「Dr.STONE」は経済をどこまで描くのか


「Dr.STONE」という週刊少年ジャンプで連載しているマンガがあります。全人類が正体不明の光線で石化し、偶然よみがえった高校生が科学の知識で文明の復活を目指す物語。今のところいい科学マンガ。この先社会制度、経済や金融の仕組みをどこまで描くのか気になっています。

原作、稲垣 理一郎さん、作画、Boichiさんという黄金コンビで面白くないわけがないのですが、想像以上に先が楽しみな展開です。

男女の役割のバランスもよく、現実社会を知った大人が読んでいてもひっかかることが少ない。

マンガ新聞でレビューも書きました。

「『Dr.STONE』で振り返る人類史マンガで知る身近な発明品」

※以下、週刊少年ジャンプのネタばれがあります。ネタばれNGの方は申し訳ないのですがページを閉じていただきますようお願いします。


人をつなぐメディアとしてのお金

 量の関係でこのレビューで描かなかったこぼれ話が、貨幣の誕生です。

 千空らが光線の原因を探ろうと復活させようとしているのが帆船。で、当然船といえば船長はじめ動かす人が必要です。そのために、わがままなぼっちゃんだけれども船を操る腕はピカイチという七海龍水を復活させます。

 船を作り、燃料を調達し、長距離を航海するーーこうしたプロジェクトには多くの人の力が必要。千空らが取りかかる「光線の原因を探る旅」は物語の中でほとんどはじめてより多くの人の集めることが求められることになっています。

 ここで人々をつなぎ合わせるのが「お金」。といっても、日本円とかドルとかではなく、紙幣の原版を作り、スタンプしたもの。「原油の採掘権」をもとに、龍水が発行します。・・・これって、オイルマネーですよね。

 そしてこの権利をもとに、通貨「ドラゴ」を発行。千空らは、彼から原油を買うために、ドラゴを稼ぐ必要があります。それは千空の発明品を販売したり。もちろんその「お金」は村に出来た市場のようなところでモノを買うのに使えます。すると、ほかの村人も、貨幣を中心に動き出します。

 途中で油田発見(のための気球の素材になる布の製造)が難しいかもと思われると、そのために人を動かそうとします。するとメンタリストが「暴落して価値がなくなるかも」とうわさを流すことでむしろ、すでに「お金」を手にした人たちを動かしていくのです。

 この一連のエピソードに、お金の誕生と、人の連帯を促すメディアとしての「貨幣」「お金」の力を見ました。そして、「あいつは原油を発見する」という信頼さえあれば貨幣の発行は可能であることも。現実のお金も、裏付けとなる実物資産があるわけではなく、国などへの信頼から発行されているのです。

 もちろん千空の仲間には、お金なんかもらえなくても協力する人もいます。でもそこまで連帯力が強くない人、少し遠い人を動かすには、共通の価値を体現する媒介するもの=メディアが必要なのだなと実感しました。

 なおこのあと、千空らのチームは狩猟採集社会から、農耕社会に向かいます。ここで実際の歴史に即して考えると、農耕によって富が蓄積され、その蓄積されたもみ殻などを貸し出すことで金融が始まる・・・はず。

 史実上、最初の金融の担い手になっていた、宗教団体(教会、神社、寺院)は果たして生まれるのか。それは誰が担うのか。どうやって貸しだし金利を決めるのか。貨幣の鋳造は始まるのか・・・久しぶりに先が気になる作品となりました。


「文系」は役に立つのか?

 「Dr.STONE」のようなサバイバルマンガを読んでいると気になるのは、「いわゆる『文系』といわれる人はこの世界で役に立つのか」という疑問です。

 私は文系というのは、数字ではなく言葉で社会を理解し、描写しようとする人のことだと思っています。

 確かに運動神経のいい人や力の強い人、科学の知識を持つ人の方が当初は力を発揮できそうで、実際に「Dr.STONE」でも当初活躍するのはパワーと科学の知恵です。

 ただ、物語が進むにつれ、いわゆる「文系」と日本で分類される人たちにも活躍の場所が出てきます。

 それは交渉の場面であり、言葉で人を動かす場面であり。もしかしたらこのさき、社会の仕組みを作るということになれば、立法知識なども必要かもしれません。経済学の需給曲線、行動経済学のような心理学的な側面も、社会の設計には不可欠です。

 ※まあ経済学は実際のところ、数字でいろいろな現象を理解しようとするので数学に近いのですが。

 ということで、私は「Dr.STONE」の世界で、金融機関が登場し、キャラクターらが資金調達に動き出す日を楽しみにしています。

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