沙雪

―雪桜ー ゆきさくら

1:「雪の妖怪親子が入居してきた」

 香川弘樹は、万年空き室のアパートのオーナーをしていた。

 徒歩2分で保育所。徒歩10分で小学校。徒歩15分で中学校。

 近くのバス停から10分で駅に行ける。という交通の面も含めて立地条件は有用なのだが。

 利用者がいない。

「はぁ~。来ないかな? アナログとデジタル路線で攻めているのだが」

 今日も空き家のアパートの周辺の落ち葉を履いていた。

「来たとしても、某駄狐だしなぁ」

 数年前に押しかけてきた少女を懐かしそうに思い出す。

甘くて、儚くも。線香花火のような学生時代の思い出だった。

「あの。すみません」

 妙齢の女性が弘樹に声をかけた。その女性の後ろに隠れるように小さな女の子がジーと

様子をうかがっていた。

「はい? なんでしょうか?」

 弘樹は、ほうきを塀に立てかけ。彼女に向き合った。

「このあたりに、メンタルケア心理士の勉強しながら、アパートのオーナーをやっているという噂を聞いたのですが」

「それ、お。ではなく。こほん。私です。初めまして、香川弘樹といいます。

ご入居を希望されるのですか?」

「はい。長期希望なのですがよろしいでしょうか?」

 女性は少し不安の色を見せながら、彼に頼み込む。

「わかりました。では、部屋の内部を見てから決めましょう。そのまえに」

 弘樹は、ポケットからウサギのフィンガーパペットを指に着けて、女の子の目線に合わせて腰をかがめた。

 ビクッと女の子は驚いて女性の後ろに必死に隠れる。

 その様子を見て、弘樹は優しく微笑んだ。

「ぼくは、ここのオーナーウサギ。ひろです。よろしく~!」

 と変な声色で、女の子の緊張を解こうとした。

 女の子はぷっと小さく噴き出して、ウサギに興味を持った。

「そのうさぎ、いじっていい?」

 女の子は恥ずかしそうに聞いてきた。

「うん。どうぞ」

 ウサギのフィンガーパペットを女の子の掌に乗せた。

「ありがとうございます。沙雪。ありがとうは?」

「あり、がとう」

沙雪という女の子は、恥ずかしそうに小さな声でお礼を言った。

「どういたしまして。沙雪ちゃん。沙雪ちゃんのお母さんでいいですよね?」

「申し遅れました。私は、沙雪の母。南川雪江といいます。よろしくお願いします」

弘樹は、部屋の内部を実際に見せて、料金の相場とカーポートを含めた代金を示した。

「以上で、よろしいでしょうか?」

「はい。ご丁寧にありがとうございます。沙雪は、近くの学校に行かせようと思いますが、徒歩でどれくらいでしょうか?」

 沙雪は「学校」という単語を耳にして、ビクッと怯えた。

「がっこう・・・・? やだ。いきたくない」

「沙雪? でも、行かないと生きていくのは難しく」

「いきたくない!」

 沙雪は、母親である雪江の言葉を遮った。

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