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【撮影解説】8月×広島×吉岡広貴

今年のJR大会は広島開催。
「彼にとっても思い入れある地元・広島市民球場での公式戦は、今回が最後の機会になるかもしれない」
その思いが自分の足を広島へと向かわせました。

独特な写真を多く撮れたので、久々に写真の言語化をすべく、撮影後記、書いてみます。

大会概要

正式名称「JRグループ硬式野球大会」。JRが発足した昭和63年から毎年夏に実施され、北海道、東日本東北、東日本、東海、西日本、四国、九州の7チームが参加。2023年は第36回大会。

開催地は東日本→西日本→四国→北海道→東海→九州の順で持ち回り、東日本が主管の際は東京⇔東北を隔回で輪番。中止が発生した際は飛ばさずに翌年に繰り越し。
2005~2012年はJR西日本が、会社が起こした事故の影響で休部していたため、6チームで実施。

JR西日本が主管で開催したのは1989年・広島、1995年・大阪南港、2001年・舞洲、2014年・神戸に続き5回目。
もともと2020年に西日本が主管で広島で開催予定でしたが、そこから3年連続で中止が続いており、2023年は4年越し、34年振りの広島開催という状況でした。

撮影背景

現在、広島市民球場(MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島、以下:ズムスタ)で行われる社会人野球の試合は、例年8月に実施される「JABA広島大会」の準決・決勝の1日間のみ。
広島大会には四国地区からは毎年、四国銀行のみが出場しているため、今回JR四国がズムスタで試合するのは、いかに貴重な機会であることが分かるかと思います。

今回撮影したJR四国・吉岡広貴選手(2023卒・広陵)は開催地・広島市出身。ズムスタでは甲子園出場を決めた2017年にも県大会でプレーしているとのことで、今回は彼にとって6年振りの同球場での試合でした。

今後、彼がズムスタで試合する見込みが極めて少ないことに加え、大学3年〜今夏まで外野に取り組んでいたところ、今大会は高校時代と同じセカンドを守るようになったこともあり、ぜひ広島で撮影したいという気持ちが膨らんできました。

さらに、
・現地情報で正面砂かぶり席で観覧可能
・初日(自分が見に行けない平日)が雨天中止
・JR四国が初戦突破
・予備日(休日)の試合が東京を朝出て間に合う第2試合
・試合当日の天候が晴れ
・翌日に大阪でJABA近畿選抜ーオリックス(ファーム)が組まれて好天予報
・その他あれこれ
という条件が整ったため、前日に急遽、広島〜大阪遠征を決めたのでした。

撮影機材

ボディ:Z 9
レンズ:
NIKKOR Z 28mm f/2.8
NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR
AF-S NIKKOR 300mm f/4E PF ED VR
AF-S TELECONVERTER TC-14E III

今回のポイントは野球撮影ではほぼ使われることはないであろう、広角単焦点と標準単焦点を持参したこと。ズムスタの「正面砂かぶり」はネクストバッターズサークルが座席すぐ近くのため、そこを写すなら広角〜標準だろうと狙っていました。

これは過去に宮城球場(当時:楽天生命パーク宮城)の「プレステージ・プラチナ」の一塁側の角席で50mmで撮影した時のアイディアから。

2021年に仙台で50mmで撮影したオリックス・吉田選手

今回持参した28mmのレンズは前玉がかなり小さく、球場のフェンスの「目」よりも小さいため、目にレンズの位置を合わせれば、フェンスの写り込みを恐れずに撮ることができます。

前玉の大きさ比較。左が28mm、右が50mm。

一方、50mmはそこそこ大口径かつ、望遠でもないのでフェンスの写り込みが少なからず影響してしまいます。なので、レンズフードを取り付けずにフェンスに密着させ、なるべくフェンスの目の中央にレンズを配置し、最悪、四隅はトリミングで断てばいいや、くらいの気持ちで使っていました。

※実際、撮り始めはフードをつけていて写り込みがあったので、第2打席からフードを外しました

また、ネクストバッターズサークルがあまりに近いことから、一眼レフカメラだと、シャッターの音が大きく、もしかしたら選手の耳障りになり集中力を削いでしまうのではないかと懸念がありました。

座席に座ると目線がこれ

今回Z9での撮影では、サイレントモードにして、一切のシャッター音をOFFにすることで、間近でも少しばかりは影響を抑えられたのではないかと思っています。電子シャッターならではのメリットですね。

前玉(まえだま):レンズの一番先端側に配置されているレンズ。
大口径(だいこうけい)レンズ:直径が大きいレンズ。たくさんの光を取り込めるので、背景をボカしたり、高速シャッターを切りやすい。
レンズフード:本来の役割はレンズに斜めから入り込む余計な光を排除することですが、光の向きによっては不要。雨や衝撃から前玉を守ってくれたりもする。

球場環境

ズムスタで野球を見るのは今年6月の荘司康誠投手の登板が初めてで、撮影するのは今回が2回目。6月の試合はナイター(一塁側の正面砂かぶり)だったので、デーゲームでの撮影は実質ぶっつけ本番。

