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αM2018「絵と、 」vol.2 藤城嘘-作品ノート その1

浅草橋(馬喰町)にあるギャラリー、gallery αMにて、藤城嘘の個展が開催中!6月中旬から始まった展示も、来週末には終わってしまいます。本展は2013年からの5年間の展示で作られた大作5点と、2018年に制作された新作4点によって構成されており、このように大作の構成で展示がされるのはまたと無い機会。是非ご高覧いただきたく思います。ギャラリーには「作家の本棚」として私の選書コーナーもありますし、ギャラリーの方が冷たいお茶も用意してくれています。酷暑が続きますが、会場に足を運び、ゆっくりご覧いただければと思います。
さて、このnoteでは、会期終了までのあいだに出展作を1点ずつ紹介させていただこうと思います。私は自作を脳内で客観的に分析・整理してしまうクセがあるのですが、良し悪しとはいえ作品理解の補助になる部分があるなら野暮と切り捨てることもないかな、と…wまた、この作品解説を機に個展を見に来ていただけたら(むろん二度三度と足を運んでいただけたら)嬉しく思います。

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《モストポズニダム》2018年
P100号パネルにアクリル

本作は「文字」をテーマにしたシリーズの一環。
私は絵に本格的に取り組むようになってから、正確な描画にどこか抵抗を持ちながら制作を続けてきたところがある。美術予備校に通っていた時期、「基礎的なデッサンは2,3ヶ月毎日集中して訓練すればだいたい誰でも上手くなる…」と周囲の学生を見て肌で感じた私は、生真面目なデッサンがつまらなくなった(だいたい、"石膏像あるある"のようなベタなアカデミックネタが回る世界がくだらないと思っていた)。その結果私はデッサンの時間、いろいろな形の円(正確に言えば、必ず最後に最初の地点に戻る描線)を繰り返しひたすら描いて円の集積が物の形になっていくようなドローイングスタイルをとっていた時期がある。私はこれを「サークルドローイング」と名付けている。

文字のフォルムの解体というアイデアも、実は「サークルドローイング」の延長線上にあると言っていい。描かれている文字は、その象形のアウトラインを何度もなぞるようなグズグズの曲線で成り立ち、袋のようなかたちが重なり合い、ますます読みにくい。造形はグラフィティ文化における文字のフォルムには似通っているところがあるが、基本的には書道やタイポグラフィのような、規範が厳しく、あらかじめテクニックの研ぎ澄まされたフィールドで取り扱われるものとは別のルールで、文字の造形を自由に扱ってみたいと考えて制作している。誤字・脱字のようなエラーを積極的に文字に起こさせ、独特の鑑賞体験を目論み、時にだらしなく、時にコントロールされ、普段見せないような表情を文字が見せる。それがいったいどのようなビジュアルに発展できるか、引き続き考える必要がある。

(撮影:水津拓海(rhythmsift))

もうひとつ、本作は様々な時代のモノクロームのペインティングも少し意識しながら描いた。白と黒のそぎ落とされた階調で作品を作ってみたいと思っていたところもあるが、この「文字」のシリーズがトゥオンブリーやリヒター、あるいは韓国の抽象画などともネットワークを作れないかと考えたからでもある。

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『絵と、 』vol.2 藤城嘘
キュレーター:蔵屋美香(東京国立近代美術館 企画課長)
会場:http://gallery-alpham.com/
2018年6月16日(土)~8月10日(土)11:00~19:00
日月祝休 入場無料

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