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事業再生のこと−34

駅ナカでの催事出店が最良の方法だと考えた理由はいくつかあります。
私たちの店舗周辺の商圏はすでに私たちが望んでいる商圏ではなくなっていました。店舗は移動できません。だったら私たちが私たちに合った商圏に出向くしかない。その方法として「駅ナカ」での催事を選びました。

●駅ナカという商圏の特性

「駅ナカ」という立地は商圏として幾つかの条件が整っていました。
●私たち出店者側が準備しなくても
クライアント側が店舗を用意してくれていること。
●駅ナカ店舗はほとんどが人通りが多い好立地にあること。
●出店場所の特性を知ることで、
自分たちに合った商圏を選択して出店できること。
●何度か同じ催事場に出店することで、
ある程度のリピーターの獲得が望めること。
●駅ナカという人通りが多い場所に出店することで
自社ブランドの認知度が上がることを期待できること。
●駅ナカは駅の中の商圏だけでなく、
その駅を起点とした周辺の商圏が含まれていること。

こうやって「駅ナカ」の商圏としての特性を考えると良いことばかりに見えます。
しかしもちろんその商圏を私たちが手に入れるためには高いハードルを超えなくてはなりませんでした。

●駅ナカを管理する企業に自分たちのブランドを評価してもらう必要があること。
●公共の場で販売するための衛生面での検査証明が必要であること。
●配布用のチラシ、カタログなどの準備ができていること。
●店舗のブランドを認知してもらうための制服(エプロン、帽子など)が
準備できていること。
●店舗装飾に必要なポスター類、POP類、のぼり、腰巻きなどが
準備できていること。
●販売時に必要な袋類、商品パッケージなどが準備できていること。
これが一番重要ですが、
●その駅ナカで予測される売上に見合った商品ストックを準備できること。

●駅ナカ等催事出店の準備

これらの準備にはそれなりの資金が必要ですし、
何よりも通常の店舗で販売する商品の量からは信じられないほどの商品量の準備が必要になります。
クライアントが用意しているPOP UP SHOPなどに催事出店する場合は、そのお店はクライアント所有の店舗とみなされるため催事出店する店舗に関しても自分たちのブランドを損なわない企業姿勢が求められます。
商談をする前に事前準備として自分たちの実績を証明し、社会性、取り組み姿勢などを証明できる自己PR資料を作って臨むのが良いと思います。
衛生面での安全性に関しては使用している材料の安全性と加工商品に関しては専門機関での細菌検査の証明書類の用意が必要です。専門検査機関に関してはクライアントに紹介していただくことも可能です。
駅ナカだけでなく百貨店、催事場での販売に関してはレンタルしているブースを一時的でも自分の店舗としてPRする必要があるので様々な広報宣伝物や装飾、自分たちのブランドであることを認知してもらえる統一感のある装飾やユニフォームなどの準備が必要になります。また販売時にお客様に手渡すための包装資材なども準備しておかなくてはなりません。
これらを全て準備するために発注、購入を期日内に準備しなくてはならず、あらかじめ必要な資金を用意しておく必要があります。
広報宣伝物や催事出店の費用に関しては小規模事業者持続化補助金が適用される部分もあるので上手に利用すると良いでしょう

●駅ナカでの売上金額と商品ストック

一般的に駅ナカでの売上金額はどの程度なのでしょう?
一概には言えませんが平均として1日あたりの売上は10万円〜20万円ですが、知名度の高い有名店では30万円近い売上を上げるメーカーもあります。
では例えば15万円の売上を上げたとして1個500円の商品であればどれだけの量をストックしておけば良いのでしょう?
単純計算すると単価500円の商品で1日あたり300個必要になります。
催事出店の場合大抵の場合1週間催事の場合と2週間催事の場合があります。
2週間催事の場合、実に4,200個もの商品が必要になります。
しかも商品は1種類とは限らず、複数商品をそれだけの数を用意するのは並大抵のことではありません。
複数箇所の駅ナカに催事出店を定期的に催事出店している有名メーカーはフルオートメーションの工場を持っていることが多いようです。
しかし、そのような大手メーカーのみを対象にしてしまうと、どこの駅ナカに行っても同じメーカーばかりが出店している状況になってしまします。
駅ナカを管理している企業は常に新しい出店企業を探しているので、条件さえ満たせば小規模な事業者にもチャンスはあると言えます。
私たちの商品のように冷凍保存が効いたり長期冷蔵保存が可能な商品は催事出店には有利であると言えます。
また冷凍保存が可能な場合、冷凍倉庫のレンタル事業者と契約をして、その倉庫内に商品をストックしておく方法もあります。その場合でも冷凍によって食味や品質が劣化する時期を見極めて定期的に商品を入れ替えなくてはなりません。
私たちは「手作り」にこだわっているため、フルオートメーション化はしませんが、それであればそれなりの生産の工夫が必要になります。

●生産力強化のための設備投資

私たちは駅ナカ催事での出店を可能にするために設備の増強を決意しました。
目的は生産力の強化と商品ストックの確保です。
融資をスムーズに獲得するために4ヵ年にわたる「事業計画書」を書きました。
事業計画書の書き方に関してはネットで資料を入手することも出来ますが、基本的には
●自社の紹介、概要
●自社商品の特徴、信頼性
●自社商品の問題点、改善方法
●原価率、損益分岐点
●売上目標、目標達成の方法、スケジュール
●将来の展望、事業展開

