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歪んだ愛情を持つ者として、僕は「境界戦機」が嫌いになれない(※純粋なファンの方は読まないで下さい)

はじめに

 はい、まぁ記事のタイトルの通りなのですが。
 先日ついに最終回を迎えたアニメ「境界戦機」。
 2021年10月から第1部が、2022年4月から第2部がそれぞれ1クール放送され、全25話となっております。
 この記事を読んでいる皆様は境界戦機がどういった作品なのか承知しているとは思いますが一応簡単にあらすじを述べると、
『西暦2061年、4つの世界主要経済圏に支配された日本を舞台に、主人公の椎葉アモウが謎の自立思考型AI・ガイとの出会い、そしてレジスタンス組織・八咫烏との接触を通して日本を取り戻すために戦いの日々に足を踏み入れる。』
と言った感じです。(あらすじには上手く書けませんでしたが、ロボットアニメです。)
 本記事では読者の皆様が本作の詳しい内容を把握した上で読んでいる事を前提として話を進めますが、もしまだ未見の方がいらっしゃったら、ぜひとも本編をちゃんと視聴した上でご覧ください。
 BANDAI SPIRITS様の公式Youtubeチャンネルにて、全話無料配信中です。(2022年6月30日現在)

 …で、本題に入るのですが。
 この「境界戦機」という作品、企業全体を挙げてプラモをたくさん発売する等とにかく商品展開に力が入っていた一方で、肝心のアニメ本編の内容がまぁネット上で大酷評の嵐でして。
 きりが無いので本記事ではアニメ本編の問題点を全ては書きませんが、比較的好意的に見ている僕ですらも、このアニメはお世辞にも素晴らしい作品とは言えません。
 世界観に対して明らかに矛盾した描写、全く掘り下げられない一部メインキャラクター、プラモ販促のためのアニメなのに全然ロボットが活躍しないor活躍したとしてもしょっぱい、そして何よりも作品中に漂うスタッフの諸外国に対する強烈な思想、等々とにかく問題点だらけなわけです。

 …しかし。
 このまま本作への酷評の声が膨らんでいくと、いつしか「境界戦機は褒める所が一つも無い今世紀最悪のロボットアニメ」みたいな誇張した意見が世間に流れてしまうのではないか。
 そう危惧しました。
 境界戦機は確かに出来の良いアニメではありませんが、「褒められる所」「光る所」はあったと僕は思うのです。
 もちろん感じ方は人それぞれなので、これから挙げる点が「全然出来てないじゃん!」「でたらめを言うな!!!」と感じる方も大勢いる事でしょう。

 それでも僕は声を大にして言いたい。
 「僕にとって、境界戦機には好きになれた所もちゃんとある」と。

 そういう訳で、この記事ではアニメ「境界戦機」に対して「全く褒められないのは確かだが、それはそれとして不思議と嫌いになれない」という歪んだ愛情を持っている僕が、「ここは良かったと思う」と感じられたポイント等を挙げていくというモノとなっております。
 なお、先んじて申し上げておきますが、本記事の筆者は先述の通り境界戦機に対して「歪んだ愛情」を持っており、境界戦機を心の底から愛している純粋なファンの方がこの記事を読むと「うーん…、ふざけるな!何だこれは!!!」と北米軍のトニー・ブランク大尉の如く怒りが爆発してしまう可能性があります。あくまでも"歪んだ"愛を持つ者の一意見としてご覧ください。
 また、筆者はあくまでもアニメ本編のみを履修しており、プラモデルや外伝小説には触れておりません。よってこの記事ではアニメ本編に関する事項のみを取り扱います。


不快感の無いメインキャラクター達

 本作のメインキャラクターは6人。

2部準拠のキャラ紹介なのでアモウの人相がやたらと悪いのはご愛敬。

 やや内向的だが素直で人当たりの良い主人公・椎葉アモウ。
 アモウのパートナーで破天荒かつ熱血なAI・ガイ。(←かわいい、推し)
 古くから八咫烏に所属し他者に当たりが強い典型的ツンデレタイプ・鉄塚ガシン。
 ガシンのパートナーで彼の母親の様な一面も持つAI・ケイ。
 自身の家に伝わる姫野焼と呼ばれる焼き物を守るために戦うヒロイン・紫々部シオン。
 シオンを「姫」と呼び忠誠を誓うパートナーAI・ナユタ。
 もちろんこの6人以外にも実質ライバル兼ラスボスとして暗躍する北米軍のブラッド・ワット等何人かのキャラも活躍していましたが、物語としては主にこの6人を視点として進行します。
 まず特筆したいのが、自立思考型AIであるガイ、ケイ、ナユタの親しみやすいキャラクター性です
 この3人のAI(正式にはI-LeSと言う)はシビアな世界観設定とは正反対なマスコットキャラクター然とした見た目を取っており、性格もかなりアニメチック。
 I-LeSの本体はアメイン(境界戦機に出て来るロボットの総称)の中にありますが、スマホ等にいつでも来れるので実質的に四六時中パートナーの傍にいます。

