ボーイング 737 Max

ボーイング社製の 737 Max が先々週の日曜日にエチオピアで離陸時に墜落した事件が、大きな注目を集めています。去年の10月にインドネシアで墜落した 737 Max と事故の状況がとても似通っているからです。特に鳥との衝突やエンジンの故障などの報告もなく、離陸直後に機首を上下させた結果、地面に衝突しているのです。

737 Max はボーイングが 737 を市場のニーズに合わせて改良を施した、低燃費を実現する最新鋭機種の一つで、世界中で導入が進んでいます。

しかし、この事件を受けて、機種の不具合であるという可能性から、中国とインドネシアがすぐに 737 Max の飛行を禁止し、ボーイングの株価は急落しました。米国政府は、当初は「機種の不具合であるとは断定できない」と飛行禁止には否定的でしたが、エチオピアで墜落した飛行機のフライトレコーダーの情報が公開され、「737 Max は危険な飛行機だ。安全性が確認されるまで飛行禁止にすべきだ」という声がマスコミやネットで高まり、米国政府も飛行禁止に踏み切りました。

事故の原因に関しては、色々な憶測が飛び交っていますが、現時点でもっとも可能性があるのは、737 Max に導入された MCAS という失速を防止する装置が、パイロットの意図に反した動きをし、その結果、墜落してしまった、というのものです(参照:Boeing 737MAX, LionAir Update!! - MCAS?、注:ビデオなので音が出ます)。

737 は、1965年にローンチされた歴史のある商用飛行機ですが、その大きさと航続距離が航空業界のニーズにマッチしているため、世界でもっとも販売台数の多い商用飛行機となっています。

ボーイングは、これまで 737 に数々の改良を加えて来ていますが、最新のモデルは 737 Max で、これはより大きなエンジンを搭載することにより、従来よりも17%の燃費の向上を売りにしています。

より大きなエンジンを搭載するため、エンジンの取り付け位置をオリジナルの位置から変更しましたが、その結果として飛行機のバランスが変わってしまいました。そのバランスの違いを極力パイロットから見えなくするために取り付けられたのが、MCAS(Maneuvering Characteristics Augmentation System)と呼ばれるシステムです。

MCASは、急上昇の際の失速を防ぐため、失速しそうな状況を感知すると自動的に機種を下げる仕組みになっていたそうです。つまり、737 Max は旧来型の 737 よりも失速しやすく、旧来型の 737 に慣れたパイロットが間違って 737 Max を失速させてしまわないような安全装置の役割と果たしているのです。

今回の二つの墜落で疑われているのは、このMCASに機種の角度を伝えるセンサーの不具合です。このセンサーに不具合があると、失速をしてもいないのにMCASが機首を勝手に下げてしまいます。それに驚いたパイロットが機首を上げても、再び MCAS が作動して機首を下げてしまうため、結果として墜落してしまう、というのです。

さらに問題視されているのは、ボーイングがMCASの存在を737のパイロットたちにちゃんと伝えていなかった点です。飛行機のパイロットは、様々な計器からの情報を受けて即時に対応するように訓練されていますが、MCASのようなシステムの存在を知らなければ、なぜ自分が機首を上げようとしているにも関わらず機首が下がり続けるのかが理解できず、適切な対応が出来ないのです。

今回の件は、私のようにユーザー・インターフェイスのデザインに関わっているエンジニアにとっては、とても良い勉強になる話です。このケースのように「ユーザー(パイロット)のために良かれと思って導入したシステム」が逆に使い勝手を悪くしてしまうことは、パソコンやスマホ向けのアプリケーションでもしばしば起こる話です。

特に今後、自動運転やARの技術が進んでくると、「どこまでをユーザーに任せ、何を自動化するか」という線引きが難しくなって来ることは明確です。

私自身も Tesla のオートパイロットで一般道を運転していると、予想外の動きをされて、慌てて手動操作に切り替えることがしばしばあります。今はそんな状況に陥ることが頻繁なので(皮肉なことに)安全ですが、それが数ヶ月に一度しか起こらないようになった時が逆に危ないと思います。

この記事は、メルマガ「週刊 Life is beautiful」からの引用です。毎週火曜日、米国のIT事情やベンチャー市場、および、米国と日本の違いなどについて書いています。

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