などを写真やグラフ、諸表などとともに順番に書き上げます。
※事業計画書の詳細に関しては「事業再生のこと−28」を参照ください。

こうして書き上げた事業計画書に沿って事業を展開すれば目標の売り上げを達成できることを説明し金融機関との折衝に入ります。
金融機関との信頼関係を築くためには自分たちの事業がどのように進捗しているかを証明するために「月次決済」を随時報告することをお勧めします。
損益表などを記帳し整えておくためには顧問税理士がいる場合にはお願いするのが良いと思いますが、駅ナカ催事などのように催事ごとに売上が確定する業務に関しては「催事ごとの損益表」を作ることが、その催事が利益を生み上手く機能しているかを確認するためにも必要です。
自分で損益表を作る場合は基本的に売上総利益率経常利益を混同しないことが大切です。
売上総利益率とは、「売上高に占める商品力によって稼いだ利益」の割合のことです。
これに対し
経常利益は、本業で獲得した営業利益に、本業以外で得た収益「営業外収益」を加算し、費用「営業外費用」を引いたものです。
よく、売上総利益が「儲け」であり「利益」だと勘違いしている方がおられます。
しかし、商品にかかってくる原価は「材料費」以外にもたくさんあります。
工場の家賃、光熱費、作るのに携わった人たちの人件費、包装資材、広報宣伝費など様々な経費が商品にはかかってきます。
これらを全て差し引いて残った経常利益が本来の利益ということになります。
実際に多く見かけるのは「材料費」のみを原価として計算して「利益」が出ていると判断している事業者です。
理想的なのは経常利益が売上の20%を確保することですが、事業が成長する過程では「仕入れ」や「人件費」の増大、つまり、先行投資が必要になり経常利益が薄くなりがちです。
事業が順調に成長していることを月時決済で証明できれば、事業拡大のための追加融資も容易になります。
売上を伸ばすことに注力しすぎると実際には「利益」をあまり上げられず企業としての「固定資産」を増やすことができません。
資産をストックでき、固定資産が増えることは企業の信頼性が上がることになります。事業の将来的な成長を望むのなら「利益」を残し「固定資産」を増やしてゆきましょう。

●融資の獲得と駅ナカ催事への参入

私たちは経営計画書を提出することにより融資を獲得し、設備の増強を実現しました。同時に店舗を全面改装し飲食スペースを縮小し(結果的には飲食事業から撤退することになります)、製造スペースと業務用の大型冷蔵庫を設置しました。
次に必要なのは生産と販売に携わる人材です。
幸いこの時点で私たちは二人の優秀な人材を確保していました。
催事出店の初年度は年に2回だけの催事出店で様子を見ることにしました。
また、私たちの商品は冷凍保存が可能で、自社内に商品ストックすることが可能なのも幸いしました。
こうして、私たちは無事にいくつかの条件をクリアして駅ナカ催事出店という新しいマーケットを切り開くことができました。
ここからは駅ナカでの催事出店を皮切りに経験を深めてゆくことによって、マーケットの特徴を掴み、年間で15~20回程度の催事出店を繰り返します。

●今後の方向性と問題点の解決

駅ナカでの催事出店を続けて、私たちの店舗の売上は飛躍的に伸びました。
最初に小規模事業者持続化補助金が採択され業務用オーブンを購入した頃からだと実に10倍以上の規模に成長を果たしています。
ただし毎年成長を続けていると様々な問題が発生します。仕入れ資金の焦げつきも起こしますし、それを放置すれば黒字のまま倒産するという事態も起きかねません。
また「駅ナカ」というマーケットにおいても社会情勢や不況によって大きな変化が訪れています。今後、私たちのマーケットがどのように変化するのかを見極めなくてはなりません。
国内においてもHACCPやインボイス制度など対応するべき事柄が毎年のように増えてゆきます。これらの問題にいち早く対処し、企業の体制を固めてゆくことが必要です。

数ヶ月ごとに新しい販促方法が提案され媒体が増えてゆきますが、何が残って成長してゆくかを見極めなくてはなりません。
どういった方法をとれば安定的に成長を続けられるかを考え、適切に行動しなければなりません。
慎重でありながら、新しい情報を取り込み実践する勇気も必要です。

●コンテンツ・マーケティングという選択肢

まだ、コンテンツ・マーケティングという言葉さえそれほど一般的に使われている言葉ではないので違和感を覚えている方も多いかも知れません。
5年ほど前からこの手法を使って成長を続けている企業がいくつか存在し、注目されるようになりました。
様々な角度から「映像」「文章」「画像」「音声」など様々なコンテンツを通じて自社の魅力や方向性(パーパス)についての情報を発信し続け、顧客層に対して啓蒙活動を続け、自分たちの事業に対するファン・コミュニティを形作ってゆく方法です。
これまでの販売促進方法では集中して一気に情報を拡散して短期間に利益を確保する、といった方法がとられていましたが、これからは顧客層と事業者がじっくり腰を据えて向かい合い、お互いの嗜好性や方向性について共感できる相手と双方向にコミュニケーションを取りながらしっかりとした結びつきを作る、という方法が主流になりつつあります。それに応じて媒体の使い方そのものも変化してきているといって良いでしょう。
情勢が不安定だったり、不況が長く続くと顧客層は保守的になりがちで購買に対して慎重になります。そういう時代にこそコンテンツ・マーケティングは有効であると言えます。
私たちも早くから映像や文章を使った情報発信に取り組み始めています。
2023年〜2025年の期間は集中的にコンテンツ・マーケティングを通じた情報発信を続けていくつもりです。
※事業再生のこと−35に続く


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