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【タイ旅行】サムイ島で朝日を見に行くな!!

二週間、卒業旅行で彼とタイに行ってきた。
バンコク、プーケット、カオラック、サムイ島、タオ島と色々な箇所を回る盛りだくさんな旅で、生きてきた中で一番刺激の多かった日々だったと思う。
バンコクに着いた私たちがまず向かったのは、タイトルにもあるサムイ島だった。

そしてそのサムイ島二日目の朝に、この旅一番の事件が起こった。
もったいぶっても仕方ないし、これから旅行をする方にもこの出来事を伝えたいということもあって、早速何が起こったのかについて書こうと思う。

朝六時半、海へ朝日を見に行こうと歩いていたところ、片手じゃ数えきれないほどの野犬に襲われたのである。


噛まれたわけではない。ただただ吠えられた、それだけのことなのだが、その恐怖感は今思い出しても体をぎゅっと抱きしめて塞ぎ込みたいほどのものだった。

タイは日中とてつもなく暑い。だからなのか、ナイトマーケットやクルーズ、クラブ、バーなど夜から楽しめるものが多い。朝は本当に人がいない。私たちしか起きていないような世界で、唯一朝から活動しているのが野犬たちだった。

吠える。とにかく吠える。私たちがまだ遠くにいる時から、前方に何匹もいるぞとその声からわかった。
日本で吠えられるならまだ安心できた。なぜならリードがついていて、少なからず飼い主から何らかのしつけを受けているからだ。
だが、タイは違う。野良猫の感覚で野犬がいて、見た目は柴犬に近いが耳も目も体も、とにかく鋭く感じる。噛まれる、より喰われるという感覚の方が近い気がした。

そんな野犬たちが、私たちが歩く一本道の両側にしっかりと立って吠えているのである。
最初はまだ良かった。ただ吠えてくるだけでその場から動いてこなかったからだ。私たちはなるべく野犬を見ないようにした。それしか抵抗の手段がなかった。
そうしていると、野犬たちは吠えてくるだけでこっちには寄ってこないということがわかった。安心まではできないが、私たちは呼吸を荒くしながらそのまま海を目指した。

一本道の真ん中まできた時、茶色の野犬が吠えているのが見えた。これまでと変わらず目を合わせないようにしながら、かつ会話も続けながら前を向いて歩いた。しかし、もし追いかけられたらどうしようと私の中で嫌な妄想が膨らんだ。短距離走は唯一人に誇れるくらい得意だったのだが、犬相手には絶対に勝てる気がしなかった。逃げるという選択肢が封じられているその状況が、私をもっと震え上がらせた。
そして嫌な妄想に呼応するかのように、右の家から何匹もの犬の声がした。柵があって出てこれないようにはなっているが、その数に圧倒された。

そして私はあまりの怖さに、絶対に犬と目を合わせてはいけなかったのに、こらえきれず後ろを振り向いてしまった。茶色の犬からどれだけ離れただろうと確認のために振り向いたその時、野犬は私たちのすぐ後をついてきていた。
「わっ」という言葉と共に私は跳ねた。大きな驚きというより、恐怖が体から沸き上がったような動揺だった。私のその声に彼が驚いた。続いて野犬の存在に気づき、また驚いた。

「ごめんね。驚かせちゃってごめんね。ごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんね」

私は謝った。ひたすら野犬に謝った。タイでは日本語は通じないとわかっていたし、犬にも通じないとわかっていたけれど、「ごめんね」が止まらなかった。実に情けなかった。

そして私たちの動揺をさらに搔き立てるかのように、右側の犬たちが一斉に吠え出した。柵から出ている鼻は8つほどあったように見えた。
野犬は変わらず私たちの後ろを歩き、右からは人生で聞くことのない量の犬の声に圧倒された。噛まないでくれ、助けてくれ、早くどっかにいってくれ、と心の中で何度も祈りながらなんとか、なんとか一本道を抜けた。
帰れば良かったのではないかと、第三者なら思うかもしれない。しかし、帰るための道は今通ってきた一本道を戻るしかないのだ。すぐに引き返せるほどの気力は、もう残っていなかった。

一本道を抜けた後、右に曲がりしばらく歩くと大通りに出る。しかし、私たちはその道を左に曲がるというミスを犯した。そして新たに数匹の野犬に苦しめられた。それでも海をあきらめきれず、なんとか目指したが、海へ続く道は早朝のためゲートが閉められていた。加えて、その海の方角は東ではないことにも気づいた。

私たちは帰り道、もしまたタイに旅行することがあっても、絶対に朝日を見に行かないことを誓ったのだった。





余談

この一本道の一部始終は、偶然回していたGoProに残っていた。私たちは何度もその映像を見返しては「記憶に残る思い出になった」と震えながらも笑って語り合うのだった。




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