アイドルの恋愛禁止について

 偶像=アイドルとはよく名付けたもので、かつて数多の偶像がそうであったように、勝手に祭り上げられ、都合が変われば一転して貶められて打ち捨てられるという面が、少なからず存在します。
 日本の女性アイドルが貶められるタイミングは、恋愛禁止関連が多いのが実情です。
 私自身は乃木坂46を応援していますが、一年程前に欅坂46についての記事で書いた通り、恋愛禁止ルールはナンセンスだと思って来ましたし、それは今でも全く変わりません。
 以前少し書いたこともありますが、ここで改めて。

・恋愛禁止のルーツ

 恋愛禁止のルールは、芸能界の昭和的な価値観による抑圧がルーツの一つだろうと思います。
 三十年以上前の昭和末期に、『ママはアイドル』というドラマがありました。アイドルが子持ちの男と結婚してそれをひた隠しにする日々の中で起こるドタバタ劇で、最後は結婚がバレて記者が押し掛け、それをファンが庇ってめでたしめでたし、という感じでした。
 そういうストーリーになったのは、昭和の価値観では非現実的だったから、でしょう。令和の現在でも、その構図は根強く残っていると思います。

 ただそれは、基本的には実利的な理由から、判断されていたと思います。
・人気が下がる
・結婚して引退されてはこれまでの投資が無駄になる

 というのが主要な理由でしょう。ただ結局それも明確には示されず、内部的なルールに過ぎないもの、と言えそうです。
 ちなみに最近、近年のアイドルの文化を形作ったAKB48の恋愛禁止ルールについて、前田敦子がテレビで語ったことが記事になっていました。

 簡潔にまとめれば、前田敦子が恋愛がうまく行かなかった際に精神的に落ち込み、アイドル活動に支障を来したため、その後は恋愛禁止になった、ということです。言い換えれば、それまでは恋愛禁止ではなかったし、その前提で人を集めたわけでもなかったのでしょう。
 すなわち、アイドルといえば恋愛禁止、という前提は自明なものではなく、内部ルールに過ぎない、ということです。これは乃木坂46でも同様であろうと思います。

・運営側の態度

 ただ、恋愛禁止が長い間言われ続けて共通認識として定着してしまった以上、運営側がはっきり言わない限りは、既成の認識で見られてしまいます。メンバー側からもその類の発言は時々見られます。
 運営側もそのことは承知しているはずですが、特に言明はなく、今後もないでしょう。
 恋愛禁止とはっきり打ち出さないのは、世界に知られる「ソニー」の名を冠したレコード会社が、人権侵害である恋愛禁止を公に宣言するのはコンプライアンス的に不可能、という説を見た覚えがあります。
 それが本当かどうかは分かりませんが、裁判になれば恋愛禁止が人権侵害とされることは明らかなので、当たらずとも遠からずでしょう。
 実際、判例もあるようです。

 逆に恋愛解禁とも言わないのは、売上への影響を懸念していることは否めません。
 恋愛OKのアイドルのCDなんか売れない、と言う人もいます。
 私にとっては、乃木坂46の歌やダンス、テレビやラジオでの振る舞いにこそ価値があるのであって、彼女達が恋愛をしていたら商品価値が無になる、と当然のように語られるのは、到底肯けない話で、極論だと感じます。
 実際、活動を続ける中で結婚するアイドルも出始めていますし、プライベートを尊重するファンも多くなっていると思います。そして、アイドルと実際に付き合えるなどと思っている妄想バカは、実際にはほとんどいないでしょう。
 しかし、真剣に怒ったり、叩いてやろうとまでは思わないけれど、一応は恋愛禁止であるべき、となんとなく思っていた人は多いでしょう。そして運営側が具体的に気にしているのも、そうした層が離れて売上が下がるのでは、ということのはずです。

 そんな人は、自分が関心のないグループのスキャンダル報道で誰かが叩かれていたとしても、基本的には特に何も思わず、何もしないでしょう。昨今のニュースの氾濫状態からすると、知りもしないうちに埋没している可能性もあります。
 しかし、自分が推しているメンバー、そうでなくても好きなグループのメンバーが叩かれる状況になると、途端にモヤモヤする。人間はそういうものだと思います。

・何故応援しているのですか?

 極端な恋愛否定派には何を言っても無駄なのですが、そうしたモヤモヤする人に改めて考えて欲しいのは、

A:アイドルの何に価値を置いて応援しているのか。
B:その価値は恋愛によって無になるものなのか。
C:アイドルが恋愛を始めとしたプライベートを制限されることは妥当なのだろうか。
D:アイドルが未熟だとしても、それを許容出来る理由は何だろうか。

といったことです。

 私の答えは、A,Bは既に書いたので割愛して、
C:「芸能人全般に言えることだが、プライベートのことで他人にどうこう言われる筋合いはない」
D:「自分が未熟であることを知りつつ、将来が不安定であることも知りつつ、学歴や資格取得もせず、アイドルとしての努力・活動に勤しんでいることへのリスペクトがあるから」
 となります。恋愛容認派の私ですので、当然こうした答えになります。
 私の答えを押し付ける気はありませんが、ルールだから当然、で片付ける前に、一度こうしたことを考えてみて欲しいのです。

・最後に

 応援するにあたっての考え方は人それぞれです。
 ファンも欲望を持った人間ですので、アイドル(に限りませんが)を応援することで、自分の人生を豊かにしたい、喜びを与えてもらいたい、と思うのは当然です。そのための代価も払います。
 しかし仮にもファンを自認する者ならば、そのアイドルのより良い人生をも願えないものなのか、と思うわけです。
 人間が恋愛をするというごく自然な活動を封殺して奉仕させることは「ファンの夢」とは到底言えないでしょう。若い女性の人生を束縛し、支配した気になって悦に入りたい、醜悪な欲望としか言い様がありません。

 増して、アイドルが数年の活動の成果として、とんでもない大金を稼いだり、金持ちの玉の輿に乗れる時代ではありません。大した代償も得られないのに犠牲を払うことを要求されるなど、自分がその立場になれば決して許容しないでしょう。
 アイドルに恋愛禁止を要求するのは、「俺はそんな犠牲を払う気はないけど、お前らはやれ」と言っているに等しいことだと、私は思うのです。 

 まあ、ここで何を書いても、何かが変わることはないでしょう。半分以上は、私の考えを整理するために書いただけです。ですが万が一、誰かが考え直すきっかけになったとしたら嬉しい、と妄想しています。
 読んでくれた方、ありがとうございました。 


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