紙不足の背景、紙業界の個人的な現状認識と個人的な展望予測

マジで今紙がない

紙がない。業界はもうほぼ異常事態レベル。

2018年11月頃に発表され、今年2019年1月から実施された洋紙メーカー各社の洋紙価格修正≒値上げ。

それに加えてメーカーの減産政策と工場トラブル、天災により供給が強制的に絞られたことで需給バランスが急激に変化し、値上げを受け入れざるを得なくなった状況。

値上げと減産が同時に行われてしまった事で今、ほんとにとんでもなく紙の調達が困難。

ざっくりと言うと今こんな感じ。
もう少し時系列に沿って、価格修正の流れと紙不足の原因について詳しく書いていきます。

そもそもなんで値上げしたの?


ここで言う紙は、一般商業印刷用紙(ポスターやチラシ、冊子など)の上質紙(コピー用紙みたいにテカテカしてないやつ)、A2コート紙(テカテカしたやつ)を指すことにします。上質紙とA2コートの説明はほんとにざっくりです。つまり、配布されるような印刷物に使われてるものを思い浮かべてもらえばOKです。

紙は俗に言う市況品というもので、需給バランスで価格が決まります。実は紙の価格修正というのはこれまで約2〜3年に一度行われてきました。

これまで、紙はめちゃくちゃ儲かったと聞いてます。
紙は文化のバロメーターという言葉が紙業界は大好きで、年に何回も耳にする言葉なんですけど、IT、デジタル普及以前は情報を伝える手段は紙媒体の印刷物しか存在しませんでした。
情報が集まる東京、特に千代田区や中央区にはメーカー、代理店、紙卸商、印刷屋が多くありました。地域に根付いた産業と言えるかも知れません。それほど重要な情報発信拠点だったわけです。
情報を拡散する代替案は他にないため、業界は薄利で大量生産大量流通で利益を稼ぐビジネススタイルでした。
また一部ではメーカーと結託してこれまでにある紙の規格外品をオリジナル商品として販売して商流を独占するところも出てきました。

ところが、IT、デジタル普及に伴う新しい情報拡散手段が浸透していくと紙の価値がだんだんと下がってきます。
つまり、作っても売れない。
消費量が減っても、メーカーは多くの工場を抱えており、工場を回さなくては投資した分のリターンが来ませんからガンガン回して紙を作ります。

すると紙が余ります。

需要減で価値が下がってきてるのに生産は需要に対し過剰な状態
→市況品なので価格が下がる。

こうなると物流パートを担うメーカー販売代理店、紙卸商は止まりません。 

値下げ合戦が始まります

高くて売れないものは安くしないと売れません。
よくビジネス書では価値が価格を上回ると売れるとありますが、ぶっちゃけ紙なんてどれも大して変わんねーす笑

ここでは営業マンのスキル云々は無視します。 

扱ってるものが同じ商材のため、競合他社と品質での差別化はできません。


価格で差別化するしかないのが代理店、卸商の現状です。値下げするしか脳が無いんす。

そこで、ある程度値段が下がるとメーカーはもうこれ以上ムリ!儲からないから価格修正するわ!
って生産コスト上昇、採算悪化を理由とした価格修正を発表します。

安売りの根源は安くしたメーカーなのに。。

でも、需要減は毎年進行、生産量も変わらずなので。。。

以下無限ループ

というのがこれまでの紙業界でした。

2017年の価格修正失敗

もうこうなってくると、価格修正→余る→価格下がる→価格修正の無限ループはもう紙業界の伝統芸能化してしまいます。
そんな中、変化が起きたのは2017年の価格修正でした。
伝統芸能化しすぎた結果、メーカーより下流では


「どうせ上がってもまたすぐ下がるよ」
というマインドがめちゃくちゃはたらいた結果

価格修正失敗

という信じられないような事態が起きました。
厳密には、一旦価格は修正されたものの、下がるスピードがこれまでよりも段違いに早く、価格の維持は半年と持ちませんでした。

この失敗が後に大きな伏線となって今年回収されます。
この事態をメーカー各社はかなり重く受け止めていて、今年の価格修正、大幅減産に繋がっています。

2018年11月、王子製紙から価格修正の発表

もう伝統芸能ですから、誰も気にしてません。
2018年11月に発表、2019年1月1日より20%以上の価格修正を実施するという内容でした。

20%以上という、とんでもない数字です。
これまでの価格修正幅と言うのは約10%というのが通例でした。

私達はここで気付くべきでした。
あれ、いつもと違うっぽいぞ、と。

でもそこで気付かない。
伝統芸能に慣れすぎました。

どうせまたすぐ下がるし、真に受けて一番に得意先の印刷会社に値上げしますって持ってくと他は出してこねーのになんでてめーだけ値上げすんだ!!って怒られて売上減っちゃうからとりあえず様子見て競合他社が出してきたときに一番最後に値上げのお願い出すかー。
というのが卸商営業のマインドです。
このマインドがやっかい。