また、ズムスタは球場の向きの設計に特徴があり、日本ではとても珍しい、ほぼ真西にホーム、真東にバックスクリーンという方角で設置されています。
ですので、夕暮れ時は特に守る野手が眩しく大変なことで有名。過去にはNHK「球児苑」のデーゲーム特集でも取り上げられたのを見たことがあります。

裏を返すと、ホーム側の観客席からは被写体も背景も順光という状況が成り立ちます。ですので、今回はいかに「被写体が順光である夕暮れまでにバリエーションを増やせるか」という点を意識して、打順の巡りと時間を気にしていました。手前の被写体が日陰になり、奥の背景が日向のままだと、明暗差のバランスが大きく崩れてしまうので。

さらにズムスタならではなのが上述にもある「正面砂かぶり」と呼ばれる座席。バックネット裏ベンチ横(一塁側・三塁側それぞれ)に設置されていて、最前列はグラウンドレベルよりも低いため、迫力ある煽りアングルの写真を撮れることでも有名。
プロ野球ファンもここで素敵な写真を撮影されている方をよく見かけます。

正面砂かぶり(三塁側)の様子。ガラガラ。

今回は、そんな広島でのデーゲームでの撮影の様子を振り返ります。

(参考)記事中に座席名称がいくつか出てくるので、座席図を引用掲載します。

出典:広島東洋カープ公式サイト
https://www.carp.co.jp/ticket/images/zasekizu_ryokin/zasekizu.pdf
(2023年8月15日閲覧)

撮影写真

テーマは「夏らしさ」「広島らしさ」「彼らしさ」の表現。

プレーよりも【主題の被写体×副題の背景】のバランスを意識しました。
それでは撮影した写真をピックアップして振り返りたいと思います。
※掲載写真はトリミングや補正作業後のものです。

▼ネクストバッターズサークル編

28mm f/2.8 1/2000s ISO125

第2試合の第3打席。広角での日の丸構図の難しさを再実感した1枚。被写体を中央に置くことは、時に安定感を失わせ、バランス悪い写真になってしまいます。この写真では被写体の左右に高さが揃ったスコアボード、観客席(カープ・パフォーマンス席)を配置できたので、上下で二分割構図の要素を含められたかと思います。

オリジナル写真

オリジナルはもう少し右側が広く写っているのですが、トリミングした際に主題を中央に置くように配置しました。被写体もほぼ真正面を向いているのが、収まりの良さを引き立ててくれています。
野球の撮影で28mmを使ってる人は滅多に見ないと思うので、印象に残せるかなと思いつつ、小さい画面で見ると広角の写真は迫力が伝わらないのがもどかしいところ。
周辺光量落ちに加え、右上にフェンスの影が写り込んでしまってますね、部分補正しなきゃ。

ちなみにNikonからは26mmのパンケーキレンズも発売されていて、そちらも気になってます。もし26mmだったら、もう少し空を広く写せたのかな。まぁ、28mmでも収まり良く写せたから良いや(妥協)。

あと、野球を広角で撮影している人は、本当にお上手だと思う一方、作例を見かける機会がほとんどないので自分も手探りです。

余談までに筆者が最近素敵だなと思った野球の標準画角の写真は、Number PLUSでWBCを撮影していた田口有史氏の日本が優勝したシーンを、ネット裏の置きカメラでリモート撮影された1枚。マウンド上の大谷、空振り三振のトラウト、そしてスコアボードが1枚に収まった写真は必見です。

50mm f/2.0 1/4000s ISO100

第2試合の第2打席。この写真を撮った後に「うわ、これは50mmじゃなく28mmで撮れば良かった!」と思ったシーン。余白が狭く、やや圧迫感がある。結果的に、このシーンよりも、上述の第3打席の方が28mmに似合う写真が撮れたので結果オーライ。

50mm f/1.8 1/4000s ISO125

第2試合の第3打席。広角レンズに交換する前に標準レンズで縦アングルで。煽りで撮ることで、アイレベルで撮るよりもバットが空の方を向くので、より迫力を出せたんじゃないかなと思います。右上から左下にかけて対角線構図も取れてますし。顔の部分だけシャドウを明るく補正してます。

また、開放F値1.8での撮影なので、被写界深度がかなり浅くなっています。AFモードはワイドエリアAFにして顔に合わせ、瞳検出してピントを合わせています。

50mm f1.8 1/3200s ISO64

あって良かったISO64。絞り開放で撮りたかったのですが、ND(源光)フィルターも持ち合わせていないので、ISO感度を落とせるところまで落とし、シャッタースピードを早めて、ユニフォームが白飛びしない露出で設定。
準決勝はビジターの青いユニフォームでしたが、決勝戦はホーム用の白いユニフォームに着替えたため、こちらのバリエーションも撮ることができました。

やはり標準域の単焦点レンズは、望遠単焦点、標準〜望遠ズームとは違った、背景を殺さずに被写体を立体的に浮き立たせる魅せ方をしてくるなぁと感じます。

また、この写真は第3試合の第1打席で撮影したのですが、第2打席ではここも日陰になってしまっていたので、チャンスはこの一度切り。
背景に白い雲が良い具合に浮かんでくれたため、青い空、白い雲、そしてJR四国のホーム用ユニフォームの色合いが相性抜群で、とても夏らしい写真を撮ることができました。

