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永元千尋 略歴 : 第3部/激闘編


激闘編

2003 : 一度死んだと思って

 〔シェル・クレイル〕発売後すぐにアリスソフトを退社。
 当時あまりに思い詰めすぎて、ホームに滑り込む通勤電車を前に「今飛び込んだら楽になれるかな……」などと考えるような有様で、本人の精神状態としては退社以外にもはや選択肢のないギリギリの決断であった。
 後に聞いたところによると、あまりに突然の退社であったため、説得し引き留めようとしてくださった先輩もいたのだとか。

 そうして大阪を離れ、北海道に移住。
 と同時に、角川スニーカー文庫とのやりとりが始まる。

 一時は死ぬことすら考えていた反動で「だったら死んだ気で本当にやりたかったことを貫くぜ!」と全力で開き直ったのだ。アリスソフト時代に得た実績と知名度がモノを言い営業に成功、担当編集がつくことになった。
 

2004 : こちふかば

 実はここまで本名丸出しで活動していたのだが、世情が変わって個人情報保護が叫ばれ始め、ペンネームを〔こちふかば〕とする。

 その初仕事は、小説誌〔ザ・スニーカー〕にて発表された短編〔お日様は今夜も空を飛ぶ〕となった。

 アリスソフト時代に培った技術と経験を活かしつつ、自分本来の作風へ原点回帰をはかった渾身の一作だったが、諸般の事情により、短編発表以後に予定されていた展開が立ち消えとなる。
 本作は担当イラストレーターを公募する誌上企画に参加しており、短編を提供した5~6作(本作を含む)がいずれ長編として単独で刊行される予定だった。しかし実際に刊行されたのは、後にアニメ化もされた〔円環少女 -サークリットガール-〕ただ1作のみ。
 傑出した結果を残したごく一部の作品以外は存在する価値なしという、商業出版の現実をまざまざと思い知らされる。
 

2005 : 旅立ち

 とはいえ〔お日様は今夜も空を飛ぶ〕を葬り去るのは忍びなく、担当編集および編集部と話し合いを重ねた結果、別の出版社へ持ち込むことが許される。
 ここで〔お日様は今夜も空を飛ぶ〕を〔サイズミック・エモーション〕と改題。当時としてはまだ珍しかったWeb上で小説を掲載し人気作を書籍化するという企画に同作を提供、一定の評価を得たことから、新興レーベルのジグザグノベルズより刊行されることが決定する。
 そうして北海道を離れ、ついに首都圏へ。
 

2006 : 著書出版に漕ぎ着けるも…

 最初に装画と挿絵を依頼したイラストレーターが音信不通になり逃げられるとか、担当編集者が描写を誤読したまま十数ページをまるごと朱筆で潰すなど数々のトラブルを乗り越え、どうにかこうにか出版に漕ぎ着ける。
 特に、ピンチヒッター的に装画と挿絵を担当、通常よりもかなり短い納期の中で充分以上の成果物を上げてくださったイラスト担当のsinoさんには「感謝」の一言以外にない。本当にありがとうございました。

 本作にご興味がおありなら、当時の書籍を購入する他にも、このnote上で実質無料で全編公開中である。

 著者は本作の成功を信じて北海道から上京してきたくらいなので、この一巻で終わらせる気など毛頭なかったのだが、担当編集の逆恨みと裏切りという嘘みたいな理由で続刊の可能性が消滅。さらにアリスソフト時代のファンを名乗る読者から「こんな作品はあなたらしくない」「あなたはもっと読み手の心を抉るような作品を書くべき」などと追い打ちをかけられる。

「うるせえ!!!! 俺はそんなもん目指して書いたことマジで一度もねえんだよ!!!! 事情も知らずに勝手なことぬかすなーッ!!!!」

 と言い返すこともできず、一時は断筆を決意するほど打ちひしがれる。

 そんなある日、ふらりと立ち寄ったホビーショップで、かつて所属していたアリスソフト関係のキャラグッズ(具体的には某超昂天使のフィギュアだった)を見かけたことで一念発起。

「何のために古巣を後にしたのか」
「このまま朽ちてなるものか」

 そうして、命燃やす戦場を求めてLump of SugarというPCゲームメーカーの門を叩くのだった。
 

2007-2008 : 史方千尋

 ほんの3~4年ほど業界から離れている間に、エロゲー業界の趨勢は激変。アニメ化を前提としたメディアミックスが当たり前のように行われ、登場キャラのフルボイス化や販促時のPV展開、クオリティの高い主題歌が使用されるようになっていた。いわゆる美少女ゲーム業界の絶頂期である。
 これを受け、企画・メインシナリオ担当の業務範囲も拡大。音声収録の立ち会い、声優さんや音響監督との打ち合わせ、時には会社を代表しての利害折衝までもが求められるのである。

「いや俺、そんな仕事やったことないんですけど?!?!?!」

 などと泣き言を言う間もないっていうかそもそも企画シナリオ担当者以外に誰が物語の根幹部分やキャラクターの内面について回答出来るのか。
 
とにかくやるしかないと覚悟を決め、ペンネームも心機一転「史方千尋」と改める。
 

■■■ 決戦・空明市! クルル大魔王大地に立つ ■■■
 ファンボックス〔しゅが☆ぽ!〕同梱ドラマCDの台本担当。
 世界設定もキャラクターも自分の手によるものではないが、所属レーベルのメインライターとして既存作すべてを把握して台本を執筆し、かつ収録ブースでは役者陣から上がってくる疑問質問にすべて答えねばならないというなかなかの難作業。
 おかげで莫大な経験値を積ませてもらい、めっちゃ勉強になった。
 

■■■ アズのラビリンス cw/アズを床へ叩きつける歌 ■■■
 作詞および曲中で行われるかけあい漫才の台本担当。
 スウィートでハートフルなラブソングになりました。
 

■■■ タユタマ -Kiss on my deity- ■■■

 企画・メインシナリオのみならず、世界設定、サイト上の販促、情報誌に提供するコメント等に至るまで文芸面全般をすべて担当。バトルあり、恋愛あり、シリアスかつコメディ満載で、当時の自分ができることをすべて注ぎ込むという極めて充実した仕事になる。

「お前らどうせこんなの好きだろ? 俺も大好きだあああああ!!!!」

 そんな意気込みで全身全霊のフルスイングである。
 そして見事にホームラン級の大当たりとなり、後にアニメ化も決定。
 

■■■ タユタマ -It's happy days- ■■■

 前作に引き続き、企画・シナリオほか文芸面全般を担当。いわゆるファンディスクだが、後日談かつ完結編という性質も併せ持っていた。
 ただ、これの制作期間とアニメの制作期間がモロ被りしてしまい、役者さん方から再三お誘いを受けたにも関わらずアニメの収録現場は一度も見学することができなかった。無念。
 

 以上、期間としてはわずか2年間のことではあるが、そこで得たものはアリスソフト時代の5年間に負けず劣らず濃いものだった。
 そのぶん心身の負担も大きく原因不明の高熱で倒れて二度ほど入院したのだが、会社のあった秋葉原のビルに何ヶ月も寝泊まりしてロクに家にも帰らないような生活だったからね。仕方ないね。

 そうしてめっちゃがんばった結果「これだけやれるなら、俺、フリーでもやっていけるのでは……?」と深刻な認識錯誤を引き起こす。
 その後、社の代表と協議。Lump of Sugarを退社して独立することに。
 

第4部「独立編」へ続く!


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