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泥だらけのきみの、最後の夏。


一球の白いボールが投げられて
最後の夏が始まって

その一球の白いボールが地に落ちて
最後の夏が終わる。


その夏の始まりと終わりのあいだに、一体
どれだけの気持ちが集まったのだろう。


誰もが最後のベースを踏みたいと願って

誰もがみんなで笑顔になりたいと祈った。

甲子園に行きたかった。


声が枯れるほどに

まばたきするのも忘れるほどに

きみが前に進むことだけを信じて疑わずに
みんなも必死だった。


だって、思い出せない。


もう思い出すこともできないくらい
物心がつくよりずっと前からきみは
そのボールを投げて、打ってきたのだろう。

厳しい言葉を投げられたこともあったし
脚を手術してしばらく動かせなくなって、泣きたいときもきっとあったよね。


雨模様だった空から太陽が顔を覗かせるころ、
終わりを始める、一球が投げられた。


じりじりと誰もが息を飲んで
夏の気温にも負けないほどの熱い視線を送ったあの瞬間は、きっと後にも先にもないかもしれない。


* * *


最後の夏が終わってから送られてきた1枚の写真には
強がりきれなくて、ちょっと歪んだ顔で映る泥だらけのきみがいて


1つの動画には
息の仕方を忘れたかのように感謝を口にするきみがいた。


ああ、きみがこんなにも涙したことは
今まであっただろうか?



泥だらけのきみの最後の夏。


手術した脚のためにもう続けることができない

幼い頃から共に過ごしてきた野球との
すこし切ないサヨナラ。


きみと野球はいつも一緒だったけれど
次からは野球と少し離れた夏を迎えるんだね。


それでもふと思い出すのかな。
野球と過ごした夏を、涙を。



きみの最後の夏に、乾杯を送るよ。

自慢の弟、よく頑張ったね。

きみを応援できたことが幸せだったなとふと感じた、最高の夏でした。


ゆ い


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ゆ い

何気ないそのときを、切り取ってみよう。味気ないまいにちにも、よくよく見たらちょっぴり素敵なストーリーがあるかも。
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