この3人の作画が一貫してかわいく仕上がってたのは一義で良い所。

 そんな3人のI-LeSが他のI-LeSや各々の人間のパートナーと繰り広げる軽快な会話は見ていてとても楽しく、かわいらしい外見も相まって視聴者を楽しませてくれるわけです。
 三度の飯よりマスコットキャラクターが大好きな僕にとって、ガイ達I-LeSの存在は特に琴線に触れた要素でした。(なお、この3人のAIが戦闘においてあまりにも有能過ぎるため視聴者が「もう全部AIで良いじゃん」と感じてしまい、ロボアニメとして戦闘が面白くないという別問題が発生していますがここではこれ以上触れません。)
 特にガイとアモウの関係はこの二人が出会った事で境界戦機の物語が始まったと言っても過言ではなく、最序盤のアモウとガイの二人が主軸となって話が展開していた辺りはかなりお気に入りです。
 最終回で序盤ぶりにアモウとガイにスポットライトが当たったのは本当に嬉しかったですし、1話でガイがアモウに叫ばせた必殺技・バルディッシュブレイカーが最後のトドメに使われたのは本作でもトップクラスに燃える最高の展開でした!
 最後に記憶データを失い赤ちゃんになったガイと一緒に記憶を失う前に約束していた旅に出て、第1部でアモウ達が関わってきたこれまでのゲストキャラの下に会いに行くのも良かったです。(ちなみにこの展開、実質的に別人になったガイを一から育て直して自分の思い入れのあるガイにしようとしている様にも見えますが、ケイとナユタによればガイの記憶データ自体は復旧作業を進めているらしく、恐らく復旧が終わり次第記憶を戻すものだと考えられます。また赤ちゃんガイ自体は元のガイと同じ思考プログラムらしいので、あくまで一時的な記憶喪失だと考えられ、赤ちゃんガイは元のガイと全く同じ存在と解釈して良いでしょう。)
 しかし、最終回のアモウとガイに関する熱い展開だけは良かっただけに、もっとこの二人の関係性を主軸に本筋の話を作って欲しかったと思わずにはいられません。(日本奪還じゃなくて人間とAIのバディ物をメイン要素にして欲しかった…。)
 この3人のI-LeSの誕生日を祝う第19話は世間的には酷評気味ですが、僕の中では勘違いから内に籠るガイ達I-LeSを説得しようとそれぞれのパートナーが奮起すると言った、人間とI-LeSの関係が上手く描けていた良回だったと思います。(問題は2クールしか無い境界戦機にこの様な箸休め回をやっている暇等無かった事ですが…。)
 最終回でのアモウの「ガイはいつも一緒にいてくれた。嬉しい時も、辛い時も、一緒に喜んで一緒に苦しんでくれた。何度も励まされたんだ!人を数で見たりしない、寄り添ってくれていた。そんなんじゃ、AIの方がよっぽど人間らしいじゃないか!!!」という台詞からして、ガイ達I-LeSが人間よりも人間らしく描かれていたのは戦争で簡単に人を苦しめて人の事を人数の換算位でしか認識していない軍上層部や商人のジェルマンと言った戦争大好きマン達との対比だったと考えられます。
 こう言った要素を見るに、やはり境界戦機は本来人間とAI(ただし、ここで言うAIとはガイ達I-LeSの事)の関係を描くのが本来の"やりたかったこと"なんじゃないかと思うのですが、ちょっと話が逸れてきたのでやりたかったこと云々はこの辺で打ち止めで…。

 またアモウ、ガシン、シオンの3人は年相応の子供らしさを持っているため、暇な時に囲碁や将棋で遊んだり3人で買い出しに行ったりする姿も中々微笑ましいんですよね。

 ホテルに泊まる時にケイから「臭い」と苦言を呈されたアモウとガシンが必死に石鹸で身体を洗いながら「俺は臭くない!俺は臭くない!!!」と子供らしく騒ぐシーンは境界戦機のギャグシーンで一番好きです。

