1人用の復讐

ワシ太は家に帰るなり叫んだ。

「ワシエモン!!またワシアンにいじめられたよ〜!」

ワシ太は殴られ過ぎて痙攣を起こしていた。

「やれやれ、ワシ太くん。もうこれ以上悲惨なワシ太くんの姿を見ていられないよ。今こそ仕返しをしよう。」

「法的な手段を取るってことかい?」

「ワシ太くん、甘過ぎて朝ドラのあまちゃんかと思ったよ。ワシアンはもう自分の地位とか気にしてないから、後先考えずまた暴れるよ。いくら法で裁いても物理的な攻撃はやられてしまえばそれまでだよ。」

「そうだよね。ワシエモン、ワシ怖いよ。もう殴られ過ぎてなぜか寒気がするのはこりごりなんだ。」

「ワシ太くん、復讐の覚悟はできたか?」

「うん、ワシやるよ。道具を出しとくれ!」

「アーライ!!復讐の道具は…これだ!」

そう言うとワシエモンは机の引き出しを勢いよく開けた。

ゴトッという重厚感のある音と共に飛び出したのは拳銃だった。

「ワシエモン、これって…。」

「ワシ太くん、得意だろ?射撃。一番扱いやすいと思って用意しといたよ。」

「ワシのこと考えてくれてたのは嬉しいけど…ワシ、こんなの使ったらもう元には戻れないんじゃ…。」

「ワシ太くん、殴られ過ぎて寝言しか言えなくなったの?ワシ太くんはこのままだとワシアンに殴り殺されてしまうけど、殺された後の悠々自適なセカンドライフの計画でもあると言うのかい?」

「ワシエモン、ワシが間違ってたよ。ワシアンを殺す。」

「そうともさ。」

ワシ太とワシエモンは家を出て、ワシアンが占拠している空き地へと向かった。

ワシアンがワシ太たちに気づいた。

「あ〜?ワシ太じゃんかよぉ。ワシ太もシャブ食いてえの〜?悪りぃ、これ、一人用のシャブなんだわぁ〜。」

そう言うとワシアンは虚ろな目をしてゲラゲラ笑っている。

ワシエモンが言う。

「ワシ太くん、あんな外道、構うことないよ。」

「ワシエモン、僕もそう思うよ。」

ワシ太はワシアンに銃口を向けた。

ワシアンがそれに気づいた。

「…何してやがる!?ワシ太!コラァ!今すぐやめろ!許してやるからよ!」

「ワシアン、悪いけど腹くくってるんだ。撃つよ。」

そう言うと、ワシアンは急に弱々しくなった。

「ワシ太、勘弁してくれよ…。俺、ワシ太をこんなにも殴るつもりはなかったんだ。俺には妹がいる。とても大切な妹なんだ。でも、親父が女作って消えちまって、母ちゃんもそれで気が狂っちまって…。俺たちは生きる術がなくなった。とりあえずなんとか金を作る必要があったが、バイトだけで俺と妹の二人の生活を賄うのは正直苦痛でよ…。そんな時、先輩が仕事紹介してくれるっつってよ。それが、シャブの売りさばきだったんだ。最初はもちろん売るだけだったんだ!…でもよ、あるとき売上が悪くて先輩に詰められたんだ。ボコボコにされたよ。俺はムカついて、ちょっとのつもりでシャブに手を出しちまったんだ。そしたら、止まんなくて…。うっ、うっ。止まんなくて、ある日友達であるはずのワシ太のこと、あり得ないくらい全力で殴っちまって…。それからも、自制が効かなくて、自分でも怖いぐらいに殴っちまうんだ…。悪かったよ、ワシ太。どうか、見逃してくれねえか。もうこの町から消えるからよ…。妹だけは食わせねえといけねんだ…。」

「ワシアン…。そうだったのか。」

泣きじゃくるワシアンを目の前に、ワシ太の心は揺らいだ。

今はこうなってしまったワシアンだが、昔は荒っぽくも、常に側にいた友人だ。

ふと、ワシアン達との大冒険の思い出もワシ太の頭に浮かんできた。

「ワシアンも悪気はなかったんだ…。」

ワシ太は銃口を下に向けた。

するとワシエモンが言った。

「何を甘ったれたことぬかしているんだい?ワシ太くん。いいかい?人にはそれぞれ自分の正義があるんだ。そして、その正義が打ち倒されない限り、根本ではそれを信じて疑わないんだよ。ワシアンもその正義の名の下に必死で言い訳しているだけさ。悲しいことにね。あぁ、悲しくて涙が止まらないよ。あはは!!」

ワシ太は、二人の言葉に頭を掻き回されて考えるのに疲れ始めていた。

そもそも、ここ最近は意識が飛びそうになるほど殴られているため、ワシ太とて冷静な判断ができる状況ではなかった。

少し間が空いてワシ太が口を開いた。

「ワシはもう、これからは一人用のゲームで構わない。」

そう言うと、ついにワシアンを撃ち抜いた。

あっけなく散った。

ワシエモンが囃し立てる。

「よくやった!すごいぞワシ太くん!いや〜今夜はどら焼きがうまそうだなぁ〜!あは…」

そのとき、再び銃声が響いた。

「ワシは、“一人用の”ゲームで構わないと言ったんだ、ワシエモン。」

ワシ太はワシエモンをも撃ち抜いていた。

ワシ太は拳銃の力に任せて、孤独になろうとしたのだ。

破損したワシエモンが言った。

「ヒトリデ…イキテイケ…ルト…オモウナヨ…。ヒト…ハ…ゴウマンナクセニ…サミシガリヤ…ナ…イキモノ…ダ…。アハハ!!!」

ワシ太はワシエモンの笑い声をかき消すように再び発砲した。

さらに、その言葉の呪いから逃れようとするかのように残りの銃弾をワシエモンに打ち込んだ。


ところで質問なのですが、皆さんは風呂で頭を洗うと何本くらい髪の毛が抜けますかね?

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ワシのことを超一流であり続けさせてくださる読者の皆様に、いつも心からありがとうと言いたいです。