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舟編みの人~第9話~

朝倉
「若者からしてみると…
 句読点とかを敬遠する傾向があるみたいだな…」
伊島
「今年あたりから
 新入社員から年寄り扱いされ始めましたけど…
 詩歌の世界だと…
 句読点とかはあんまり遣わないですね…」
朝倉
「年寄りって…
 泉もそんな年齢になってきたんだな…」
「そろそろ…
 ISSAやSIKIBUの主担になってもおかしくない頃だろ…」
伊島
「レジェンドが…
 まだまだ元気なので…」
「出世階段と呼ばれる場所が渋滞して…
 私に役回りがくるのは何時の事やら分かりませんね…」
「それに慢心していると…
 新人に追い抜かれるかもしれません…
 こればかりは…
 社長の胸先三寸かと…」
朝倉
「冗談でも…
 舌先三寸でも…
 社長が泉に対してそんな事言ってくれると良いんだけどなあ…」
「あとな…
 泉が社長に問いかけて聞き出そうとしたのならともかく…
 社長が何も言い出す様子がないのなら…
 そこは胸三寸と言うべきだろうな…」
伊島
「今日も漱石モード発動しましたね…」
朝倉
「話を戻すが…
 詩歌の世界でも…
 普通に鍵括弧や句読点に感嘆符を見かける様になったけどな…」
伊島
「かと思えば…
 普段LINEでやり取りしていると…
 スタンプを気軽に使ったりしてますし、
 確かに句読点あんまり遣わないですね。」
朝倉
「LINEでダラダラとやり取りしがちなのは…
 句読点で話の終わりを切り出さないのもあるのかもな…」
伊島
「単なる仲間内ならともかく…
 仕事関係でやり取りしているなら…
 その辺りは…
 ドライに簡潔なやり取りで済ませばいいと思うのですけどね…」
朝倉
「本当に仕事とプライベートな交友関係との切り替えして欲しいものだよな…」
伊島
「その切り替えが上手く行かないから今の若者たちは苦しんでいるのかもしれないですね…」
朝倉
「私見だが…
 昔よりも皆…
 人間関係の距離感に苦しんでいるのかもしれないな…」
伊島
「一概に年齢で括るのが難しいのもあるのかもしれませんね…」
朝倉
「昔に比べたら年下の上司に年上の部下なんてのもごく自然だからな。」
「年齢や先輩後輩とかの序列はもう気にしなくて良いと思う。」
「若くても尊敬出来る奴はいくらでもいるし…
 ただ無駄に年ばかり取って成長もなくて馬鹿にしたくなる奴もいる。」
「そんな中で強い弱いや役割の重さに違いが出てきてしまうのは今の社会の偽らざる姿だと思うよ。」
「尤も…
 昔と今とでは大切にされるものが変わってきているから…
 嘗て威張っていた人達が今や…
 いなくなっている事も珍しくなくなってきている。」
「世の中の価値観の変化は無視してはいけない気はする。」
「とは言え…
 親しき仲でも…
 ある程度は礼儀は弁えておいた方が良いな…」
伊島
「今では…
 文芸誌でも…
 上得意さんになってくると金銭的な話をする時以外は…
 ビジネス文書でのやり取りではなく…
 LINEとかでやり取りしてしまいますからね…」
朝倉
「俺はビジネス的な交流をする様な場から離れているから…
 俺の例はあんまり参考にはならないだろうが…
 飛び込み営業とかをしない限りは…
 そんなに堅苦しいやり取りしなくて良くなってきている気はするけど…」
「一見さんと上得意さんとでは…
 どうしても共通項と言うか…
 合意の上での取り決め事のあるなしが違うから…
 対応が違ってきてしまう…」
「一見さんには…
 そうした取り決め事をどの様に決めていくかを…
 お互いを知る事から始めなくてはいけない…」
「やり取りを始める中で自分が受け入れられる最低ラインをちゃんと示しておかないと自分達の仕事場を踏み荒らされる事にもなりかねない…」
「それがちゃんと伝わっているかを確かめる為にも…
 既読スルーされると困るんだ…
 特に一見さんにはな…」
伊島
「すみません…
 朝倉先輩からのLINE既読スルーは…
 あまりしないようにします…」
朝倉
「もう何年もやり取りしているんだ…
 伊島の読むタイミングくらい熟知している…
 そんな事で気に病むな…
 それに弟子筋としては出来た奴だと思っているよ…」
伊島
「いつの間に弟子扱いになってんですか…」
朝倉
「後輩に対して一度でも仕事を教えた奴は取り敢えず…
 弟子なんだよ…」
伊島
「この会社では師弟制度なんですか…」
朝倉
「この会社の不文律みたいなものだよ…」
「やりたい仕事や…
 やらなければいけない仕事が見つからない社員を
 いち早く一人立ち出来る様にする為の仕組みだな…」
「それに仕事を教えるという事が…
 実は自分達の仕事を一番理解する事に繋がると…
 社長が口酸っぱく言ってる事だよ。」
「と言う事で…
 お前も…
 そろそろ…
 本格的に弟子とったらどうだ…」
伊島
「先輩の差し金だったんですね…
 この間の新人教育研修は…」
朝倉
「遅かれ早かれ誰かが持ち掛けていただろうさ…」
「中途採用組とは言え…
 もうお前も文芸誌では一目置かれる存在になって来ているだろうが…」
伊島
「それで冒頭のやり取りだったんですね…
 合点がいきました…」
朝倉
「中々…
 そうした事に対しては反応が相変わらず鈍いよな…
 お前も…」

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