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舟編みの人~第16話~

与那嶺
「伊島先輩。」
伊島
「二人の時は泉で良いわよ。」
「名字呼びだと…
 私なのかわからない時もあるし…」
与那嶺
「じゃ…
 泉さん…」
「改めて…
 仕事の段取りとかコツとか教えてくださいますか?」
伊島
「そうよね…
 余程の事がない限りは、
 各部署とマッチングしながら研修は続くのよね…」
与那嶺
「泉さんは…
 比較的すんなり配属部署って決まったんですか?」
伊島
「結構たらい回しされたわよ…」
「一緒に仕事をするのにも合う合わないもあるし…
 この会社…
 結構部署横断してプロジェクト組む機会も多いから…
 新人や若手が連絡役や折衝役を引き受ける事が多いの。」
与那嶺
「ベテランの人が結構頑固っていう話も聞きましたけど…」
伊島
「頑固ってのもあるけど…
 風変わりな人が集まる様な会社だからね。
 譲れないこだわりがある人の折衝役も大変よ…」
与那嶺
「川柳を担当する部署が大変だと以前お伺いしましたけど…」
伊島
「あの部署は皮肉屋が多くて困りものよ…」
「ばりばりに旧時代の倫理価値観で動いているし…」
与那嶺
「それで朝倉さんが時々…
 苦々しい表情で…
 その部署を睨みつけているんですね。」
伊島
「今年も…
 あの部署は念入りにコンプライアンス研修をやったみたいです。」
与那嶺
「気になったのですけど、
 部署をなくしたりとか…
 スタッフを総入れ替えするとかしないのでしょうかね…」
伊島
「社長からの訓話とかでお聞きした事があるのですけど…
 ガス抜きとか掃き溜めみたいな部署が必要なんですって…」
朝倉
「それに不用意に…
 ああした連中を野に放つよりも…
 飼い殺しみたいにした方が幾分大人しくなるんだそうだ。」
伊島
「時間稼ぎと言うか弥縫策ですね…
 性急に正解を導き出そうとして…
 結果として事を悪化させるよりも…
 次善策や現時点での最適解を取り敢えず出しておいて、
 事態の悪化を食い止める必要があるんですよね…」
朝倉
「俺もこのままで良いと思ってはいないさ…
 でも力任せに事を運べば歪みがどうしても出てくるし…
 それで何とかなる連中でもないし…」
「あれでも少し前までは…
 あんなに燻っているような彼らじゃなかったんだ。」
「憐れんではやるなよ…余計傷付くだろうから。」
与那嶺
「気を抜いて無為に過ごせば明日は我が身という事ですね…」
朝倉
「あいつらは…
 今の日本を諦めた世界線の俺なんだよ…」
「戒めとして近くで見せつけるには十二分な存在だ。」
「くそったれと思うような世の中だけど…
 こんな素敵な出会いも度々用意してくれる…
 だからな…
 この世の中を諦めきるには、
 まだまだ早すぎるんだよ。」
与那嶺
「素敵な出逢いって私達のことですよね。
 確かに諦めるには早すぎますよね…
 まだまだ楽しめる事もありますし、
 伊島先輩も良くしてくれますし…」
朝倉
「お楽しみ邪魔して済まなかったな…
 ガールズトークとかも続けていたかっただろ…」
与那嶺
「別に構いませんよ…
 伊島先輩とは息の長い付き合いになりそうですし…
 そうした機会なんていつでも用意してくれますよね…
 セ・ン・パ・イ」
伊島
「打ち解けてくれているのは嬉しいけど…
 ちょっと周りに対して無警戒過ぎないか…」
朝倉
「確かに伊島に頼りすぎな気もするが…
 まあ、
 頼れる相談相手を早目に見つけれるのは…
 早く会社の部署に打ち解ける為には良い事だ。」
伊島
「朝倉先輩も…
 いざとなったらフォローよろしくお願いいたしますね。」
朝倉
「科を作るな…
 こうしたところでやるから要らぬ誤解を招くんだ…」

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