50mm f1.8 1/3200s ISO64

マスコットバットを振り抜く背中姿は、昨年オランダにて山田健太選手でも同じような写真を撮影していて、そのアイディアを流用。広島の夏空を存分に取り込みたかったので、画面上部の余白が多めです。
画面内に影がほとんどないので、これぞ、被写体も背景も順光というズムスタならではの写真の極みみたいなところあります。

※日本の多くの球場は北がホーム、南がバックスクリーンなので、まずこんなド順光な写真は撮れません。方角的な例外は南にホームが配置されている神宮球場ですが、ローアングルでは撮影できないですもんね。

▼バッターボックス編

300mm f/4.0 1/2000s ISO400

ロイヤルボックス三塁側最前列(フィールドボックス席との境付近)より撮影。左打者を撮影する時、背中側が南、バックネット側が西になり、どう撮っても顔が陰ってしまうので、特に面白みはないです。背景の客席の座席が赤いのが広島を感じさせるくらい。
カープ戦だと背景にお客さんがたくさん入って、白×赤の色味が華やかに彩るので素敵ですよね。

ロイヤルボックス最前列からの眺め

続いては砂かぶりからの打席の写真。

300mm f/4.0 1/1250s ISO400

吉岡選手のルーティーンと言えば、打席に入る時にバットを寝かせる仕草。
三塁側の正面砂かぶりから撮影すると、立ち姿は縦アングルでないと収まらないですが、この動作の時は横アングルでも高さに余裕があります。
実際にこの写真もキャッチャーが写り込まないようにトリミングしてるので、オリジナルの画角はもう少し広いです。

オリジナル画像。ハイライトだいぶ落としました。

左袖のJR四国の文字と、背ネームが全て読めるように収まるので、思ったより良い仕上がりになりました。あと、背景の座席が玉ボケしてますが、フェンスの格子が出てるので、網越しでなければもっと綺麗に写るんだろうなぁとか思ったりしてます。

180mm f/2.8 1/2000s ISO160

ライトへ二塁打を放ったバッティングは、正面砂かぶり一塁側最前列から。200mmまでのズームレンズあれば横アングルは十分に収まります。
グラウンドレベルで撮影していると、夏場は特に人工芝で陽炎が目立つのですが、ズムスタは天然芝なので、その影響があまりないですね。

レフト後方にはJRの線路が走っているので、画角的に一塁への走塁中にタイミング良ければ、在来線・新幹線を背景に写せるとも思うのですが、難易度が高すぎました。

▼セカンド守備編

420mm F/5.6 1/2000s ISO400
420mm F/5.6 1/2000s ISO400

2枚続けて守備の写真。セカンドを守っていること、そして広島感を伝えたいということで、ちょうど「広島ガス」や「にしき堂」のもみじ饅頭の広告を背景に合わせられた写真。
「正面砂かぶり」は座席がグラウンドよりも低いが故に、内野手の足元がしっかり見えないのは懸念点。

420mm F/5.6 1/1600s ISO640
420mm F/5.6 1/1600s ISO640

シートノックの最後、バックホームの送球シーンから2枚。飛び跳ねると足元もしっかり写って見栄えが良い。
奥から手前に迫ってくる被写体を単焦点で撮っていると、フレームアウトしないかドキドキします。この写真、どちらもトリミングしていません。足元も、手先も、程よい余白を残し綺麗に収まりつつ、ピントもしっかり合焦しているので、本当に安心しました(笑)

編集後記

「砂かぶり」の名の如く、風に舞ってグラウンドの土が飛んでくるので、ブロワーは持って行った方が安心でした。Z9はセンサーシールドが本体内部にあるとはいえ、頻繁にレンズ交換していたので、かなり注意を払うことに…。

今回は観客も非常に少ない環境(撮影してる方も5名くらい?)での自由席だったので、プロ野球で同じことをやろうと思っても、まずできないです。そして、この球場ならでは光の具合や、煽りアングルなど、今後、他の環境で再現できる可能性は極めて低いけれど、特徴を抑えた写真は撮れたかな、という気持ちです。

普段は影を取り込むことで光を際立たせるコントラスト強めな作風が多い自分ですが、今回は光100%みたいな写真で、ふわふわな色に補正しても面白そうだなと思ったりしました。

なかなか野球で広角、標準の単焦点レンズを使える機会が少ないので、自分も手探りな部分も多かったですが、記載してきた通り、経験を積むことはできたのかなと感じています。
今後同様の機会は少ないとは思いますが、知見を元に応用して、より印象を伝えられる写真を撮っていきたいものです。

そして何より、夏空が広がる8月の広島で、平和に野球観戦ができたこと、幸せに大切に思いたいですね。

(作例写真や背景説明が長かったため、いつもより文量が多めになってしまいました。最後までお読みいただきありがとうございました!)

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