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美容室で美容師さんと泣いた日

いつも通っている美容室。
私の担当ではないのだが、担当の方が産休でお休みしていた時に、担当してくれた美容師さん(Hさん)。
今年の4月ごろ、そのHさんが10月でこの美容室を辞めると聞いたので、最後にお話ししたいなぁと思っていた。
担当の方(Rさん)に「一回だけ、Hさんを指名させてください」とお願いしたところ、快く承諾してもらえたので、Hさんを指名させてもらった。

Hさんはこの美容室ができた当初からのメンバーで、もう10年以上ここに勤めている。
私も今の会社に勤めて10年以上になる。
このタイミングでなぜ辞める選択をしたのか、辞めた後は何をするのか?それが聞きたかったのだ。


「息子さん、小学校一年生で、うちの息子と同い年でしたよね!学校、どうですか?」

シャンプー台に座った私に何気なく質問したHさん。
息子のことは特に話すつもりはなかったのだが、そう聞かれて思わず答えてしまった。

「実は、すんなり行けてなくて。登校渋りしてるんです。登校するときも、私と一緒で。お昼過ぎから行ったり、日によってまちまちな感じで。」

「え!そうなんですか。それはリコさんも大変ですよね。ずっとそんな感じなんですか?」

そこから、息子のことを洗いざらい話した。
5月ごろから登校渋りが始まり、8月には発達障害の検査のために通院していること、今は特別支援級にお邪魔させてもらっていること。


シャンプーが終わり、Hさんは知り合いのお子さんの話を始めた。

「特別支援級って、私にとって、めちゃくちゃタイムリーな話でした。
年長さんの息子を持つ友だちがいて。"発達グレー"って診断されたので、来年の小学校は通常級にするのか、支援級にするのかで迷ってて。」

「"特別支援級"ってやっぱりちょっと抵抗あるじゃないですか。でも、我が子が我が子らしく居られるところがやっぱりいいんじゃないかって。うちの息子がもしそういう選択を迫られたら、私もやっぱり"息子が息子らしく居られるところ"を選ぶと思うんです。"その子らしく過ごしてほしい"って願いは、どんな親でもそうだと思うんですよね。」

そういって、「ごめんなさい」と言って、Hさんは涙を拭った。
最後の言葉が涙声になっていた。
私も泣きそうな顔をしてたんだろう、Hさんはさっとティッシュを渡してくれた。
ティッシュを渡された私も、たまった思いが溢れてきてしまい、ポロポロと泣いてしまった。

Hさんは続けて、もう一人、知り合いのお子さんの話を続けた。

「うちの美容院のロゴを描いてくれたり、DMのイラストを描いてくれる方がいるんです。その方の息子さん、今は中学校3年生なんですけど、ずっと支援級に通ってて。勉強は好きじゃないんですって。でも、野球が好きだから、高校は野球の強いところに行くみたいです。」

「通常級でぎゅうぎゅうに押しつぶされないで、支援級でのびのび過ごせたから、"野球で頑張りたい"って思うようになったんじゃないかなって。この間、この方と私の友人(支援級に通うか悩んでいる)がそこの喫茶店で話をして、二人でおいおい泣いたらしいです。」


Hさんは、"野球の強い高校に行く"と決めたお子さんのお母さんの話を続ける。

「その方、"発達障害の親の会”に参加されたそうなんです。どんな思いで子育てしてきたのか、とか、悩みを共感できると思って。でも、全然違ったんですって。"うちの子はもっとひどかった"ってマウンティングとられるばっかりで。そしたらもう、こっちの話できないじゃないですか。"私はあなたの愚痴のはけ口になるためにここにきたんじゃない"って思って、悲しい気持ちになったみたいで。」

「それ聞いて私、めちゃくちゃ怒って。だってそうじゃないですか。なんでマウントとられなきゃいけないんだろう。そんな場じゃないじゃんって。それからは、"親の会"には参加してないそうです。」

そして、Hさんは続けた。

「美容院って良い場所だと思うんですよね。1時間とか2時間とか、密に、1対1で話せる。でも、友だちとか近しい関係じゃないから、第3者的な目でフラットに話せる。利害関係とかそんなのもないから。」

「だからね、リコさん。私はもうすぐここを離れるけど、担当のRさんでも良い。辛い思い、ここで吐き出しちゃっても良いんですよ。美容院って髪切るだけじゃない、そういう場所でもあると思ってるんです。」

そしてHさんは笑った。

「ごめんなさい!私、髪の話全然してないですね。髪、切りましょ!」

私も泣き笑いの顔になった。


Hさんがなぜ美容師になったのか、ここを辞めてからの話はこの後聞いた。
これもまた、私の胸に響くものがあったので、その話はまた次回。

※追記
Hさんの話の続きはこちら。

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