 特にアモウとガシンの関係性は平成以降の仮面ライダーにおける1号と2号のそれを思い出させるものとなっており、始めはアモウに当たりの強かったガシンがいつしかアモウの事を大切な友達だと思うようになっていく展開はベタながら素直に「良い」な、と。
 アモウが第2部で心を塞いでしまった時に一番心配していたのがガシンなのも好きです。
 シオンに関しては戦う動機が先述の姫野焼しか無いため「メインキャラクターとしてはあまりにも背景が薄い」という声が多く寄せられており、そこには僕も激しく同意なのですが、シオンの「一番一般人に近い感性を持っている」属性は作中でもかなり活かされており、1部と2部の間で人の命を奪って一線を越えてしまったアモウに代わりそういった葛藤を担当する役回りになっていたのは嫌いじゃないですね。
 また、ガシンは他人に対して一々当たりが強くコミュニケーションが苦手、アモウもガシン程では無いにしろあまり社交的では無い事から、シオンが3人の中で初めて会う人との会話を上手くこなす潤滑油的な役割をこなしていたのも中々良い采配だったかな、と。

 で、この項目で具体的に何が言いたいのかというと、このメインキャラ6人は見ていて不快感が無いなと感じました。
 もちろん「それは作品として最低限度の事だろ!」という声も多々あると思いますが、僕が思う観ていて辛い作品って「メインキャラがいつも喧嘩したり足を引っ張り合っている」みたいなイメージがあって、境界戦機はそうでは無かったのではないかと思います。
 またここでは深く触れませんでしたが、アモウ達の所属する八咫烏の所属メンバーも良く言えば不快感の無い、悪く言えば出番が無さすぎて印象に残らない人物が多々揃っていたと言えるでしょう。(それは良い事なのだろうか。)
 ただし、八咫烏には一人だけ激しくグレーゾーンに抵触するキャラがいます。
 本編視聴済みの方ならお察しかと思いますが、八咫烏の整備主任・槙ミスズです。

キャラデザは好き。

 彼女は第1部ではただの整備主任としてアメインの整備をしてくれるごく普通のキャラだったのですが、第2部にて実は1部のボスである危険なAI・ゴーストの開発者であり、その事を黙って八咫烏に所属していたという衝撃の事実が明かされます。
 ゴーストを暴走させたのは意図的ではなく、本人は反省しているのですが、その事実をずっと黙っていた事(特にゴーストはガシンの父の仇であるにも関わらず、ガシンにそれをずっと黙っていた)、そして素性を八咫烏メンバーに明かした後も正体を明かす前の軽いノリのままでいるために視聴者視点ではまるで反省の意図が無い様に見えてしまい、人によっては彼女に強い不快感を覚える可能性もあるかもしれません。
 幸い、自分の場合は『実質的に全ての元凶とも言える存在を生み出した経歴を持ちながら、いつもお茶らけていて全く反省の色が見えない』キャラクターが仮面ライダーゴーストという作品にいた事でこのようなタイプのキャラ造形に慣れていたため、もう「そういう人物」として割り切って観ていました。

↑これが本当にメインキャラの父の仇を生み出してしまった者のする顔なのか…?


 八咫烏以外のキャラクターだと、大ユーラシア連邦所属のアレクセイ・ゼノレイは本作でも一二を争うレベルで良いキャラクターをしていたのではないかと思います。

多分このアニメで一番人気あるキャラクター。

 彼は貴族の末裔という濃い出自を持っており、1部と2部の中盤までは少ない出番ながら積極的に戦況をかき乱し、2部終盤では同じ「新日本協力機構(本作のヤバい要素の一つ、下手に解説すると炎上しそうなので詳細は割愛)」に所属し、アモウ達の心強い味方として活躍。
 特に第22話においてアモウと共に北米軍から逃亡する際には、持ち前のサバイバル技術で鹿を狩って食料調達を行う等アモウをグイグイと導いてくれ、その頼もしさに思わず心奪われてしまいました。

美味そう。

 最終回でも、無人機にガイたちを基にした戦術特化型AIが配備される中「ここにも狛犬が出るものと期待したが...、それは贅沢か。」と一人呟く姿が哀愁漂い中々面白い。
 しまいには全てが終わった後旅立とうとするアモウをわざわざお見送りに来てくれます。

