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死に際と病室と理解した後の涙

波の音が聞こえた
光差す雨上がりの海
ぼやけた視界には波際の白い泡と
私の手を引くすらりと伸びた白い手

風の音が聞こえた
不機嫌そうに鳴る錆びた電波塔の上
早くしろよと背中を押す者達と
必死に縋り付く汗ばんだ私の手

帰り道なんて解らなかった
そもそも自分の居場所も分からなかった

様々なものが頭を巡った
大事な宝物を忘れないようになのか
最後に見納めと思ってなのか
そのひとつひとつを唯々見送った

ある時声が聞こえた
振り向いたら自分が動けるのだと思い出した

右腕に何かが溢れた
反射で動いた指の先を見て腕があることを
足の感覚があることを思い出した

もしかすると目も開けれるのではと思い至って
思い切り力を入れてみると
真っ白な天井が眩しくて驚いた

そこには貴女と彼等が居て
怒声なのか歓声なのかはわからないが
叫ぶ彼女と小娘の声と
訳も分からないまま私の右腕をしゃぶり続ける小僧の姿が目に焼きついた

ああ、そうか
引き戻してもらったのか
どうもご面倒お掛けしました

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