春の美術入門書〜初学者や作り手のための〜

本を読まない学生は多い。

美大生ならなおさらかも知れない。いや、いわゆる"一般人"も、エンタメ小説やマンガしか手にとらないのかもしれない。私自身も、大学に入って「批評家」という人種に出会わなければ、こんなに嘘みたいに本を買いあさったりしなかったかもしれない。(もっとも半分以上を読まずに積んでいるのでなおさら意味が分からない)

しかし、アーティストが知るべき言説の世界があるのは事実だ。芸術は常に、アーティストや作品を、「人工的」に誰かが評価したり、発見したりして、今に続いている。みんなが「綺麗だ」としている印象派の絵画だって、中世の世界に持って行ったら、文化様式の違う地域に持って行ったら、見向きもされないかもしれない。逆にもちろん、昔は評価されていなかったものを道具にして、現代について考えることもできるだろう。多くの現代人が共通感覚だと思っている「美」でさえ、各々の時代の作品と、様々な時代の言葉が「人工的」に作り出していった歴史の上にある。それは、まず知っておくべきだろう。
ましてや近現代美術は、何も勉強しない状態で対峙しても、嫌悪感すら湧きかねないだろう。本気で現代美術へ足を踏み込むなら、幅広い種類の知識にかじりついておく必要がある。
※4/9 一部配慮に欠けた表現を修正いたしました

堅苦しい導入になってしまった!読みやすい本を並べるつもりだったのに!!ということで、こんなクドクドした説教を読んでいる暇があったらはじめの一歩として今すぐ読むべき美術入門書を20冊選んでみました。ただ、私自身は批評家でも美術史家でもないので、あくまで近現代美術を理解する上で強く印象に残っている読みやすい本を紹介する。特に美大新入生や受験生も手に取りやすく早いうちに読んでおきたいものばかりなので、学校の図書館でもいいから手にとって見てほしい。


1.岡本太郎『今日の芸術—時代を創造するものは誰か』(光文社知恵の森文庫)
必読オススメ度:◎◎ / 読みやすさ:★★★★ / 手に入りやすさ:★★★★
巨匠岡本太郎の優しくかつ情熱的な言葉。まずはこれを手に取れば大枠で現代美術の捉えかたは掴めるかもしれません、この本から解像度を上げていって損はないかと思います。

2.デイヴィッド・ホックニー、マーティン・ゲイフォード『絵画の歴史 洞窟壁画からiPadまで』(青幻舎)
必読オススメ度:◎◎◎ / 読みやすさ:★★★ / 手に入りやすさ:★★★
つい最近出た本の中ではとてもアツくわかりやすく「Picture」の歴史が紐解かれています。値段が高いのはネックかもしれませんが、巨匠ホックニーの慧眼にぜひ触れていただきたい。勉強になります。

3.スージー・ホッジ『5歳の子どもにできそうでできないアート: 現代美術(コンテポラリーアート)100の読み解き』(東京美術)
必読オススメ度:◎ / 読みやすさ:★★★★ / 手に入りやすさ:★★★★
教科書的といえば教科書的ですが、近代の画家からターナー賞受賞作家を含む現役の現代美術家までが、とてもわかりやすく言葉になっているので、初心者が手に取る"カタログ"としてとても良い本ではないかと思います。

4.エルンスト・H・ゴンブリッチ『美術の物語(ポケット版)』(ファイドン)
必読オススメ度:◎◎◎ / 読みやすさ:★★★ / 手に入りやすさ:★
高名な「美術史家」というものを知ったのは、この本が初めてだったかもしれません。とてもわかりやすい西洋美術の通史のひとつです。せっかくポケット版ができたのにまた絶版状態ですが、図版も充実しているのでどこかで手にとって見てほしい一冊。

5.ケネス・クラーク『芸術と文明』(法政大学出版局)
必読オススメ度:◎◎◎ / 読みやすさ:★★★ / 手に入りやすさ:★★
ゴンブリッチと比肩する美術史家で、『美術の物語』と同じく多量の図版も収録。2人を相対化するのにちょうどいいかと思います。本書はテレビ番組シリーズの書籍化なので語り口も軽妙。ちょっと高めですが、手にして損はない本です。

6.ジョン・バージャー『イメージ—視覚とメディア』 (ちくま学芸文庫)
必読オススメ度:◎◎◎ / 読みやすさ:★ / 手に入りやすさ:★★★
『芸術と文明』の後に放送されたテレビシリーズの書籍化です。上記の2冊とはまた全然違うアプローチで「イメージ」そのものの受容の歴史を紐解くことができます。美術史というよりものの見方史、重要かつ手に取りやすい本です。

7.ダニエル・アラス『モナリザの秘密—絵画をめぐる25章』(白水社)
必読オススメ度:◎◎ / 読みやすさ:★ / 手に入りやすさ:★★★
タイトルはちょっとした入門書感がありますが、内容はガッツリと徹底的な絵画の読み解き。元がラジオ番組とはいえ、密度が濃くとっつきにくさはありますが、フランスの美術史家・アラスのあまりに緻密で執念深い分析は、読み進めるほどに感動すら覚えます。目から鱗の本。

8.小松左京、高階秀爾『絵の言葉』(青土社)
必読オススメ度:◎◎ / 読みやすさ:★★★ / 手に入りやすさ:★★★
SF作家と美術史家が対談形式で近代絵画を語らう形式の、やさしい絵の見方。絵の文法、イコノロジーについて日本人が考えるときによい入門書となっているでしょう。