他社の価格をくぐる事でしか数字を作れない卸商の影響で、ユーザーと位置づけられる印刷会社への価格修正への理解や周知が中々浸透しません。

各メーカー価格修正発表後の品不足

各メーカーの価格修正が出揃った11月中旬頃から、紙の供給が不安定になります。
紙不足問題はここから始まります。

原因は2018年の西日本豪雨です。
紙は発注から生産後、流通まではおおよそ3ヶ月くらい掛かります。

そんな中、西日本豪雨により配送網が寸断され、被災地域に工場を持つメーカーは出庫ができず、保管場所も確保できない状況から生産と出荷がストップする事態が発生しました。

https://www.asahi.com/articles/ASL7G7642L7GPLFA002.html

西日本豪雨の発生、配送網の寸断が起きたのが7月頃。
そこから約3〜4ヶ月後、工場からの出庫が滞っているため、10月から11月納期で発注した紙が入荷されない状態になります。

影響を受けたメーカー品はどうにも調達できないので、他メーカー同等品に視線が向き、切り替えられます。

するとその品に注文が殺到、在庫が尽きる事態になります。

結果、他メーカー品に切り替わる形でそのまま販売だけは続けられ、都内の紙の在庫が非常にタイトになりました。

そこで、次の生産注文分は多めに発注しよう!というマインドが市場に働き、メーカーには生産能力を大きく超えた注文がきます。

ここで価格修正発表とタイトな在庫状況が重なり
本格的な需給バランスの変化が始まります

価格修正は発表してしまっているため、開始時期はずらせません。
そんな中、価格修正前の特需が発生。
卸商は早めの在庫確保に走ります。

ここ数年で初めて需要が供給を上回りました

価格修正前に多く仕入れて、価格修正後に売ると儲かるのでとにかく紙をかき集めたいのが卸商と代理店。
西日本豪雨の影響が長引き、安定供給ができないメーカー。

思うように品が確保できない中、なんとしても出版定期品だけは守りたいメーカーは商業印刷物(ポスターやチラシ、冊子など)の受注を減らし、出版定期品の在庫確保に向けて動きます。本、雑誌等の定期刊行物は作らないといけないからです。
物はあるけど予約がついてるから動かせない状況になります。

こうなると困るのは商業印刷物を扱う印刷会社やそれらをメイン販売先としている卸商や代理店です。

これまで、需要が減少する中で自社倉庫を持ち、自社在庫することはリスクだと考えられていて、

近年は自社倉庫、自社配送機能を持つ卸商は数を減らしていきましたがここに来てそれが逆転します。

自社倉庫を持たない卸商は在庫の完全自社管理ができません。倉庫貸し業者には問合せが殺到し、各地の倉庫が紙でパンパンになりました。先にこうなることを予測していた代理店が倉庫を先回りして予約したためだと考えられています。

つまり、自社倉庫の無い卸商はその時点での代理店在庫に頼るしかないわけなのですが、代理店も価格修正前在庫を溜め込んでおいて修正後の価格で売りたいわけですし、出版定期案件に穴を開けたくないですから、なかなか在庫を分けてはくれません。

ここで卸商間にも差が生まれます

自社倉庫を持ち、自社管理できる卸商と持たない卸商でユーザーへの在庫供給面における差が出てきました。

これまで仕入れコストの効率化、低コスト化は、仕入先を一本化、あるいは少数に絞ることでボリュームメリットを生むことが主流で、実際にメイン仕入先1社のみに絞っているユーザーもいました。ですが、1社だけでは在庫面に不安があるとの認識が広まり、仕入先を増やそうとするユーザーが増えてきました。そうすると、購買担当者は不安なので同じ案件のものを複数の卸商に発注、返答が早いところから買うといったような動きが出ます。実量は1000枚しか使わないけど、3社に問い合わせたとすると業界内で3000枚動くように見える訳です。
こうなるとより、代理店や卸商のヒモは固くなります。

さらに、新規で取引開始していきなり従来の仕入れ価格に合わせるような価格ではどこも売ってくれませんから、

比較的高値でもいいから買って仕事を回さなければというマインドがユーザーで発生します。ということは・・・

紙は高くても売れる構図の完成です

こうして皮肉にもメーカーは生産コスト増、収益悪化でお願いを繰り返していた価格修正も、天災が原因とはいえ供給の圧倒的な縮小により需給バランスがとれ、ここまでの市場マインドを働かせることになりました。

