Xmas前前前夜 #Xmas2016

 まだ22日というのに、街中はカップルであふれていた。喫茶店に入っても、私と香織のような女二人連れはほとんどいなかった。

「仕事納め、なんとか間に合って良かったぁ」と香織がキャラメルマキアートを口にしながらほっとしていた。私って完璧人間! なんてつぶやいて自信ありげな顔をしている。数時間前の彼女の奮闘を思い出して笑った。
 お茶する約束してたのに、あと少し待って! の連絡。彼女の会社まで迎えに行ったらまだ怒濤の勢いで仕事をこなしていた。
「香織のあれはもう何か降りてたね。神ってたわ」と冗談めかして言った
「クリスマスが三連休と重なるなんて珍しいもん、遊びたいじゃん? 仕事残したくないよ」
「まぁ私も連休のために原稿書き上げたわ」と同意した。手帳を出してこのあとの予定を確認する。もちろん仕事じゃなくてクリスマスの。
「ほんと、三連休のおかげで皆ゆっくり過ごせるみたいね。香織みたいに仕事納めした人多いんじゃないかな」
 話しながらスケジュールに目を落とせば、"圭君と空港で待ち合わせ"の文字に胸が踊る。「私も今年は彼と会えるし」なんて本音がこぼれた。アメリカと東京との超遠距離恋愛中の彼を想う。
「あぁこのあとハワイだっけ。いいなぁ京歌は彼氏と過ごせて」
「でもクリスマス一緒に過ごせるのは数年ぶり」
「そう言えば近年は一緒に女子会してたもんね。今年は彼氏とでよかったじゃん、楽しんできな! 」
 とウィンクしてくれた。そしてお土産物忘れないでよ、と目を輝かせる。リクエストを聞けば候補が多すぎる。苦笑しながら手帳にメモしようとしたら書くものが見当たらない。ペン持ってないかと借りようとすると「リンゴとパインどっちがいい?」なんて意味不明の質問が返ってきた。赤か黄色のどちらが良いかってことらしい。ややこしい聞き方しないでよもう。赤色を借りたら「京歌はほんと赤好きよねー」なんて今さらなことを言う。

「赤って運命の糸と同じ色だもの」

 と言ったら、ど直球過ぎて聞く方が恥ずかしくなると香織が顔を赤くした。惚気てる訳じゃないんだけどな。話題を変えるよう「香織は恒例の女子会?」ケーキを頬張りながら尋ねた。
「そうだよー。今年は彼氏いない女子でアニメの聖地巡礼。泊まり込みでね」「じゃあ夜は宿で恋バナってわけか」
「うーん、恋に縁遠い女子の面々だからトランプゲームとかして終わる気がする」
 店内に溢れる男女の笑い声に香織の言葉がかき消されそうだった。

 店を出ると街のイルミネーションがまぶしかった。
「わっ」
 隣で香織が急に声をあげた。何かと思って彼女を見たら、どこから現れたのか犬が香織の脚にじゃれついていた。
「野良犬かな、珍しい」
 香織すこし驚いたように、小ぶりな犬を撫でた。
「でもよく見て。金色の首輪をしてるから迷い犬だわ」
 そんな会話をしていたら飼い主らしき青年が走ってきた。すみません、と謝りながら犬を抱き上げた。にこやかに会釈をして人混みの中に消えていった。

「今の人超絶イケメンだった!」
「へ?」
 香織が青年の歩いていった方を見つめて叫んだ。そこまで青年を見てなかった。香織はまた逢いたいなーと乙女な表情で言っている。

クリスマスの出逢い。うん、次の原稿のネタになる。内心思った。

創作のためにサポートを使わせていただきます。さらに磨きのかかった良い作品を創れるように活かしたいと思います。