アレクセイ、最高の萌えキャラ。

 アレクセイが登場するシーンは掛け値なしに良いシーンが多かったと思います。

 えー…、一応ラスボスのブラッドなんですが、彼の行動はかなり無理があったなとは。
 彼は「自身がどれほどボロボロになろうとも有人機で暴れたい」バーサーカーかと思っていたのですが、最終回で「汚職を働いた父を捕まえるために敢えて悪役を演じ戦争を起こした」という衝撃の事実が判明します。
 恐らく一種のどんでん返しとして配置された設定だと思うのですが、あんまり上手く作用してなかったかなと感じます。
 アモウとの因縁もかなり薄かったんですよね、しかも結局悪役を演じてただけなのでアモウとの最終決戦での問答があんまり意味が無いという。(それまで戦場外でしか顔を合せなかった主人公とライバルが最終決戦で初めて戦場で鉢合わせるというシチュ自体は上手くやれば面白くなりそうだとは思います。)
 一応好意的に解釈するならば、アモウの「AIの方がよっぽど人間らしい」というブラッドへの応答がオープンチャンネルで流れた事で総司令を含む北米軍の人々の心にも響き、新日本協力機構との和平交渉に繋がったという可能性も無いわけでは無いかもしれませんが、そんな描写は無いのでただの妄想に過ぎません。
 ただ、全ての責任を取ってゴーストごと死ぬつもりだったのにゴーストが最期に自分の意思でブラッドを脱出させたという展開は嫌いじゃないです。
 ゴーストも元はガイ達のプロトタイプ、ブラッドに何かしら思う所があったのでしょう。
(ここを掘り下げれば先述の"人間とAIの関係性"も描けそうだし、それをちゃんと本編で描写して欲しかったんですけどね…。)
 なので総合的には不快感は特に抱かなかったとは思います。

 …とまぁ、上記の通りミスズさんだけはかなりグレーゾーンですが、基本的には見出しの通りメインキャラに不快感を抱く事は無かったです。
 2話でアモウを助けてくれた老夫婦や5話で圧政に屈さずアモウ達に友好的に接してくれた人々等、名無しのモブキャラクターも中々良い味を出していたのではないでしょうか。
 (逆に本作の敵ゲストキャラクターの多くは「特に理由は無いが何が何でも積極的に日本人をいじめたい」と心から願うヤバい人物ばかりであり、それらのキャラは共通してエルフの様に耳が尖っている事から一部視聴者から「耳長族」呼ばわりされています。実在の国の名前を使いながらこう言った諸外国への偏見を招きかねない描写をする本作の良くない所の一つですね。)


挑戦的ながらイカすメカデザイン

 本作に登場するロボットことアメインのデザインは中々かっこいい物が多いのですが、その中で残念ながらケンブ、ジョウガン、レイキというメイレスと呼ばれる主人公勢の搭乗する特殊なアメイン3体のデザインはかなり尖った物となっており、世間的には中々良い評判がありません。
 しかし、個人的にはメイレス系列の攻めたメカデザインもかっこいいと感じました。

やっぱ不評なのは顔でしょうかね…?

 筆者はあまりロボットのデザインに造詣が深くないので凝った事は言えないのですが、特に主人公機であるケンブは一般的に人気のあるロボットのデザインからはやや離れながらも一目で「主人公の機体だ!」と目に付く良い塩梅だったと思います。

僕は好きです。

 後継機のケンブ斬も無印ケンブからもう少しヒロイックに寄せたカラーリングに変わっていて、素直にかっこいいなと。
(ところでケンブのカラーリングは日本国旗をモチーフにしているのではないかという噂がありますが、実際アニメ本編でやたらと「日本人」というワードを連呼している事を踏まえるとマジでそうなんじゃないかと思えてきて怖いです。メイレス系列のアメインの名前はかつての日本の元号ですし、意味が分かると怖い話なのかもしれませんね。)

左からレイキ改、ケンブ斬、ジョウガン改。

 ジョウガンは全身少し青みがかった黒いカラーな所がガシンの性格に合っていますし、レイキは飛行能力が備わっているため空を自在に飛び回る姿が中々かっこいいです。
 メイレス系列以外のアメインも世間での評判通りかっこいい物が多いですよね。
 機体に設定された構造等を本編であまり活かせなかったという別の問題こそありますが、メカデザイン自体はとても良いと思えます。
 ちなみに、またまた仮面ライダーの話になるのですが(ごめんなさいね)、平成以降の仮面ライダーのデザインと言えば毎年の様に取り沙汰されるのが奇抜なデザインですよね。
 「何だこの変なデザインは!」「こんなの仮面ライダーじゃない!」
 デザインが発表された時点ではそんな言われ草が毎年の様に起こっていますが、放送が始まってしばらく経つと「動くとかっこいい」「好きになってきた」という好意的な意見が増えてくるのがお約束。
 境界戦機のメイレス系列3機も、最初は面食らうものの実際に観ていく事で「動くとかっこいい」と思えるデザインなんじゃないかな、と個人的には思うわけです。
 実際自分がそう(観ていくうちにケンブの事を心からかっこいいと思える様になれた)でした。
 ではなぜ世間的にはそうならなかったのかと言うと、恐らくは肝心のアニメ本編での戦闘シーンがあまりかっこよくなかったからなのかな、と...。
 まぁ、はい。
 本作の戦闘シーンって全体的にあんまり動かないんですよ。
 CGを使わず全て手描きで描いてる事もあり、昨今のアニメのグリグリ動くド派手な戦闘シーン等に慣れているとどうしても見劣りしてしまうのはどうしようもありません。
 もちろん、あまり作画が良くなくても創意工夫で面白い戦闘シーンを作っているアニメもたくさんあるわけですが、境界戦機の戦闘シーンはそういった創意工夫等もあまり見られなかったので益々...。
 おっと、境界戦機の好きな所を語る記事なのに先ほどからマイナスな方向ばかり語ってしまってしまいましたね、失礼しました。
 とにかく、本編であまり魅力的にそのデザインのかっこよさを活かせなかったのは事実かもしれないとは言え、メカデザイン自体はとても挑戦的でイカしてると思いました。


