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モンスター紹介:大公家の霊廟

 悪魔と盟約を結ぶことで、旧帝国期の叡智を手に入れた大公オーガスⅠ世。不死者となって定命を超越した彼が居城としたのは、領内の民に絶対支配の呪いをふりまく地の底のピラミッドであり、全幅の信頼を置いた家臣たちもほとんどすべてが不死者だった。
 考えようによっては孤独で哀れな男だが、生者の身で大公麾下の〔不死の軍団〕に挑まざるを得ない冒険者に彼の身の上を察してやる道理も余裕もない。力を妄信した者は力によって滅ぶ、そのことを教えてやるのみだ。
 

オード軍の試練場 B5(TRUE)

主力:
 機械仕掛けの兵士
たまたま巻き込まれた可哀相な人たち:
 オードの騎士 忍者 寺院の正僧 官吏魔術師 腕利きの弓兵

 この階を守る【主力】となる機械仕掛けの兵は、かつて大公の近衛兵を務めていた者たちだ。
 死後に墓を暴き外法を用いて強引に蘇生と若返りを行ったのち、不死者として忠誠を誓う者は霊廟の護衛に就くが、不死者となることを拒んだり何らかの問題があって蘇生が成功しなかった場合、機械仕掛けの兵になる。
 機械仕掛けとは言うものの、魔法的な処理も数多く施されている。特に思考と精神を司る部分に多くのリソースが割かれており、これは洗脳やマインドコントロールの一種と考えてよい。一度は死んだ者たちだが今は厳として生命活動を続けており、ディスペルなどの解呪は通用しない。
 生命の尊厳を踏みにじる、まさに文字通りの外法によって生み出された存在。それがこの〔機械仕掛けの兵士〕である。

 ただ、近衛兵は叙任の儀式において主君に忠誠を誓い、神の名と剣の元にその命を捧げた存在だ。平時における羨望、名誉、そして不自由のない待遇は、有事において主君の命に従い命を捨てる覚悟あればこそ与えられるもの。大公オーガスⅠ世からすれば「お前らの血肉と命はとっくの昔に俺のもの」と考えていても不思議ではなく、外法かそうでないかは些事にすぎず、来たるべき災厄に備えて世界のために最前線で戦える力を授けてやった程度の意識なのかもしれない。
 そもそも、大公自身がもっとも使命と大義の前に己を犠牲にしているわけなので「君主の俺がここまでやってるのにおまえら甘いことばっか言いやがって!」と返されると部下は反論することすら難しい……っていやもうほんとにブラックすぎて笑えんなオード軍。

 【たまたま巻き込まれた可哀相な人たち】は、読んで字のごとくである。試練場最下層で近衛隊入隊試験のため控えていた現役の騎士や忍者たちで、コントロールセンターの警報を聞いて駆けつけてきただけだ。
 冒険者たちが勝利できなかった場合、彼らも生涯を終えた後には「不死者or機械仕掛けの兵士」という選択を突きつけられることになる。それを事前に知っていたら、オード領と軍のために命懸けで働く道は選ばなかったかもしれない。

 しかし、である。

 オーガスⅠ世は生きている兵に外法を用いて不死の軍勢に引き込もうとはしていないのだ。彼の所業について語る者は、この一点を決して忘れてはならない。
 彼に付き従う部下たちは、不慮の死でこの世を去ったか、老いて生涯を終えたか、とにかく一度は己の生を終えた者ばかり。そこに外法で命の火を灯され、若返りまで施され、神の定めた理を破った非を認めて詫びたのちに、世界の現状と真の姿を伝え、さらには「外法に手を染めてでもやれねばならぬことがある」と信念をもって解かれたら……あなたはそれをどう感じて、どう判断するだろうか?
 おそらくは誰もが無碍には断れない。不死者になることにも忌避感は薄いはずだ。「なんかヤバそうだけど言うこと聞いた方がいいかも」とか「一度は終わった命なら外法に捧げてみるのも面白い」とか「世界を救う戦いに私が役立てるなら」とか。
 そう思うと大公オーガスⅠ世、さすがは為政者といったところか。人心を掌握する術を知った上で……って余計にタチ悪いなこのおっさん。
 

大公家の霊廟 1~3

不死系:
 アンホーリィテラー レイス バンパイア スペクター
 ガスト ワイト スケルトンロード リッチ バンパイアロード
悪魔:
 フェイトスピナー レッサーデーモン ソウルトラッパー
 ピットフィーンド イフリート ヒュージグレーター

 まさに強力な不死者のオンパレードである。
 魔窟に出没する同種との違いは「生前に大公オーガスⅠ世の関係者だったか否か」に集約される。特にアンホーリィテラーやレイスは大公の妃や愛妾であったと思われ、生前に大公との間に育まれた愛がそのまま強烈な敵意と呪いになって冒険者を襲ってくる。相応の覚悟をもって戦わなければ、負の力に呑み込まれかねない。充分に注意されたし。

 リッチやバンパイアロードは、旧帝国期から存在し続ける不滅の存在であり、この世に一人しか存在しないとされている。前者はリルガミンの梯子山に住まう魔導師〔ポレ〕のことで、後者は大魔導師ワードナの側近としても知られる〔不死王〕だ。
 ただ、かつてニルダ寺院が壊滅の危機に瀕したさい、魔人ダバルプスの強力な呪いによって通常のバンパイアが強化されて不死王と同等の力を得るというケースが確認されたことがある。この霊廟に出没するリッチやバンパイアロードもそうした正に手合いである可能性が高い。本当の意味で〔ポレ〕や〔不死王〕と同等の存在ではないのだろう。
 ただ、〔ポレ〕も〔不死王〕も、この百年近く存在を確認されておらず、何らかの心算があってあえて大公の麾下に入ったという可能性も捨てきれない。
 その答えは、彼らと干戈を交えた冒険者たちだけが知るのだろう。歴戦の勇士はたとえ言葉を交わさずとも、対峙する者の心を見抜くというから。

 最後に、大公オーガスⅠ世に旧帝国の叡智を授けた〔ヒュージグレーター〕について触れておく。
 グレーターデーモンは群れを形成する知的生命体で、その生態はオオカミのそれに酷似しているという指摘がある。群れの中での序列が厳格に決められていて、頂点に立つ個体は「アルファ」と呼ばれる。それがつまり、このヒュージグレーター(正確にはHuge Greater Demon)なのだ。
 本来なら、ヒュージグレーターの下には数百とも数千とも言われるグレーターデーモンが従っているはずで、小さく愚かな人間との契約など配下に任せておくのが自然だ。アルファである彼が直接魔界から出てきて、大公オーガスⅠ世に付き従う必要は微塵もない。
 しかし、現にヒュージグレーターはここに存在し、大公がもっとも信頼する側近として冒険者たちと敵対することになる。

 もしかすると、大公オーガスⅠ世も大魔導師ワードナや魔人ダバルプスに匹敵する「器」の持ち主だったのではないか。
 そして、そのことを知った巨大で偉大な悪魔が、あえて付き従った……とは考えられないだろうか。
 両者の間には、かのファウストとメフィストフェレスのような隠された物語があったのかもしれない。が、それを知る術はもう無いのだろう。

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