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上海婦人(娘の通院日の話し)

先月、次女が定期的に通っている病院の通院日に、ちょっと面白くて、なんだか不思議な気持ちになる出会いがあった。
派手で豪快で、それでいて繊細なところを持っていそうで、しかしおしゃべり大好き!って感じの上海のおばさまだった。


障がいのある娘をバギーに乗せて出掛けると、様々な反応に遭遇する。
長年の経験からか、何を感じているかは大抵察することができる。

あからさまに差別的な視線を向ける人、
(…とはいえ、この手の人にはあまり会ったことがない。)
優しい気持ちでこちらに視線を向けて、そっと道をあけてくれる方や、以前記事にしたように、声をかけてくれて、温かいひとときを下さる方もいる。あの日の老夫婦の澄んだ心は駄々漏れであった。この老夫婦と、そのやりとりは今の私に繋がるかけがえのない経験であり、貴重な存在である。

というのも、(年代別にするのも違うとは思うけど…)意外と人生経験豊かなはずの世代の方のほうが、興味深々で珍しいものを見るようなしつこい視線と気を漂わせる傾向なのだ。
声をかけてくる人の方が少ないから、何を思ってジロジロと見るのか真相は分からない。
…いずれにしろ、こちらとしては気分のいいものではない。
そんな時は、私も穏やかな空気など微塵も出さない。
「いつケンカになってもいいぞ!」くらいの強気な気持ちでその場にいることもあった。

年代別と考えれば、若者たちはどうだろう?最近、「今時の若者は…」ってあまり聞かなくなったけど、それに続く言葉には良い印象は含まれていない気がする。

しかし!私の感覚からすると、これに関しては「今時の若者」、、
うーん。私の感じ方からすると10代後半から30代前半くらいまでかな?…今時の若者。
そんな、私の思う範囲の若者は、良くも悪くも無関心。…語弊があるかな?
…そうだな。うん!振る舞いが上手な感じだ!
私たちが学生だった頃より、障がいに関する教育を受けることが多いのではないかな?と思う。気のないふりをしてくれたり、わざわざといった感じもなくスッと譲ってくれたり、しかも、やたらジロジロ見られた経験は無い。
変に関心を持つことをしていない印象だ。
あくまでも私の感じる範囲だけど、とても
スマートな印象。

ここは、難しい。
小学校低学年くらいの年頃。
「子どもは残酷なところがあるのよ」
なんて聞いたり感じたりすることもあるけど、…思ったことをそのまま口にすることがあるから。

これに関しては、しばらくモヤモヤが消えない出来事があった。

次女がまだ中学生くらいの時、買い物に出掛けた先で、7、8歳くらいであろう元気な男の子が、バギーを押す私に大きな声で
「すいませーん!」と言ってきた。
そして、そのまま、
「その子、死んじゃってるんですか?」と言ったのだ。
ぎょっとした。瞬間的な怒りはなかった。
見る人が見れば、逆に怖いと思うくらい
優しい笑顔で
「違うよ~」とは言ってみたけど。
その時、
ほぼ同時に驚いたように「バカっ!!」と言ったのは、一緒にいたその子のお父さんだった。
すぐに「失礼なことを言ってすみません!
お前も謝れ!」と慌てていた。
当の本人は「えーなんで?なんで謝るの?」
といった様子。もう、ここまできたら
どうでもいい。それなのに、、

ここで!ここで、今度は瞬間的に怒りになる発言があった。
「えー。だって死んでると思ったんだもーん」とまだ言い足りない息子を慌てて抱きかかえ、その場を去りながら言った父親の
一言。

「ばかやろう、お前そんなこと言ったら
ぶん殴られるぞ!!」と言ったのだ。

「はあ??💢私、ぶん殴りませんけど?
そうゆうことじゃないだろう?💢あ〰️💢
ばかやろうはお前だ!」
ワナワナワナ💢
その場で立ち尽くし奥歯キリキリするほど
食いしばった💢

