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怪獣とは信仰である...ベアー・マクリアリー"ゴジラ:キング・オブ・モンスターズ"






周囲(というかSNS)に映画を語る人が増えまして、そして、それはまず間違いなくこちらのツボにもはまって来るので、軽率に影響されて見に行くことが増えてきました。今回は周囲がゴジラ音頭を踊る人間ばっかりになってしまったので自分も踊って来たという話です。

以前「シン・ゴジラ」でもおしっこちびっちゃったのですが、やはり、ゴジラとは、大きく、恐ろしく、人間の小さな思惑を吹き飛ばしてしまう。啓示めいた何かと縮小再解釈でもしなければ(本当は「ただある」存在として描かれるものだと思いますが)こちらが壊れてしまう、そういう圧倒的存在として刻みつけられておりますが、今作はその期待(というといささか不謹慎かもしれませんが)に過剰なまでに応えているものといえるでしょうか。

と、冷静に言ってるようですけど、充実の低周波音響と圧倒的な映像の圧力で何度かショック死がよぎりましたし、最後の方とか小刻みにショック死しました。そらあの極限状況なら一目見ただけでモスラは味方だと思っても不思議ではない。

怪獣映画の文脈に詳しくないので映画の中身に関してはこのへんにしておきまして、特筆すべきだなと思ったのは音楽面。これは映画館で是非体感して頂きたいのですが、TITAN(劇中における怪獣の総称)の登場と激突のシーンに当てられる音楽が完璧。彼らの咆哮と衝突の音圧、それらを盛り上げる緻密かつ大胆な音楽のアートワークを体感できたことは幸いでした。何度かショック死します。




制作したのは「ウォーキング・デッド」シリーズなどを手掛けたベアー・マクリアリー氏で、メイキングやいくつかの劇中曲を公式youtubeで見ることができます。TITAN=原初の神であり、人間よりも前から地球を統べていた超越者として古代超文明における信仰の対象であったという監督をはじめとする製作スタッフの「宗教観」を見事に音楽化することに成功しています。



興味深いのはゴジラのテーマには祭囃子、ギドラのテーマには読経がマッシュアップされていること。

日本でやってたらおそらく顰蹙を買うのではないかと思われますが…w 
囃子とは元々神を描く舞台芸術である能における劇伴音楽ですし、荒ぶる神々の長=ゴジラという構成上納得のいく形。祭りというのは賛否はありそうですが、鎮まりたまえ~って感じでありだと思いますし、エンドロールでの演出とも一致します。あと純粋に浅草の氏子衆(ロンドンのスタジオで収録したらしいのですがそこまで呼んだのだろうか)の掛け声が伊福部先生のオリジナルテーマの変拍子と合ってて音楽として面白い。日本でも壮大な物にやたらとラテン語の合唱とか入れたがるクセがありますからね。

対するギドラの方には読経が当てられているのも面白い対比です。これもまた本物のお坊さんを呼んでいます。4人いてそれぞれ違う意匠の法衣を着てるので宗派とかどうなってるのかよくわからないですし、どの経文なのかもちょっと聞き取れないのでわからないですが、ゴジラと並び立つ宇宙怪獣として、神に対して仏、土着の信仰に対して外来の信仰、そういう対比なのではないかと思われます。

日本における神仏習合は国家の思惑と民間での信仰とで入り乱れなかなか難しい話になりますが(ちょっと見たところこちらのページで詳しい)、環境テロリストとモナークの対立は選民思想バリバリで不愉快なものに描かれていますが、その対立が「宗教戦争」であったと見れば、その傲慢さと無辜の人々の流す血の理不尽な多さに対しても納得のいくものであるかなと思ってきます。それだけ説得力のある音楽だな、というのはいささかこじつけがすぎるかもしれませんが…w ともあれ、とても良い劇場体験でした。