コロナという感染症のせいで
入院面会が禁止される時が来るとは
誰も全く想像していなかった、ずっと前のこと。

腕に高級時計をつけた入院患者

入院中の義理父を見舞うと
4人部屋の病室のベッドでお昼寝中。

仕切りカーテンをそっと開けると、掛け布団の上に
無造作に投げ出されている両腕が目に入ってきます。

左腕には点滴の針が刺さっている。
そしてレンタルの長袖パジャマの袖が捲れて
剥き出しになった右手首には
場所にも、か細すぎる腕にも不釣り合いな
ロレックスの腕時計を見つけ驚いてしまいました。

入院準備の時に確認したのに

義理父の趣味は腕時計収集。
一番のお気に入りが多分このロレックス、、。

入院準備を義理実家で義理母と手伝っていた時、
この腕時計を持っていくと言うではありませんか！

お義父さん、入院手引きに
「盗難防止の為貴重品の持ち込み禁止」
と、注意書きがありますよ。

病院から渡されたリーフレットを見せて、
確認してもらいました。

携帯もスマホも使わない（使えない）ので、
腕時計が必要なのは理解できますが、
「時間」が分かればいいんです。
入院はその時が初めてでは無いし、
常識として考えなくてもわかる筈。

あなた頭大丈夫？

言いかけたけれど、義理親だからグッと堪えた私。
（1度目の我慢）

納得してくれたのか、いないのか。
入院当日持参したのは安い腕時計でした。

理解を超えた老夫婦の思考行動

それなのに数日後、お見舞いに行くと
腕にあの時計が輝いているのを見て
私は脱力してしまいました。

義理母にどうして？と聞きました。
義理父のリクエストで彼女が
病院に持って行ったことは自明のことですが。

「だって、お父さんが持ってきてって言うから」

あ“〜

採血検査で取り外した後つけ忘れて、紛失
または盗まれてしまう可能性を考えないの？

高級時計をして医者・看護士に
どうだ俺様アピールでもしたいの？

腕に時計がないと心が落ち着かないの？

いろいろ聞きたくなったけれど
相手は病人、そして病室にいる。
だからここでもグッと堪えました。
（2度目の我慢）

言われるがまま自宅から持ってきた義理母。
ここで従わないと退院後、2人生活再開時に
辛くあたられるかもしれないと思い、自衛の為に
ホイホイ持って行ってしまったのでしょう。

一般常識など超越して、
長年かけて出来上がった夫婦間の力関係、常識、
良くも悪くも以心伝心の感情の交錯、、、。
他人が入り込めない領域。

「何考えているの？」
なんて嫁の立場の私が言おうものなら
めちゃくちゃ角が立つに決まっています。

後日談

夫（長男）に相談したところ
やはりよろしくないと言うことで、
次の義理母もいた面会時に
病室のベッドサイドで囁きます。

息子さん達もお義父さんの大切な時計に
万一のことがあったら、と心配しています。

代わりの時計は買えるでしょうが
（実際は年金生活者には無理）
紛失・盗難に遭い嫌な思いをするのは
あなたです。

お世話になっている病院医療スタッフを
犯人ではないかと疑心暗鬼の目で
見るようになったら悲しいじゃないですか。

それにもう皆んなお義父さんが
ロレックス所有者ってわかってますよ。

寝ているような、寝たふりをしているような、。
聞こえているのか、いないのか、、、。
義理父はしばらくすると目を瞑ったまま、
時計を外し、そっと義理母に渡しました。