名曲揃いのOP&ED

 これに関しては特に声を大きくして言いたいポイントです。
 境界戦機の主題歌は第1部と第2部それぞれのOP&EDで計4曲存在しているのですが、これがまぁ何と4曲全部素晴らしい!!!
 最近は毎日の様にこの4曲を鬼リピートしております。(そこ、真の日本人の鑑とか言わないで。)
 というわけで、この素晴らしい4曲を簡単にですが解説していきますね。

第1部OP 「enemy」 Blank Paper

(↑MVで使われるCGモデルがちょっと怖い)
 わかる人にはほぼ正体バレバレの謎のグループBlank Paperが歌う記念すべき最初のOP。
 変則的な構成の曲故初めて聴いた時はややピンと来ないかもしれませんが、疾走感のあるサウンドやラップ部分、力強い歌声は聴けば聴く程ハマって行く事間違いなし!
 所謂スルメ曲だと思います。
 OP映像としてはサビ以降の音楽に合わせて現れるガイ、ケイ、ナユタを始めとした音ハメが気持ち良いのが特徴ですね。
 銃を撃つケンブや空に飛んでいくレイキ、アモウに向かってサムズアップするガイがお気に入りのカット。
 初代OPという事もあって、個人的には境界戦機と言えばやっぱりこの曲だという感覚が強いです。
 なので最終回の予告でしんみり系のアレンジがなされた特殊バージョンのenemyが流れた時はテンション爆上がりしましたし、最終回のEDでenemyをバックに赤ちゃんガイと旅をするアモウのシーンは一義で大好きですね。

第1部ED 「You're my perfect mirror」 富金原佑菜

 穏やかでどこか寂寥感を感じさせる音楽と富金原さんのどこまでも通る美しい歌声がベストマッチな、正に番組のEDテーマと言った雰囲気の一曲。
 最終回のブラッドが病室で自身の本当の思惑を語るシーンでこの曲のインストゥメンタルが流れていたのも印象的。
 アニメーションとしては(今更ネタバレもクソも無いので言ってしまいますが)1部のラストでアモウがゴーストと一緒に行方不明になる終わり方を示唆する演出と、茶道や生け花等の日本の文化に親しむアモウ、ガシン、シオンの三人が見どころです。(日本人としての誇りを感じますね。)

第2部OP 「Overload」 富金原佑菜

 1部EDと同じく富金原さんが歌う楽曲ですが、あちらとは雰囲気が異なり勇ましさを感じられる一曲。
 個人的にはTV放映版だけでなくぜひともフルバージョンで聴いていただきたいと感じる曲で、1:40辺りからの疾走感のある音と透き通る声のマッチ具合が大好きです。(3:02からのラストサビも良いですよね。)
 OPアニメとしてはアモウ達3人がそれぞれのアメインに乗り込むシーンで音ハメ演出があるのが良いなぁと。(一方で本編で全然印象に残っていないのにメインキャラ面している八咫烏メンバーにジワジワ来ますが。)
 あとケンブ斬とブレイディファントムの市街地での戦闘シーンもかっこいいですね!(本編の最終決戦もこんな感じだったらな~…。)

第2部ED 「pARTs」 Natumi.

