23.07.01- 中野サンプラザ

2023.07.01
IKEAで注文した棚が届く。正確には棚の材料になる部品たち。注文する時にはすっかり忘れていたが、IKEAの家具は組み立てを自分でしなければならない。これがなかなかの肉体労働で骨が折れる。

今日届いたのは在宅勤務用の机の隣に置く棚で、狭すぎる作業スペースを拡張するためのものだ。無数の木の板とネジが段ボールから出てきて途方に暮れそうになるが、気持ちを入れ直して、まずは棚の大枠から組み立てる。途中、棚の中に手を突っ込んで内部にネジを取り付けることを手順書が要求してきた。どだい無理な体勢でネジを回し続けなければならず「このネジを締めたところで、何がどうなるのだ」と思いながらも、しばし格闘を続ける。何とかネジを締め、そこから引き出しを組み立てて、棚が完成した頃にはもう作業を始めて2時間以上が経っていた。ドライバーを沢山回したので、手の皮が擦れて痛く、おかしな体勢を続けたせいで筋肉痛も酷いが、いざ完成すると何ともいえない達成感があった。

夜。歌舞伎町で「怪物」を観る。心の中に潜む怪物のようなものと対峙できずに、目を逸らして逃げ続けてきた自分の青春時代が、主人公の姿に重なった。普通の恋愛、普通の家族、普通の人生という幻想に雁字搦めにされて身動きがとれなくなっていた頃の気持ち。でも、死んでも生まれ変わらないし、そのままで生きていていい。そんな当たり前のことが、素晴らしくて、幸せなのだと改めて思わせてくれる素敵な映画だった。

家に帰ると、一緒に映画を観た人から「あなたの相手の発言を嗜めるときの仕草が好きです」という旨のメッセージが来ていた。「どこが好きだったか教えるときは、もうその恋を片付けるって決めたとき」という台詞が大豆田とわ子のドラマにあったのを思い出す。僕は、彼の「せっかく自分だけがみつけた秘密」を真っ先に相手に喋っちゃうようなところが好きだな、と思ったけど、言わないでおくことにした。

2023.07.02
中野サンプラザの前を自転車で通ると、数人がカメラを構えて写真を撮っていた。そういえば、そろそろ閉館するのだった、と気付いてスマホで調べると、今日がまさに最終日だった。

中野という街に思い入れがある。自分は東京出身だが、10代の頃は生活の全てが徒歩圏内で完結していた。学校にはいじめてくる奴がいたし、家には、そんな学校での境遇や、自分の性的指向を親に隠し続ける窮屈さがあった。そんな折、自転車でちょっとした旅行気分で行った中野ブロードウェイに心を奪われた。

昭和、サブカル、風俗、オタクといった、古くて、ちょっと気持ち悪くて、でも魅力的なものが、そこには全部あるように思えた。事あるごとに中野ブロードウェイに行っては、雑誌を立ち読みし、レトロなおもちゃを見て、時にはお小遣いをはたいて買った。いつしかここに住みたいと思うようになり、高3の現代文の授業で将来の夢の話になったときに「中野ブロードウェイに住むことです」と言うにまで至った。

そんなブロードウェイの横にいつも君臨し、中野の象徴然としているのが中野サンプラザだった。個人的には、中野ブロードウェイと間違える人が多い建物というのが一番の印象で、正直、それほど思い入れがあるわけではない。

数年前に行った大森靖子の弾き語りが初めてのサンプラザでのライブだった。前の人がスマホを構え出した途端、ステージが全く見えなくなったというあまり良くない記憶が真っ先に思い出される。ただ、ここ数年カネコアヤノや岡村ちゃんの公演を観る機会があり、家から徒歩で行ける場所でライブが開催されることの有り難みを感じていた矢先の閉館だった。

過ぎていく時代の中で、段々と街並みが変わっていくことも受け入れなくてはならないと思いつつ、やっぱり少し寂しい。あと十数年もしたら、昔はここに中野サンプラザがあったよね、という思い出話に花を咲かせることになるのだろうか。

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