乙一先生の『GOTH』はいいぞというおはなし

夏なので読書感想文でも書こうと思います。
対象にする作品は本格ミステリ大賞受賞作ですが、夏らしく、あるジャンルのホラーテイストを含んでいます。乙一先生著で作品の名前は『GOTH』。端的にいうと、人間の振りをするのが上手い「僕」と白い肌に黒い服と髪をした人形めいた少女の話です。言葉にすると大分陳腐にはなりましたが、乙一さんの筆致と構成力で、似たような触れ込みの作品に追随を許さない薄ら寒い出来に仕上がっていると思います。

今回はこの『GOTH』にかこつけて何となく思ったことを書きます。ネタバレを踏むと初見の魅力が褪せてしまう可能性があると思うので、未読で気になる人はここで引き返して書店に向かうか貸し出すので私のところへ来てください。

『GOTH』の魅力の方から少し語ります。
まずもって森野のデザインめちゃくちゃいいですよね。陶器のような白い肌に全身黒色の服、なおかつ無表情であることから人形のような外見をしている、というだけでもう好きな人が多そうな気がします。それに加えて死の香りがどことなくするみたいな描写が散りばめられているの、実に性癖だと思います。まぁ個人的に加点要素一番高いの左目の下の小さなほくろなんですけど。森野夜に100,000点。
最初の短編『暗黒系』のオチから既にぼんやり記されていて三編目の『記憶』でそのルーツが分かる、彼女のどこか抜けてる様子もかなりの加点要素だと思います。後天的な怪物、というか後天的な魔性なんだなって感じられてとてもいい。

章をたどる事にポンコツ疑惑が出てくる森野と対比を描くようにして、徐々に存在感を不気味なものに膨らませていくのが「僕」ですね。一見まともなように見えて作中で間違いなく一番ヤバいやつ。脳内イメージは維新先生の<戯言シリーズ>のいーちゃんを更にホラーテイストに悪化させた感じです。分かる人には分かるかもしれないけどもうひどい。
主人公のヤバさが際立つのは下巻。主人公視点の動かない上巻と違って、被害者・犯人など様々な他者視点で主人公の様子が語られていく。中でも秀逸なのが『土』と『声』ですね。『土』はなんというか描写の耽美さが静かな発狂の波と共に描かれてるのがほんとひどいしオチに至ってはリアルサイコパス診断始まったな……ってなるヤバさというか。まぁ個人的に一番好きな短編だったんですけど。『声』はレトリックのためのトリックみたいな側面は感じたんですけど、『土』の後の短編ということでうまい配置だなって思いと狂ってる人間に見えない主人公の描写を書くことの意味を噛み締めてました。(文庫版で夜の章僕の章なんて分けられてたので、『声』のレトリックが下巻すべて覆いつくしてるのかみたいな感覚に襲われたんですけど錯覚でした)

本編で語りたいことは語ってしまったので性癖と学問めいたことを少し語って余白を埋めます。この本を読んでて思ったのが、対称的な関係にある二人っていう人物配置がすごい好きなんだなってことでしたね。今回で言うと「先天的な怪物と後天的な怪物」になるんでしょうけど、物語に沿って、後天的な怪物の鍍金が徐々に剥がされていくのに対して先天的な怪物の地金が現れたり消えたりしていくのをよくここまで対称的に綺麗にかけたなと思います。
学問めいたことを言うとレトリックのためのトリックの話になるんですけど、『映像文化が発達する中で文章を読む際にも映像が頭の中に照射されている』みたいな話をこの本を読みながらより一層ああそうだな……って感じてました。物語が進むにつれ頭の中で勝手に主人公やヒロインの像が積み重なっていって、その像が形をもって動き出すからこそレトリックにより深く嵌るのかな。人に対するイメージの積み上げってあると思うんですけど、今回でいうと頭の中で「僕」という想像上の怪物を育てていたというか。
まぁ映像文化が流行る前に人はどう書物を読んでたかみたいな文献を冷やかしてしかいないので明言は出来ませんけど。そこら辺の話をし出すと大学二年生の時の講義の記憶で頭が沸騰するのでここまでにしておきます。

つらつらと言葉を垂れ流してきましたが、要するにGOTHはいいぞという、まぁそういう話でした。

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