 こちらは作曲をあの様々なアニメの劇伴で有名な澤野弘之氏が担当しており、特に音の迫力が非常に優れた一曲だなと感じられます。
 そこにNatumi.さんの美声も加わり、そこまではやや落ち着いた曲調や歌声だったのも相まってサビの解放感と言いますか、「うお~っ!」と盛り上がりが一気に来るのが好きですね。
 1部のEDと比べると全体的に希望に満ちた曲調となっており、徐々に良い方向に向かい始める本編の展開と上手くリンクしていたと思います。
 また、EDアニメーションで「おっ」と思った点がありまして。
 この曲のタイトルでは頭文字と終わりの文字が小文字になって、"ART"の部分だけが強調されているんですが、EDアニメの中で実際にアモウ達が美術館の様な場所を訪れて復興した日本を眺めているという演出がなされているんですよね。
 実際に曲のタイトルとリンクした演出なのがすごくグッと来たアニメーションでした。
 また、このEDアニメで描かれているのは、1部でアモウ達が助けた、もしくは関わってきた人たちのその後なんですよね。
 こういった粋な演出の数々は一義で良い所だと思います。(一方、1部EDに続いてやたらと日本の伝統文化にフォーカスが当たっていたり、ボロボロになった敵国のアメインの上でこいのぼりを揚げている画なんかは何か良くない文脈を読み取ってしまいそうになりますが、まぁいいでしょう。)


天然で繰り出されるとんでもない絵面

 はい、やってまいりました!実質的なこの記事の本題!!!
 先述の通りこのアニメでは世界観と全く合っていない矛盾した妙な絵面がたくさん繰り出されるのですが、それがどれもこれも非常に面白くて…。
 …え?
 それは作品の魅力ではなくむしろマイナスポイント?
 確かにそう感じる方も多いかと思います。
 何しろこのアニメは公式には硬派なリアルロボットアニメですからね。
 しかしながら、境界戦機作中で繰り出されるこういった明らかにおかしいシーン、シュールなシーンは僕にとってはむしろお楽しみポイントの一つなんですよ。
 例えば、第2話でアモウが自分を助けてくれた老夫婦から出された夕食がこちら。

※他国から圧政を敷かれている世界観です。

 何だこのバカでかい魚!?!?!?
 このシーン自体はアモウが久しぶりに誰かが作った手料理を食べるという良いシーンなのですが、日本人に生まれただけでペナルティを背負っているも同然というシビアな世界観とは思えぬこのクソデカ魚の存在感ですよ。
 また、第5話には何とこの圧政下でおにぎり100円セールを行うコンビニが登場します。

どう見ても現代日本です…。

 コンビニで買い物をする行為自体は良いとして、ディストピアめいた世界観設定を持つにも関わらず「あれ?アニメーターの方、普通のコンビニを参考にして描いたのかな?」と思わずにはいられない呑気な『おにぎり100円セール』の文字。
 しかもお酒やたばこも普通に売っている様です。

右上の張り紙にご注目。
上の写真では途切れていた部分を別アングルから。

 同じく第5話の一場面。
 とあるお好み焼き屋に、なんと中ジョッキ500円の文字が!
 おにぎり100円、中ジョッキ500円…。
 いくら何でも現実と同じ、いや、場合によっては現実よりも良い暮らししてませんか境界戦機世界の日本人。(もちろん圧政を受けているのは事実ではあるんですが。)
 本作のおかしな場面集はまだまだ終わりません。

↑この回のゲストキャラです、アモウじゃないよ。

 続いては第8話より。
 これは絵だけだと何がおかしいのか伝わらないので軽く説明しておくと、アモウ達八咫烏のメンバーが廃村に住む日本人を助けるために手助けする回で、この画像の少年はその廃村に暮らす家族の一員です。
 で、この少年は自分も(やや無理やりですが)廃村の復興に付き合わされる事になり、壁の塗り直しを行っているのですが、やけに手際が良いんですよ。
 本人に「経験者か?」と問うと、彼は答えます。
 「昔、eスポーツの左官部門でチャンピオンになった事がある。」
 ………
はい???
 eスポーツの左官部門??????
 一体彼は何を言っているのでしょうか。
 左官のゲームなんて聞いたことが無いし、そもそもあったとして一体何を競うのか。
 第一、他国に支配された状態の日本でeスポーツの大会が行われているのは一体どういう事なのか。
 あまりにも謎が多すぎる1シーンのため、「eスポーツ左官部門」は境界戦機視聴者の間でも特に有名な単語になっています。
 実はマインクラフトの様なサンドボックス系のゲームをイメージして言っているのではないかという有識者の考察がありますが、真相は不明です。

 同じく第8話より、廃村の子供の「ハンバーグが食べたい」というリクエストに対し見事に立派なクソデカチーズハンバーグを持ってきた八咫烏の熊井さん。
 あまりにも豪華すぎるこのハンバーグは一体どこから持ってきたのでしょうか…。(おにぎり100円セールやってるコンビニで買ったのかな?)
 では次の迷場面。

これ本当に誰もおかしいと思わなかったんですか?