ここまで、発表からわずか1ヶ月と少々です。

そして、2019年を迎えます。 

メーカーは需給バランスが適切になっている状況と判断し、告示通りの20%以上増を変えることなく取りきりました。プリントパックに代表される印刷通販も例外なしです。

ここで卸商の販売方針は会社によって分かれます。

現在の商圏を守るために修正額満額を得意先に転嫁するのではなく、一部を自社負担することで仕事の流出を止めようとし、結果として一時的に口銭を減らして、市況の値下がりを待って口銭をもとの水準に戻そうとする作戦と、

修正額を満額転嫁する作戦です。

結果から言うとここで明暗が分かれました。
後者のほうが利益を上げています。
原因はまたしてもメーカー側の供給不足でした。

相次ぐメーカー工場トラブル

2019年に入りメーカーの工場トラブルが続出します。
1月の大王製紙の工場火災に始まり、ダメ押しとなったのはニュースでも大きく取り上げられた王子製紙の春日井工場火災でした。

これによりさらに供給は逼迫され、マジでパニック状態になりかけました。
どこまでかというと、出さなくてはいけない出版案件さえも一部確保ができなくなった程です。

印刷通販大手はここで、一時的ではありますが大規模な受注制限を始めました。

それほどまでに在庫がなくなったのです。
それにより一般層にまで広く紙不足が知れ渡ることになりました。

ここまで供給が絞られると価格は下がる訳もなく、
価格修正分の一部を自社負担していたところは大きな誤算でした。価格を出してしまっている以上、再値上げは大義名分がなく、大ヒンシュクを買います。苦労して集めた在庫を薄口銭で販売しなくてはならなくなり、非常に利益を圧迫しています。

さらに、今年の5月から7月まで各メーカーは工場を止めて全体検査に入るためここでも供給がストップします。(各メーカー各工場でスケジュールが異なるため全部が一度に止まるわけではありません。)

市況は今、モノがあれば高くても売れる状況が続いています
この状況は消費税増税まで、あるいは今年いっぱい続くものと私は思っています。

今回の価格修正はメーカーの圧勝。優秀なコンサルでも入れたのかってくらい徹底してました。背景に天災と火災、事故があったとはいえ、結果的にここまで徹底された供給量の圧縮は見事でした。お手上げです。

今後の展望予測

まず、紙の価格が下がることはしばらくないと思われます。

メーカーは今、価格修正が浸透し、念願かなった状況かと思います。これまで苦労していたものがわずか数ヶ月で達成したのですからこれを水の泡にするような事はしないと思います。

具体的には生産銘柄の廃止、規格の見直しで生産効率化をはかります。

さらにメーカーは供給量の徹底管理を始めると予想します

これによるメリットは第1に現在の価格維持です。
市況品ですからまた供給量が需要を上回ると値崩れを起こします。これは絶対に避けたいことです。

そこでメーカーは徹底的に生産量を管理します。
具体的には代理店から集めた発注依頼分の生産カットです。
代理店は卸商から発注依頼分を集計し、それを社内調整の上でメーカーに生産依頼をかけますが、現在の供給不足により、いつもより多めに発注かけちゃおうというマインドが働きます。

メーカーはここで黙って受け入れません。
前年実績以上の生産は受けず、また前年実績100%の枠も状況によりカットするでしょう。余剰在庫を作らないための徹底管理です。

逆に言えば 

卸商の販売可能数量はメーカーによって管理されている構図です

更に言うと今後

紙は受注生産になります

逆に言えば注文すれば揃う可能性高いです。

結果

紙の大量生産大量消費の時代が終わりました。ありがとうございました。
量を捌いて利益を稼ぐビジネススタイルはおしまいです。

ここが結論です。
長かったですがこういう流れでこうなる事を予想しています。

なので印刷会社、印刷代理店のの皆さんは仕入先を増やして、調達できる量のベースアップを図ることをオススメします。それほどまでにメーカーは徹底します。
それによって仕入れ価格のベースは上がるかも知れませんが、安心してください。今の需給バランスであれば高くても売れる状況はしばらく続く事を私は予想しています。

ついでに、一応紙屋で営業してます。紙の調達に関して、お問い合わせやご要望のある購買担当者様、出来る事であれば協力しますのでご連絡ください。

最後まで読んで頂いてありがとうございます。
私の理解を深めるためにもご指摘やご意見は歓迎します。
ご連絡ください。

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