9.高階秀爾『日本近代美術史論』(ちくま学芸文庫)
必読オススメ度:◎◎◎ / 読みやすさ:★★ / 手に入りやすさ:★★★
「日本近代美術」の通史って、教科書以外だとなかなかありません。本書は近代の夜明けから様々な美術家がどのようなことをしたか、読みやすく書かれています。「こんな本あるならはやく教えてよ!」という本。『20世紀美術』も作家論としては同じくオススメです。

10.林道郎『絵画は二度死ぬ、あるいは死なない』(ART TRACE)
必読オススメ度:◎◎ / 読みやすさ:★ / 手に入りやすさ:★★
モダニズム絵画を理解するのに、まずはこの本が読みやすい。ちんぷんかんぷんな現代絵画の、ある分かりやすいひとつの語り口を与えてくれる本でした。レクチャーの書籍化なのでサクッと読めます。

11.赤瀬川原平『東京ミキサー計画:ハイレッド・センター直接行動の記録』(ちくま文庫)
必読オススメ度:◎◎ / 読みやすさ:★★★ / 手に入りやすさ:★
学生時代に最も面白く読めて、そして最も私に「前衛芸術家」像を与えてくれた本です。当時20代半ばだった彼らの限りなく悪ふざけに近い「ハプニング」たちはとてもエキサイティングだし、逆に「私たちが歴史に残ること」をも考えさせられる名著です。

12.中ザワヒデキ『現代美術史日本篇1945-2014: ART HISTORY: JAPAN 1945-2014』(アートダイバー)
必読オススメ度:◎◎ / 読みやすさ:★★★ / 手に入りやすさ:★★★
美術家・中ザワヒデキによる独自の史観で分かりやすく2014年までの日本美術の状況が解説されています、数少ない日本美術シーンの網羅書!

13.大野佐紀子『アーティスト症候群-アートと職人、クリエイターと芸能人』 (河出文庫)
必読オススメ度:◎ / 読みやすさ:★★★ / 手に入りやすさ:★★★★
「結局そのアートってなんなんだよ?」「で、それってどのアート?」と、日本社会の中で、世論の中で、世間の中で、度々迷わされることがあります。だいたい、一般に「アート」の定義が広すぎる。そんなポイントを考えたいとき読む本です。

14.辻惟雄『奇想の江戸挿絵』(集英社新書ヴィジュアル版)
必読オススメ度:◎◎ / 読みやすさ:★★ / 手に入りやすさ:★★★★
学生時代は日本美術に疎かったのですが、辻先生の本にはあまりにグラフィカルで刺激的な絵を取り上げていて衝撃でした。代表作『奇想の系譜』もオススメです。

15.村上隆『芸術起業論』(幻冬舎)
必読オススメ度:◎◎◎ / 読みやすさ:★★ / 手に入りやすさ:★★★★
海外のアートマーケットで唯一といっていい成功をしている日本美術作家、村上隆の、その思想が凝縮された本。画学生が手にするとドハマりします。忌避せず一度は開いてみるべし。

16.ブルーノ・ムナーリ『芸術としてのデザイン』(ダヴィッド社)
必読オススメ度:◎◎ / 読みやすさ:★★★ / 手に入りやすさ:★★★
急に趣向を変えて、実践編、制作者の思想として。ムナーリの前衛性とデザイン思考がブレンドされた言葉のひとつひとつ、決して色褪せず、とても心に響きます。造形の本質を優しく語りかけるこの本は、美大生必読では。

17.パウル・クレー『造形思考(上/下)』 (ちくま学芸文庫)
必読オススメ度:◎ / 読みやすさ:★★ / 手に入りやすさ:★★★
クレーが、1からいかに描画システムを構築していったかが細やかに見て取れる、充実のテクストです。美術家たるもの、自分の宇宙観は自分で発明していくのが理想です。かなりボリュームがありますが、パラパラと参照していける本です。

18.石岡良治『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)
必読オススメ度:◎◎ / 読みやすさ:★★★ / 手に入りやすさ:★★★★
美術・アニメ・映画・ゲーム・音楽、縦横無尽にカルチャーを往還する石岡さんの主著で、大衆文化の分析について大枠をつかむのにはとてもいい本です。

19.東浩紀『動物化するポストモダン オタクから見た日本社会』(講談社現代新書)
必読オススメ度:◎◎◎ / 読みやすさ:★★★ / 手に入りやすさ:★★★★
21世紀の社会を考える上で、一度は手にとってみるべき名著。オタクの文化消費から考える、「データベース消費」は、今の我々にとってあまりにも分かりやすいし、「ポストモダン」についても手に取るように時短で把握できる。幾度も立ちかえりたくなる一冊です。

20.東浩紀『ゲンロン0 観光客の哲学』(株式会社ゲンロン)
必読オススメ度:◎◎◎ / 読みやすさ:★★ / 手に入りやすさ:★★★★
続けて東氏の最新の主著。美術の未来を考える上でも欠かせない論点が満載でありながら、大変読みやすい。この社会状況でどのようなアプローチをすべきか考えるのには、まずこの本。

以上、もう少し俯瞰的に芸術全体を考えたり、あるいは書やポップアートなど細かく分野を絞ればオススメするべき本はたくさんありますが、それはまたの機会に。。!

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