 こちらは第9話より。
 元八咫烏メンバーでガシンの兄の様な存在である末永ユウセイ。
 彼は現在日本人のための自治区の区長を務めているのですが、上の画像はそんな日本人自治区のおみやげとして用意された品物です。
 その名もずばり「名菓 自治まんじゅう」。
 …無理です、これで笑うなという方が無理な話です。
 ネーミングセンスが地方の名産品レベルでしょこれ!!!
 自治まんじゅうて。
 自治まんじゅうて…!!!
 このシュールな名前について、スタッフは本当に誰もおかしいと思わなかったんでしょうか。(流石にギャグのつもりで描いていて欲しい。)

年代物の車(どう見ても現代日本の車)。

 続いても第9話よりご紹介。
 これはユウセイが乗っていた車なのですが、作中で「年代物」として紹介されています。
 なぜごく普通の自家用車にしか見えないこの車が年代物扱いされているのか、それは境界戦機の年代設定が2061年だから..。
 つまり、「作中時間から見れば現代の車は年代物になっているはず」という発想からこうなっているわけですね。
 …はい、まぁ理屈はわかるんですけど、リアルロボットアニメとしては何かがおかしい気がします。
 ちなみに「じゃあ作中の最新の車は未来的なデザインをしている」のかと言うとそうでもなく、至ってごく普通のデザインとなっているんですよ。
 じゃあ何でわざわざ年代物って名目で現代の車を出したんですか!!!

 お次は結構飛んで第20話。

↑ご飯が梅干しを載せた日の丸状態なのもちょっと思想を感じる(邪推)。

 流石に全員というわけではないんですが、八咫烏メンバーの内かなりの大人数で飲食店に入り、あまつさえ超重要機密に関する事をここで相談するというヤバいシーンです。
 君たちレジスタンスなんだからもうちょっと周りに危機感を持ってくれ!!!

↑「ここで超重要機密について話すな」と流石に釘を刺された3人。

(2022/7/1追記)この20話における食事シーンが、実はファミレス等の飲食店ではなく八咫烏本部の食堂で行われているのではないかという指摘を頂きました。
 確かに言われてみれば食べているプレートの内容が貧相だし、このアニメの事だから八咫烏本部がファミレス並みに豪華でも違和感は無いんですよね。
 一方で八咫烏と言えば普通にホームセンターに買い物に行く程お気楽な雰囲気を持っているのも事実なので、本当にファミレスに行っていてもおかしくない気も。
 しかしながら仮に本当にファミレスに行っていたのなら境界戦機においてはクソデカチーズハンバーグ位食べそうな物であり、やっぱり八咫烏本部の食堂なのか…???
 わからん、全く判断がつかない…!!!!!
 というわけでここのシーンについての本文はちょっと消しておきます…。


 最後は第23話より。

いくら何でも平和すぎる…。
2061年の日本ではタピオカブームが再来しているらしい。

 …はい、最終決戦直前の緊迫した状況にも関わらず神社に出店が出ています。
 おにぎり100円セールやeスポーツ左官部門を乗り越えた私達にとってはもはや驚くべき内容ではないかもしれませんが、やはりこう言った危機的な世界観に合わない呑気な光景が繰り広げられている様は何度見てもクスッと笑えます。

 と、この様に境界戦機作中の様々なシュールな場面を見てきましたが、皆さんはどう感じるでしょうか。
 「ふざけんな!ちゃんと世界観に沿った描写をしやがれ!!!」と怒号を飛ばす人がほとんどかなと予想します。
 しかしながら、僕にはこういった恐らく天然で繰り出された明らかにおかしい絵面に愛嬌を感じ、どうにも愛おしく思えてしまうのです。
 何と言えば良いのか、おかしな失敗を繰り返してしまう幼児の様なかわいさと言いましょうか。
 勝手な推測なのですが、上に挙げたこれらの場面は本当にウケ狙いでも何でもなくスタッフが正気で出した絵面なのかなと思うんですよね。
 こう言った製作陣が意図しない笑い所ってやっぱり好きだなぁって思います。
 B級映画を見る時の面白さが一番この感情に近いかもしれません。
 少なくとも僕はこういうとんでもない絵面が大好きで、マイナスポイントではなくむしろこれらの存在のおかげでプラスポイントになっています。(これが境界戦機の正しい楽しみ方では無い事は重々承知ですが…。)


