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その値段。高いか?安いか?

前回の最後。「意志のある経済」を実現するためには条件があると述べた。

今回はその条件から考えていこう。

落合陽一から考えたこと 「稼げる=価値がある」か?

意志ある経済において、成長それ自体が目標になることはない。しかし、今、金融取引によってお金を増殖させる行為は経済成長そのものが目的となっていると思う。きっと今日もお金を増やしている人に「お金を増やすのはなぜですか?」と聞けば「お金を増やすためです」と答えるだろう。

この状況を助長しているのは「金融経済(お金がお金を生み出す)」のスピードより「実体経済(製品やサービスの提供により、お金を生み出す)」のスピードが遅いことだ。金融は生産性が高すぎる。

かなり突然だが、落合陽一さんをご存知だろうか?

「魔法の世紀」や「デジタルネイチャー」などの著作が有名だ。最近では経営者、アーティスト、大学教授として活動している。そんな彼の著作「日本再興戦略」という本の中で次のような話がある。

「商」なんて、本質的価値を生み出していないと思った方がいいのです。大学生がメガバンクなどの金融機関に就職したがる理由の1つも、お金が重要だと思っているからです。しかしながら、お金からお金を生み出す職業が、一番稼げる(=価値がある)と考えること自体が間違っているのです。制度や発明などの生産性のあることは何もしていませんし、社会に富を生み出していません。
ー日本再興戦略 p86ー

考えさせられた文章なのでここだけ切り取ったけど、この部分だけでは彼の著作全体のメッセージを見誤るのでこの本についてはぜひ、全体をご一読いただきたい。

ここでいう「商」とは士農工商でいう商にあたり、主に金融のことを指している。

僕がこの文章の中で注目したのは「一番稼げる(=価値がある)」の部分だ。僕も一面そう考えていた。稼げていること。それが仕事だと思い込んでいる。

けど、本当の仕事、本質的な価値は世界をより良い場所にすることだと思う。お金が増えれば確かにより多くを交換で手に入れられるかもしれない。けれど、世界をより良い場所に変えるのは私たち一人一人の仕事の成果であり、その成果を「良い」とするのは目指している世界があることが前提だ。

だから「意志ある経済」では実現したい世界を描く。仕事の良さを定義するために。

これが条件の1つ目だ。

創造的な仕事

では、より良い世界とはなんだろうか?何を実現すべきだろうか?

当然人それぞれ違っていい。少なくとも僕や経済学者が決めることではない。

もっと言えば、あなたがより良いと思うことを誰かに決めさせてはいけない。

現代のマーケティングではご丁寧に消費者である僕たちのことを深く「インサイト」し、満たされていない「ニーズ」を特定し、その「ニーズを満たす製品」を開発し、販売してくれている。

駅を歩くだけで派手な広告に目線が弄ばる。インターネットでは検索するだけでもかなりの広告に出くわすが、ブログなんか開こうものなら上から下から突如広告が現れる。

めっちゃ必死やなといつも思うのである。(当然か…)

要らないもの。それに価値があると思えないものを買わなくていい。もっと言えば、僕たちの仕事のうち、商売のための商売が存在する。でも、それは本当により良い世界を実現するものなのだろうか?

これは常に世の中を変える革新的なものを生み出せということではない。

創造するというのは狭義には新しい何かを作り出すことだと捉えられている。けど、僕は同じことを繰り返しているとしても創造と呼べるものがあると思う。

もう少しいうと次のようなことだ。

あなたは洋服屋さんを営んでいるとしよう。大きな洋服屋さんではなく、一人のお客さんとじっくり話すことができる。あなたと話せばお客さんは笑顔になる。恋の悩みや仕事の思い入れなどその人のことを理解し、オススメの一着を紹介し、お客さんは満足して購入する。

そしてこう言われる。「あなたに会えるだけでも楽しい」

そんな特別な瞬間を創造すること。僕にとってはそれこそが創造だ。

革新的な仕事も実はこの世界にはまだ訪れていないより良い瞬間を創造するから革新的なのだと思う。このような創造的な仕事のあり方が「意志ある経済」を実現する上では重要だ。

世界をより良い場所に変えること。それこそが仕事だと思う。

受贈者的人格を覚えているだろうか?「いいものをもらっちゃったな」と思う仕事が連鎖する。そして経済はまるで意志を持つかのように1つの世界を形成する。

これが条件2つ目だ。

最後は感性の問題か? ー健全な負債を受け取る感性とどう付き合うか?ー

ここまでをまとめると次のようになる。

より良い世界に向け、「意志ある経済」は成長をする。その経済では創造的な仕事が「健全な負債感」を生み、そのような仕事が連鎖し、より良い世界を形成する。

しかし、重要な問題がある。

「健全な負債感」を感じる感性は誰にでもあるのだろうか?

