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【藤田一照仏教塾】道元からライフデザインへ(19/05)学習ノート①

藤田一照さん(曹洞宗僧侶)が主宰する仏教塾、「道元からライフデザインへ -Institute of Dogen and Lifedesign」の前期第2講に参加してきました(2019年5月25日@ユートリヤ(すみだ生涯学習センター))。

(先月開催の前期第1講の模様は、こちらからご覧ください)

この「学習ノート①」では、5月塾への導入となる、

「正法眼蔵」と「弁道話」にまつわる基礎的な理解についての一照さんの講義

について振り返っていきます。

1. 正法眼蔵の様々な編集形式

「正法眼蔵」は、私が一生かけて読むことになるであろう道元禅師の「主著」といってもいい著作です。道元さんは他にもたくさんの書物を遺しましたが、「道元さんといえば正法眼蔵」ということで、代表的な作品といえるものでしょう。

「正法眼蔵」というこのメインタイトルは、道元禅師自らつけられたもので、その中には「〇〇の巻」という書物が連なっています。各巻は、道元禅師自ら著したことが明らかになっているものと、「おそらく道元さんによるものではないか」というものがあります。

曹洞宗の歴史の中には、眼蔵を研究するのに一生を捧げたお坊さん達が何人もいて、その人たちのことを「眼蔵家」と呼びます。
近代になって、そうした眼蔵家や仏教学者たちが全国各地のお寺を訪ねて、正法眼蔵の各巻の「写本」を探して歩きました。
「これは今まで見たことがないが、"正法眼蔵〇〇巻"と確かに書いてある」というものが次々と見つかり、最終的には「95巻ある」ということに現段階ではなっています(九十五巻本)

この九十五巻本は、道元禅師自ら編集されたものではなく、これら眼蔵家や仏教学者たちの編集になるものですが、これについては曹洞宗大本山永平寺にて、道元禅師550回大遠忌(1802年)の記念事業として大部の書籍が出版され、さらに現在の永平寺では、詳細な校訂を済ませた九十五巻本を制作していて、もうすぐ出るとのことです。

(「正法眼蔵」参考リンク)



ここで私たちが注目すべきは、道元さんご自身が編集したであろうといわれている「七十五巻本」の存在です。これは「巻一"現成公案"」に始まって「巻七十五"出家"」で終わるものです。そしてもう一つ、「十二巻本」というものがあります。これも道元禅師ご自身の手になる編集です。

この七十五巻本と十二巻本+αを合わせて「百巻本」とする構想を道元さんは持っていましたが、途中で寿命が尽きて亡くなられたので、未完の十二巻で終わっている、ということになります。

七十五巻本と十二巻本は、巻の収録順を道元さんご自身が考えて書いているので、各巻は必ずしも成立の時系列順に並んでいるわけではありません。

もう一つは「六十巻本」という、道元さんのお弟子さんたちが編纂したものがあり、今のところ「正法眼蔵」というと、「七十五巻本+十二巻本」をメインに、九十五巻本があったり六十巻本があったり…ということになっています。

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2. 弁道話の位置づけと性格

今季の仏教塾のテキストとして私たちが読んでいこうとしている「弁道話」は、道元禅師ご自身が編纂した「七十五巻本+十二巻本」には含まれていません。

七十五巻本や十二巻本に収録されている巻のタイトルは、「正法眼蔵 現成公案」とか「正法眼蔵 仏性」…というように、巻の名前の前に「正法眼蔵」と必ず書かれています。
一方、弁道話の場合は、ただ「弁道話」というタイトルです。
このことから、弁道話は正法眼蔵の他の巻とは異なる性格を持っていることが分かります。

他の巻とは違う弁道話の大きな特徴は、「不特定多数の人に向けて書いている」ということです。

七十五巻本や十二巻本に収録されている巻には、「どこのお寺で、何年のいつの季節に、弟子の誰々に宛てて示す」という"奥書き"が記されているものが多いです。例えば「現成公案」巻では、道元さんの在家の弟子である楊光秀(よう こうしゅう)に宛てたということが書かれています。これらの巻のほとんどは、道元さんと共に修行していたお弟子さんたちのために説かれています。

「弁道話」の場合は、道元さんのサンガ(Samgha、修行者の共同体)の体制が整っていない時に書かれているので、

「誰が読んでくれるのかは分からないけれど、自分の想いを書き残しておく」

というつもりで、読む人の顔が具体的に見えていない状態で遺された書である、ということです。


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3. 弁・現・仏

「弁道話」は、道元さんが宋での修行から帰国して間もない1231年に書かれ、日本で曹洞宗という宗門を新たに興すにあたって、自らが依って立つ立場を明らかにしようとするものです。

七十五巻本や十二巻本に収録されている他の巻よりは、文体として比較的分かりやすく書かれています。そして、道元さんがこの後に様々な説き方によって坐禅を中心に据えた仏道修行のありかたを書いた書物への"入門編"として適した位置にあります。

古来、曹洞宗では「弁道話・現成公案・仏性」の3巻は必ず読むようにと教えられます。これを

「弁・現・仏 (べんげんぶつ)」


と呼びます。

「どうしても正法眼蔵の他の巻を読むことができない時に3つだけ選べ」という時に、曹洞宗ではこの「弁現仏」の3つだといわれています。
もちろん他の巻にも読むべきものはたくさんあるのですが、道元禅師の仏教の特徴・エッセンスを知るには、この3つの巻を読めば大まかに把握できる…ということで、この3巻が特に読まれていて、注釈書や解説書も数多く出ています。

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(参考リンク)

弁道話は分量としてはけっこう多いので、この全てを詳細に提唱するのは、この仏教塾で私がねらいとするところではなく、この「弁現仏」、弁道話・現成公案・仏性の3巻については様々な解説書が出ていますので、細かな字句の意味などについては、そちらを当たっていただければと思います。

また、この塾に参加してくださっている方が、道元禅師の代表的な著作を分かりやすい現代語訳にしてupしているWebサイトを紹介してくださっているので、そちらも参考にしてください。



……このあと、学習ノート②に続きます。


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