックだと判断した(当時)ので当然のように封印。しかしエロ小説など一度も本気で書いたことなかったので、要所にバトルや頭脳戦を織り込むことを想定してプロットを構築。

〔学園を舞台に、天使と悪魔が主導権争いをしながら生徒たちを性的に食い散らかす〕

 という渾身の作品案を提示したところ、

「学園を舞台に蜘蛛のバケモノが生徒を性的に食い散らかすお話を会社でいま作っててベクトルが被っちゃうから、なんか別のやつにしてね」

 と言われ、やむなく方針転換。
 ああ畜生夏なのにどこも行けねえ女の子と海にいって遊びてえなあという欲望の脊髄反射でかなり適当かつ無理矢理ぎみにプロットを捻り出したところ、快くOKが出て執筆を始める。
 これが後に、商業作品のデビュー作になる蒼海うみちて…〕であり、自分が書いた文章がお金になった最初の例となった。
 

1998 : そして大阪へ

「女の子が海の上でひどい目に遭うやつ、なかなかよかったから、次も女の子がひどい目に遭うやつをよろしくね」

 というお達しにより、

〔ルネサンス期のヴェネツィアあたりをモチーフにした架空の都市を舞台に、貴族向けの娼館で幼い頃から調教の日々を受ける少女と、没落貴族の末裔でレイピアの名手(殺し屋)になる少年の恋物語〕

 てな感じの物語を発案、OKをもらって作業を開始するも、実家でダラダラ作業していたこともあり見事にエタって放り投げる。

「今度こそ本気出すので大阪に行ってもいいですか」
「ちょうどライター欲しかったから来てもいいよー」

 というわけで、この年の師走からアリスソフトの一員となる。
 ちなみに、デビュー作の〔蒼海に堕ちて…〕は、この年に同社から発売された〔ぱすてるチャイム〕同梱のおまけCDに同梱という形で読み物形式のデジタルノベルとしてすでにリリースされており、それなりに好評だったらしいことを入社後に知る。もし入社してなかったら一生知らなかったかも。
 

1999-2003 : 深まる懊悩

 入社後、メインスタッフ/ヘルプでの参加を問わず、多くのタイトルの開発に携わる。

【PERSIOM】
 入社後の初仕事。シナリオテキストの校正を手がける。

【ママトト】
 ゲーム面のデバッグに初参加。

■■■ メイドのススメ ■■■
 
テキスト/一部スクリプト担当。フルプライスのタイトルにおまけで付くクイズ形式のミニゲームではあるが、メインスタッフとして開発に参加した初タイトルとなる。
 なお、この作品は開発に参加した時点でシナリオプロットの大枠がすでにあり、イベントビジュアルも完成していたので、女の子がひどい目に遭うことはもう完全に確定していた。基本的には指定通りに清書するだけで執筆時の負担も少なく、めっちゃノリノリで女の子をひどい目に遭わせていた。

■■■ 妖精 -Die feen- ■■■
 
企画・シナリオ担当。これもフルプライスのタイトルにおまけで付くことになる。ゲームではなく読み物形式のデジタルノベル。
 上司からの指示は「手の空いたスタッフ3人で好きなものを作っていいよ、ただしエロいの作ってね」という程度で、かなり裁量の大きなものだった。が、座組が小規模すぎて凝ったことができなかったため〔蒼海に堕ちて…〕同様かなり無理してプロットを捻り出すことになる。
 この作品、今にして思えば大してエロくはなかったが、それは時間が経過して客観的に振り返って初めて言えることで、当人としては登場人物たちが状況的にどうしようもなく追い込まれて退廃的な淫行に及ぶことをとてもエロいと思っていたのである。
 もう少しざっくばらんに表現すれば、
「エロ度を上げようとすると、なぜか一緒に物語の鬱度も上がる」
 となるだろうか。
 当人としては鬱っぽいものが書きたいわけでも得意なわけでもなかったのだが、なぜかプレイしてくれたユーザー側からの反応は上々で「文学的な心情描写が得意なライター」という印象が内外で定着。戸惑いを感じつつも「評価されるならまあいいか!」と半ば他人事。この頃はまだ若さ故に気力・体力が汪溢しており、頑張ればどんなものでも書けるはずという思い込みも強かった。

【SeeIn青】
 一部キャラのR18シーンを担当。

【ダークロウズ】
 一部イベントテキスト担当。音声周りのチェック等も。

■■■ 20世紀アリス ■■■
 中~小規模の複数ゲームがワンパックになったバラエティソフト。そのうちADV要素の強い〔これDPS?〕内のシナリオを企画原案から担当。
 これまた本来得意な活劇要素を入れ込む余地がなく、かなり無理矢理プロットを捻り出すことになる。一本の〔Keep out〕は内外からの要請もあってこれまで手がけてきた主たる作品の方向性を踏襲、エロくて鬱っぽい方向に。もう一本の〔Iron maiden〕は突き抜けておバカなノリで最後は幸せになるという形でバランスを取った。
 今にして思えば後者の方がよっぽど自分らしい作品であったが、当時はただ目の前の仕事を全力で片付けるので手一杯。上司からも「お前の作風は躁鬱が激しいな」と指摘される。
 しかし実際、この頃から「会社からは常に女の子がエロくてひどい目に遭うものを求められ、ユーザーには暗くて重いシリアスな作風を評価されるも、自分はそれを書きたいわけでもそれほど得意なわけでもない」という相克に折り合いをつけられなくなりつつあった。

■■■ 大悪司 ■■■

 ついにバトル要素のあるやつキターーーーーーーー!!!!!!!!!
 社運のかかった大作のシナリオをおよそ1/2ほど担当したので超大変だったはずなのだが、もはや楽しかった思い出しかない。
 登場する女の子はみんなエロくてヒドい目に遭うものの、選択次第で幸せになったり、ギャグパートもふんだんにあって、執筆時にうまく精神的なバランスが取れていたのだろう。
 具体的な担当パートは「わかめ組」「オオアナの勇者」「加賀元子」「乃木喜久子」など。中でも「那古教編」「イハビーラ編」などは原案から手がけており、今でもお気に入りの仕事のひとつである。
 同作はアダルトゲーム業界のみならず、サブカル界隈でも話題になるくらいめっちゃ売れたそうな。

■■■ シェル・クレイル ~愛し合う逃避の中で~ ■■■

 企画・シナリオ・ディレクション担当。
 アリスソフト所属時代の代表作と言ってよく、思い入れもこだわりも相応にあるものの、それ以上に精神的な負担が甚大だった。
 とにかくエロいことをしまくる&原画担当の先輩の持ち味を最大限活かす、という開発部長からの指示に対して自分なりに答えを出そうと全力で足掻いた結果、ヤンデレという言葉と概念が誕生する前にそういうヒロインを書いてしまうほど作風が鬱方向に突き抜けたのである。最後は正直ちょっと心が病んでいた。ストレス故か健康診断の数値もボロボロに。
 幸いなことに、プレイしてくれたユーザーの反応は悪いものではなかったのだが、このライターは文学的な心情描写で心を抉りに来るという評価がいよいよ決定的に。
 繰り返すが当人はそんなものを目指したことは一度もない。

【大番長】
 ヒロインの久那妓ほか、一部キャラのR18シーンを担当。
 

 以上、5年間がんばった結果、

「会社に求められること」
「自分がやりたいこと」
「ファンが支持してくれること」

 すべてが違うという、かなり悩ましい状況に陥ることになる。
 

第3部「激闘編」へ続く!

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