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October 12|白、1163の数字について

風が冷たい曇天の火曜日。定期検診があったので午前中から都内の病院にいた。大学病院に通うことは慣れっこだが、病院のあの独特の雰囲気と匂いには未だ慣れない。

※このnoteを投稿したとき、高校の同級生でいま医学生の友人からDMをもらって気持ちやお医者さんとのコミュニケーションに変化がありました。このこともしっかり残そうと思い、最後に【追記】をしています。(友人に掲載確認中)

乳腺科の待合室へ行くと、そこはもう全員女性の世界である。今日その場にいたのは40代(の方も少なく、よりご高齢の方が多い)以上の方がほとんど。そんな中、フレアパンツに金髪にスニーカー、オレンジのヘッドフォンの私はそれなりに浮いていた。ここにくるということは何かあるのだろうという若干の好奇の目を感じつつ、お医者さんに呼ばれるのを静かに待つ。

どんな人が来ているのだろうと待合時間に乳腺の病気について調べてみると、乳腺には様々な病気があるらしい。ここには定期検診で何度も訪れている人もいれば、外来からの初診の人もいる。程度は違えど皆一様に何かを抱えていることは事実で、その空間に浮きつつも仲間意識のような、他人事とは思えない何かを感じていた。

1163番の方、お入りください。

診察室の扉の上にある案内板に表示されるのは、名前ではなく番号である。

ご高齢の方が多いからか表示された番号に気づかず看護師さんが大声で名前で呼んでいることも多いのでプライバシー対策になっているのかよくわからないが、真っ白な空間のなか番号で呼ばれることの絶妙な居心地の悪さに比べればそのくらいの人間らしさはちょうどよかった。もちろん私は表示された番号を見て、診察室へ入る。

なぜ私が病院へ来ているかというと、以前noteに記したように、胸の腫瘍の検査である。発見当初の私が絶望しながらかいたnoteはこちら↓

これを書いたのが7月で、もう3ヶ月が経過した。すぐに摘出せず経過観察をしている理由は下記である。

・腫瘍を摘出することもできるが急激に大きくなっていないので急を要するわけではない。
・腫瘍の位置が乳頭に近いので、術中に傷つけてしまった場合に将来的に母乳が詰まって出なくなるなどのリスクがある。
・ただし、腫瘍自体が小さくなる可能性はほぼ0。このままの大きさか大きくなり続けるものではあるので、どこかのタイミングで摘出は必要。

そんなこんなで、今すぐ手術しなくてもいい!と経過観察することになったのだが、3ヶ月ぶりの定期検診は緊張した。胸に熱いくらいあったかいジェルを塗りたくられ、先生がモニター画面と胸部を交互に見ながら、エコーの機械を脇の下から両胸の間までひたすら行ったり来たりさせる。画面に映る自分の胸の何やらボコボコした乳腺らしきものを見るが、素人が見てもちっともわからない。脇の下をスクリーンショットし画面上で楕円状の何かのサイズを測られた時はまた腫瘍ができたのかと焦ったが、そういうわけではないらしい。動かしては止まり、モニターをスクリーンショット。腫瘍の最新の大きさを測り終え、ジェルを拭き、服を着る。

「現時点ではとってもとらなくてもいいですし、大きくなってはいますが急激な成長ではないです。どうされます?」

どうせ取るなら早い方がいい!と7月は思っていたのに私が手術に踏み切れないのは、今通っている大学病院の担当医を信用しきれていないからという理由もある。

担当医だと思っていた人(自分は担当医ではないと初診の際に伝えられていない)は研修医で、その人にされた針生検が本当に痛かったし時間がかかった。

針生検...胸に局所麻酔をして太い針を刺し、腫瘍の組織の一部を切り取り、その腫瘍が何者なのかを調べる検査。(http://michishita-clinic.com/pdf/NeedleBiopsy.pdf

針を腫瘍に突き刺していく。胸の深いところはあまり麻酔が効いておらず(麻酔を何回も追加してくれたが)うめき声が出るほど痛いのに針をぐりぐり動かされ、これはお医者さんの腕の問題だと思うのだがうまく採取ができず何回も太い針を刺され、40分も両手をバンザイした状態でもう痛みに反応する気力もなく早く終われとただ願っていた。その時、突然の登場から5分ほどで一発で採取を終了させたのが本物の担当医であった。

大学病院の怖いところは研修医に何かされることだよな、と思う。

日本の医学の発展のためにもっと場数が踏めるよう、ぜひ私に針を刺して!なんて、申し訳ないが思えない。個人的な事情を言うと、過去に薬でアナフィラキシーショックを起こしたことがあるため飲めない薬がいくつかある。そのためできるだけ痛くない処置を望んでいるし(痛み止めが種類によって飲めない)、そもそも薬を飲むような状況にならないように日々健康を気にしている。

思い返せば、私の親知らずを抜いたのも研修医だった。「ほら、こことここに麻酔をして、ここもこう引っ張って。」「違う違う、切るのはそこじゃなくてこっち。」「抜くときは左右に揺らしてこう、こうだよ。」「ああ割れちゃった、取れるとこから破片を取って綺麗にして。」という具合で、なんとも恐ろしい時間、研修医の横にピッタリと先生がくっつき教えている。やられている本人からすればその実況中継ほど嫌なものはない。

話が逸れてしまった。そんなこんなで、【先生と思ってた人が研修医だった事件】があってから病院に対して不信感があり、本当の名前もよくわからないような先生のにメスを入れられるのも嫌で、病院を変えようと決めた。

本当は前回取ってくれた京都の先生にお願いしたいけれど、術後の経過観察の時にはもう産休か何かで長期で休むと言っていた気がする。どうせ大きくなり続けるなら、あと半年もない学生期間のうちに信頼できるお医者さんに手術をしてもらって安心したい。

個人的には、番号ではなく名前で呼んでほしいな。プライバシーも大切かもしれないけれど、結構勇気のいる手術だからちょっとした“あたたかさ”はほしいかも。

ああ、どこにいるの、いい先生。


【追記】



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