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小説「見上げた空は今日も青い」第三話

「なに食べたいっすか?」
「なんでもいい。」
「そんなのは困りますよぉ…。」
雪野はがっくしと肩を落とした。
「美味しければ、それでいい。」
「そう、ですか。」
「なんだ?どうかしたのか雪野。」
「っえ!!あ、はい。いや…大丈夫です、行きましょう!!」
この時加々矢は、初めて雪野を名前で呼んだ。
雪野の反応に首を傾げたが、まぁいいかと思考を戻した。
「大根安っ!!」
スーパーに入るとカゴを持った雪野は今、野菜のコーナで大根に目を光らせている。加々矢にはこれが安いのか高いのかは分からないが、この反応はもはや主婦に見える。いや、男だから主夫なのか…?
「…やさん、加々矢さん!!」
「ん…?ああすまん。なんだか考え込んじまって。」
「鶏の軟骨好きなんすか?」
「…は?」
「だってずっと見てたから。」
気が付かなかった。鶏肉コーナーの前でぼーっとしてたとは。
「あぁ、いや、別にその…」
「分かりました、買いましょう!!」
「だから人の話を聞けって。」
突っ込まれながらもカゴにいろんなものを入れていく雪野。
さっき安いと言っていた大根、鶏軟骨、長ネギ、ぶなしめじ、木綿豆腐、片栗粉、にんにく、生姜、麺つゆ、料理酒、豚バラブロック塊肉(!?)、マグロのネギトロ(!?!?)。
「おい雪野、昼飯の買い出しなんだよな?そのマグロのやつは何に使うんだ?あとその肉の塊は俺たち二人の昼にしては多すぎないか?」
「あ、豚バラのブロック肉は作り置き用っす。」
「作り置き?」
「はい。加々矢さん外食ばかりだって言ってたし、家でもすぐ手軽に食べられるように作って置くっす。」
俺のために…?
「は、はぁ…そう。じゃぁ、そのマグロのやつは?」
「あ、これは奮発したっす!!」
「今すぐ元の場所に戻して来い。」
即座にそう伝えた。ったく、支払うのはこっちなのをいいことになんでも買おうとしやがって…。
雪野にお金はあるか、と聞いたところ今月ピンチらしい。なのでこれら材料は加々矢が支払うことになっている。余計なものは買いたくない。
「ほらさっさと戻して来いって。」
「えー。」
雪野からはブーイングの嵐が巻き起こっていた。
仕方ねぇなぁ…。
「そんなに食いたいなら、今度店に連れてってやるからその時食え。それでいいだろ?」
「ッ………!!」
「どうした、顔が赤いぞ?」
「い、いや、その…か、顔近いっす…!!」
「え?…あぁ、体制の問題か。」
確かに加々矢より背丈が大分低い雪野である。上から顔を近づけられれば恥ずかしくもなるだろう。そう理解した。
「い、行きますよ!!」
「なんだよ、あとはいいのか?」
「いいです!!」
相当恥ずかしかったらしい雪野は、顔が離れると早歩きでそそくさと会計に向かった。もちろん、ネギトロは元の場所へと戻して。

つづく。

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