息子は分からないんだって。それを言ったら
言われた人はどう思うのか?
そこを教えたらいいじゃない。
殴られるから言っちゃダメ。って事ではないでしょう?
ここで、そんな息子の発言に慌てたのなら、お父さんも分かってるでしょ?今、それを経験したんだから教えてあげることの方向を
考えましょうよ。

…あ、言えなかったんだけど。
あとから走って追いかけて親父を後ろから
ぶん殴ってくれば良かった。と悔やんだ。

あれから数年たつけど、あの父と、あの子の成長する中の何かに役立ってるといいな…。


なんて、経験をしているうちに、段々と、
人の視線と、その内側から出る雰囲気を感じとる機能が身についてきた。

先月の通院日、一通りの診察を終え、会計待ちをするロビーにいた。
久々に長女が一緒に来てくれた。
私の右側にバギーに乗った次女、左側に長女。会計待ちの間、他愛もないおしゃべりをしていた。定期検診なものだから、別に体調が悪いわけでもなく病院にいる私たちは、
ニヤニヤ、ヘラヘラしながらそこにいる。

長女の方を向いて話していた時、その先に
色とりどりの大きな花柄がふんだんに使われた膝丈ほどのワンピースを着て、アップにした髪はところどころハラリと下ろされた明るい色、キラキラと金色に輝くおおぶりのピアスとブレスレット。処方箋をヒラヒラとさせながら歩く女性が視界に入った。
日本人にしては大胆な雰囲気だな。とは思った。
私がその雰囲気に惹き付けられてしまっていたのか?3メートルほどの距離からは、
確実にこちらを目指して歩いてくるのが分かった。長女のすぐ後ろに来た時には、既に口を開いていた。

「ドウシタノォ~~」

長女は突然のカタコトにビクッとして振り向き、またビクッとした。
私はずっと視界に捉えていたから、視線を合わせていた数メートルの間にちょっと慣れていた。知り合いだよね。くらいの気持ちだった。

誰にも疑問を持たせない勢いで、彼女は続けた。
「アァ~、ビョウキ?ビョウキナノ?
メ(目)、ドウシタノォ~?アカイ。」
「アカイノ、イタイノ?」

瞬きをすることができなくなった娘はずっとドライアイで充血どころか白目は赤目になっている。浮腫んで盛り上がった赤目は痛々しく、軟膏でカバーしているのだ。
そこを、はじめましての人がいきなり質問してくることは、私としてもはじめましてな事だった。彼女は突然現れたものの、
こちらに何の抵抗感も持たせない不思議な雰囲気を出していた。

「チョット、ミセテ。」
次女の姿をまじまじと見つめ、私と長女に振り返り、
「コノコ、キレイネェ~」
と言った。そして、次女を見つめ、耳元で
「ダイジョウブヨ~、ダイジョウブヨ~
スグ、ナオルヨ。ガンバッテ!ガンバッテ!」と繰り返し繰り返し優しく話してくれた。
その後は、自分は父親の手術でここにいること、子どもはたくさん欲しかったけど、一人っ子政策で娘一人しか授かれなかったこと、それ以上の子を持ったら、関係者一同逮捕されてしまうこと、コロナで大変だったこと、
「ハ~リ~ル~ヤ」(合っているか分からない😅)は魔法の呪文らしいこと、
話しの合間合間に次女に優しく笑顔を絶やさず「ダイジョウブヨ~」と言い、最後には
一番近い処方箋薬局を教えてほしい。と言って、最初に見た時と同じように処方箋をヒラヒラさせて、私たちに手を振って華やかに去っていった。


色々な人たちと出会ってきたけど、
あんな雰囲気の人は初めてだった。
いきなり現れ、じっと見てきたり、色々聞かれたりしたけど、こちらになんの抵抗感も持たせない。すごくおおらかで、
「心、開けっぱなしだよー」といった内面すら肉眼で見えてしまう感じ。
圧倒もされたけど、なんて気持ちのいい人なんだろう。本心から次女を思ってくれていることが伝わってきた。
ひとりの人として普通に接していて、まるで家族のようだった。

なんだか温かく、フワ~っとした気持ちで
またニヤニヤしながら3人で会計を待った。






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