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ガチな起業話4:Ignition Partners

Ignition Partners の一員として働いたのは約8ヶ月ですが、色々なことが学べました。VC(ベンチャー・キャピタリスト)がする仕事を一通り経験出来たのが良かったのはもちろんですが、VCの弱点のようなものを直接目の当たりにすることが出来たのは非常に貴重な経験でした。

私が Ignition Partners で働いていた時期(2000年の1月から8月)は、インターネット・バブルの真っ最中で、市場は公開市場も未公開市場も異常にまで加熱していました。

VCは、ビジネスモデルよりも人を重視して投資する傾向があるので、一度でも投資家に大きなリターンをもたらすExit(上場、もしくは売却により、創業者や投資家に利益をもたらすこと)をした起業家が作った会社にとっては、加熱した市場は、絶好の「売り手市場」(起業家側がお金を集めやすい市場)になります。

典型的な例が、Seven Networks です。Bill Nguyen というシリコン・バレーの起業家が設立したばかりの会社で、私から見れば大した技術を持っている会社には思えませんでしたが、Bill がその前に作った Onebox という会社が Openwave によって $850 million で買収されたばかりだったこともあり、他のパートナーは最初から投資するつもりで交渉を始めてしまいました。

結果的に、$25 million を投資して会社の25%の株を持つ(つまり、投資後の企業価値は $100 million)というとんでもない高値での投資に合意してしまいました。その後、Seven Networks は鳴かず飛ばずで、Bill は 2005 年には会社を去ってしまいました。

もう一つの例が、Free Web という無料のダイアルアップ・インターネット・アクセスを提供する会社への投資です。

VC のパートナーたちは、通常のファンドからの投資に加え、将来性のありそうな会社に自分のお金を投資したりもしますが、特に上場間近な会社をポートフォリオに持つVCの場合、そこにパートナー個人のお金を入れたり、仲の良いVCのパートナーたちに株を融通したり、ということをしています。

Free Web は、Ignition Partners と関係が深かったシリコン・バレーのVCが育てていた会社で、そこから、「上場が間近だけど、少し株を分けてあげても良いよ」という話が来たのです。私以外のパートナーたちは大喜びで(個人のお金で)株を購入しましたが、私だけは、Free Web のビジネスモデルに納得が出来ず、(ラッキーなことに)手を出しませんでした。

結果として、その数ヶ月後にインターネット・バブルは崩壊し、Free Web の上場はキャンセルになり、間も無く倒産してしまいました。

Seven Networks にしろ、Free Web にしろ、インターネット・バブルさえ続いてくれれば、良い投資になった可能性は高いと思いますが、「バブルがいつ弾けるか」を予測することは誰にも出来ないのです。

Ignition Partners のメンバーは、誰もが Microsoft や AT&T で成功を収めたとても賢い人たちでしたが、例えそんな人たちであっても、インターネット・バブルのような熱狂に巻き込まれてしまう様子を目の当たりにすることが出来たのは、とても良い経験でした。

Ignition Partners での私の仕事は、ベンチャー企業の技術評価でした。最低限の条件を満たしたベンチャー企業だけでも月に50件はあったので、送られて来た技術資料に目を通し、新規性があるのか、実際に役に立つのか、差別化要因になるのか、などを評価したのです。

Ignition Partners は、ワイアレス・インターネットのジャンルにフォーカスしていたため、「携帯電話向けのポータル」、「携帯電話向けのメールサービス」 などを提案する企業からのビジネスプランが多かったのですが、私から見ると、どれもありきたりで、新規性もなければ、技術的にも難しくもなんともないと感じられました。

逆に私の目を引いたのが、無線やディスプレイなどのハードウェア技術の会社でした。Ultra Wide Band (広帯域を使った無線技術)の TimeDomain、反射型ディスプレイ技術の(玉虫の羽と同じ仕組みで色を発生する技術)Iridigm、複数のアンテナを使ってそれぞれの携帯電話に効率よく信号を送る技術の会社(会社名は忘れました) などです。

それぞれの会社の研究者が書いた技術論文まで丁寧に読んで技術評価をするのは、とても良い勉強になりました。今でも、面白そうなベンチャー企業を見つけると、ウェブサイトで紹介されている技術論文を丁寧に読んだりしますが、それは、この頃についた習慣だと思います。

それと同時にしていたのが、Qualcomm に対するコンサルティング・サービスです。Qualcomm は、LP(Limited Partner)として Ignition Partners の1号ファンドに $40 million (40億円強)を出資していましたが、その投資の1番の目的は、Microsoft の元幹部たちと近い関係になり、戦略アドバイスを受けることにありました。

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