終わりに

 以上、僕が個人的に思う境界戦機の好きな所でした。
 …恐らくここまで読んだほとんどの読者の皆様がお気づきになった事でしょう。
 「こいつ、肝心な本筋の物語を全然褒めてねぇじゃねぇか!!!」と。
 まぁそれは正に仰る通りでして、最初に述べた通りこのアニメの本筋の物語ははっきり言って本当に出来が良くないです。
 最高の素材で作るどう考えても美味しくなりそうな料理を調理途中で次々と焦がしていく光景をまじまじと見せられる感覚とでも言いましょうか。
 あとは思想がヤバいです、思想。
 実在の諸外国に喧嘩を売る描写が多すぎます。
 作中で扱うメイン要素としてどうして「日本を取り戻す」方向に行ってしまったのか、人間とAIのバディ物にしてそこにロードムービー要素をエッセンスとして盛り込めば最終回の赤ちゃんガイとの旅展開ももっと感動出来ただろうし、ブラッドとゴーストの話も良い感じになっていたのではないでしょうか。
 とにかく、せっかく磨けば光りそうな要素はたくたんあったのに「諸外国を追い出して日本を取り戻す」という思想を感じざるを得ないヤバいメインテーマが最後の最後まで足を引っ張っていたと思います。
 アモウとガイの絆をちゃんと積み重ねて欲しかったし、アモウブラック(2部序盤で精神を病んで服が黒くなったアモウの事。なぜアモウがそうなったかの明確な理由は回想シーンが支離滅裂だったせいで未だに視聴者の間で見解が分かれており、その落ち込んでいた精神が回復する流れもかなり雑。)辺りはもっとちゃんと丁寧に描写して欲しかったし、ガシンの父親の敵討ちというラインやユウセイとの因縁をどうして消してしまったのか理解出来ないし、シオンはもっとちゃんと本筋と関わるキャラにしてあげて欲しかったし、八咫烏メンバーの影薄すぎて馬崎さんの死にシオンと同じく泣けなかったし、そもそも「日本が四つに分断された世界観での戦いを描く上で八咫烏が作劇の足引っ張ってね?」って疑念が頭から離れないし、ブラッドの真意関連の描写は上手くなかったし…。
 あーっ、もう!!!
 いくらでも文句が湧き出て来る!!!!!!

 …しかしながら、僕はどうしてもこの境界戦機というアニメを心の底から嫌いになる事は出来ないのです。
 それはやはり一つ前の項目で述べた異常な絵面を次々と出して来る天然仕草への愛着だったり、メカデザインのかっこよさだったり、名曲揃いの主題歌だったり、良い意味でキッズアニメを思わせるようなどこか牧歌的な空気感の作風だったり、そして何より、約9ヵ月間共に付き合ってきたアモウ達メインキャラクターへの愛着だったりします。
 境界戦機という作品の出来があまりにも良くない、作中に込められた思想が危険すぎる。
 残念ながらそれは事実であると言わざるを得ません。
 しかしながら、「生まれて来るべきでは無かった」という忌み子の様な扱いはしたくないな、と。
 アニメの出来が良くないのは事実だとしても、僕はアモウやガイ、ガシン、アレクセイと言った境界戦機のキャラクターやかっこいいアメイン達に出会えて良かったと思いますし、この9ヵ月間たくさんの視聴者の皆さんと一緒にツッコミを入れながらも境界戦機を追い続けたのは心から楽しかったです。
 恐らくネット中で罵詈雑言を吐かれている境界戦機ですが、「境界戦機ならどれだけコケにしても良い」という様な風潮は良くないなと、せめて、やや屈折して歪んだ愛とはいえこのアニメを心から楽しんだ自分位からは前向きな感想を述べたいなと、そう思って僕はこの記事を執筆しました。(その割に批判も多かった?はいそうですね…。)
 良くなかった所が99%を占めていたとしても、1%程度は一義で良かった所もあったし、面白くは無かったものの僕はこのアニメが結構好きです。
 途中、ユウセイとガシンの因縁が雑に消えたりアモウがアモウブラックに至るまでの過去回想が意味不明すぎた件について本気でブチ切れ、もうリタイアしてやろうかと心に浮かんだ日もありましたが、何だかんだ追い続けて良かったと思います。

 ありがとう、境界戦機。
 この9ヵ月本当に楽しかったです。
 そしてもし続編をやるなら、今度こそAIとのバディ物やロードムービーを主軸にして変な思想を入れず一義で面白い作品になって欲しいです!!!

 それでは最後に、このアニメで一番有名であろうアモウのあの名言を基にした改変台詞で幕を閉じましょう。

 「良いか、今後同じように境界戦機の過剰な悪口を書いてみろ。
 この俺が、ケンブが、お前達を必ず倒す!
 いつでもお前達の事を見ているぞ!!!」

 



「言っちゃったぁ~…!なんで俺はこんな、勢いで…!!!」


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