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海のない土地の塩羊羹/長野県諏訪市

昔、宮本常一の「塩の道」という本を読んで、長野の塩尻という地名は、海から塩を運ぶ道の最終地点であったことに由来すると知った。また、長野の木曽には「すんき漬け」という、塩を使わない漬物があることも知っていた。日本においては、基本、塩は海水からつくるものだから、海に面していない長野の人々にとって、塩を手に入れるということは、かつてはいろいろ苦労があったのだろうと思っていた。だから、長野の食と塩の関係は、昔から興味があった。

先日訪れた諏訪名物のひとつに「塩羊羹」というものがある。文字通り、塩入りの羊羹だ。最初に見つけたとき、塩は食品保存のために重要だったろうに、お菓子に入れるなんて、なかなか思い切ったことをしたものだ、と思った。ただ、実際に食べてみて、ちょっと考えが変わった。

一般的に、調味料としての塩は、塩味を強める働きがあるが、例えば砂糖と組み合わせて使うと、相互に味を引き立て合うという対比効果が生まれる。昔だと、スイカに塩、最近だと塩キャラメルなどが、その例だ。一般的には、この効果を狙うときには、甘味を際立たせるために、塩味を利用する。

でも、諏訪の塩羊羹は、もしかしたら逆だったのではないだろうか。塩が大事であったからこそ、砂糖によって塩の存在を際立たせようと、つまり、塩の価値を増幅するために、もともと甘い羊羹に塩を入れたのではないかと。もちろん、同時に、塩が甘味を引き立てるから、砂糖も控えめにできる。そんな発見が結実したのが、この目の前にある一切れの塩羊羹なのではないか。

塩と土地のつながりをあれこれ妄想しながら、美味しく頂いた。透明感のある薄い色あいも美しく、塩味と甘味の無限ループが、恐ろしいほど手を進ませる。次は、元祖と言われているお店の塩羊羹を味わってみたい。



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