前々回、受贈者的人格と対比して消費者的人格という「もらって当然」という人格も紹介した。その人格で物を買い、周囲の仕事を評価する人はいる。

消費者的人格の行き着く先はクレーマーだ。提供された製品やサービスの粗探しをし、文句を言う。自分で解決する努力をしないが、主張する権利を最大限に行使している。(もちろん、それも1つの解決に向けた努力ではあるが…。)

このような人格が日常生活の中に入り込み、人の仕事にケチをつけるようになると創造性が危機にさらされる。Googleが行なったプロジェクトアリストテレスという研究の結果、創造的なチームには心理的な安全性が必要だとわかっている。いいものを作りたいという気持ちの目をあっさり摘まれてしまう前にどうにか受贈者的人格を刺激したい。

もちろん、気質や感性というものは人それぞれあり、それをコントロールできるものではないし、すべきでもない。何をどう感じるかは自由だからだ。だから、もし、あなたの周りに消費者的人格の人がいる場合、3つくらい方略はある。

1つ目、その人と話を聞く。そこには改善のヒントが隠されていることもあるからだ。

2つ目、周りの受贈者的人格の持ち主に働きかけ、文化そのものを変える。文化はオセロみたいなもので主流派が逆転した時に変わり始める。

3つ目、逃げる。逃げていい。自分という人間が犠牲にされていることに耐えられなくなるときはあるから。

しかし、自分自身が受贈者的人格のスイッチが入りにくいという人もいるだろう。その時はまず自分が受けとっていることに気づくことだ。そして、「いいものもらっちゃったから何か返したい」という純真な気持ちから行動してみること。それが始まりだと思う。やっているうちに幸せな気持ちを連鎖させられると思う。

3つ目の条件は「いいものをもらっちゃった」という気持ちを大切にし、その気持ちから行動すること。そして、その気持ちを次の人に仕事を通じて送ることだ。

慣れないうちは綺麗事のように感じるかもしれないが慣れてくると以前より楽しく幸せに仕事ができると僕は思う。おすすめです。

3つの謎

さて、本連載最初の記事で投げかけた3つの謎について僕なりの考えを述べてきた。少しまとめてみよう。

謎1:なぜ経済・市場において贈与は難しいか?
荒川の解:市場・経済ではやり取りが「取引」になり、「取引」により結ばれる人間関係は消費者的人格を刺激する。消費者的人格は自分が得する取引を目指す。だから支払う金額に対して、受贈者的人格を引き出すほどの贈与的な刺激がなければ、消費感覚で贈与が受け取られる。つまり、もらって当たり前のサービスとなってしまう。以上のように経済・市場では「たくさんもらっちゃったな」と感じにくい人と人の関係性が働いている。だから難しい。

また、謎3とも絡むが金額の設定が消費者的人格の反応するラインと受贈者的人格が反応するラインの境界となる。人それぞれ期待値が異なるので絶対的基準のようなものはないが、1つの目安として金額設定は贈与関係を築く難しさのハードルとなる。

謎2:顔が見えないのか?見たくないのか?自動販売機化する社会
荒川の解:ひっかけ問題。顔が見えないのか、見たくないのかと言う切り口で考えると部分に分解してしか捉えることができない。考えるべき問いは「顔が見えなくなっていっているのはなぜか?」である。これは経済・市場に強い影響力を及ぼす金融のシステムがより効率的にお金を生み出すシステムとして進化していった結果、現場の仕事も効率化を迫られた。そして人の接点を可能な限り減らしたため顔を見ることがなくなった。

謎3:その値段。高いか?安いか?
荒川の解:この謎はある製品やサービスに対する値付けの「感覚」の謎である。この感覚を左右するのはその人が備えている金額に対する感性であり、その価値を評価できるだけの感性を備えていないと「高い」と感じ、感性を備えていると「安い」と感じる。感性が失われると判断基準がコスパしかなくなってしまう。つまり、価値を判断する審美眼のようなものがないとお金を増殖させる仕事で価値が生まれているように錯覚する。実体経済で働くすべての人は消費者の受贈者的人格を刺激し、あらゆるものがコモディティ化している現代においては、そのものの持つ価値を感じる感性を消費者の中に育むことができなければ生き残ることはできない。だからこそ「高いか?安いか?」という謎を使いこなしつつ、安いと感じてもらえるよう消費者の感性を育めるかが企業には問われている。

お気づきかもしれないが、実は謎に答える形で僕自身の経済観である「意志ある経済」について述べようとしてきた。

そして、さらにお気づきかもしれないが、厳密にいうと謎について答えられていなかったので最後にまとめた。

3つの謎にちゃんと答えたところで最後の問いに行こう。すなわち…

私たちにとってゆっくり、いそぐとはどういうことか?

今現時点での僕の経済に対する考えの終着駅でもある。

長い旅だったかもしれないが、もう少しお付き合いいただければ嬉しい。

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この連載シリーズはNPO法人Giftの以下の企画に紐づいた企画です。よかったらチェックしてみてくださいね。

〜学校では教えてくれないお金の話 vol.1〜

「ゆっくり、いそげ」から学ぶ新しい経済の在り

【学校では教えてくれないお金の話】は全6回のシリーズとして、お金や経済に関する勉強会・講演会・読書会などを企画していきます。
参加費:2,000円(もし難しい方は、一度ホストまでご相談ください)
人数:12名

【大阪開催】
日時:2019年6月29日(土)14:00~17:30
場所:フューチャーファシリテーションカフェ
   大阪市西区西本町1-8-2 902号室
   (エレベーターで8階までお進みください。その後階段で9階へ登ります)
https://www.facebook.com/events/443734346359903/

【東京開催】
日時:2019年7月7日(日)14:00~17:30
場所:カフェスタジオmagari
東京都中野区本町6-24-5
https://www.facebook.com/events/649021238857779/



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