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ハーバード大を卒業してラ・ラ・ランドを作ったDamien Chazelle監督が天才なワケ

『セッション(Whiplash)』そして『ラ・ラ・ランド』、これらは言わずとも知れた傑作である。
『セッション』は2014年に製作され、アカデミー賞に5部門にノミネート、そして3部門で受賞。『ラ・ラ・ランド』は2016年に製作され、ゴールデングローブ賞ではノミネートされた7部門全てを受賞、アカデミー賞でも6部門で受賞するなど、世界中で愛され、今なお愛され続ける映画である。日本でも映画館に足を運んで観た人は多いのではないだろうか。

Damien Chazelleという人物

Damien Chazelle(デミアン・チャゼル)。映画監督、映画プロデューサー、そして脚本家。
『セッション』と『ラ・ラ・ランド』の生みの親である。

ここまでの映画を作るにはどんな下積みを経て来たのかと考えてしまうが、アメリカで映画監督を目指す多くの若者が高校を卒業してフィルムスクールに通っていた中、彼はなんとあのハーバード大学に進学したのだ。ハーバード大学と言えば、言わずとも知れた超名門大学である。ハーバードでも実際に映画を作る授業が開講されていたみたいだ。
大学の卒業論文の一部として映画『Guy and Madeline on a Park Bench』を制作し、映画監督、脚本家としてデビューすると、なんと28歳という若さで『セッション』を製作、そしてその2年後に『ラ・ラ・ランド』を世に出し、そのまた2年後に、宇宙飛行士ニール・アームストロングの伝記映画『ファースト・マン』を製作した。これはしかもあのスピルバーグと共にである。

そう、彼は映画を作ればたちまち称賛を浴びる若き天才である。

それにしても大学の卒業論文で映画を作っちゃおうなんて、すごい。
ちなみに、ハーバード大学は卒業論文の形式に関して厳格でないことで有名だ。過去には脚本や詩集などを卒論として認めたこともあれば、最近ではラップのミックステープを受領するなど、内容さえ良ければ形式を問わないというスタンス。さすがっす。

映画の特徴

さて、チャゼルが作った映画はなぜここまで称賛されているのだろうか。

まず、彼の映画の特徴は「情熱や目標VS現実」というシンプルな構図で描かれることが多く、ストーリーについていきやすい。
『セッション』では、プロのジャズドラマーを目指す青年が鬼教官にバシバシしごかれ苦しみもがき、『ラ・ラ・ランド』では、男女が夢と愛どちらを選ぶかで苦しむ。『ファースト・マン』では、人類が初めて月面に着陸するという使命と家族を裏切るかもしれないという恐怖とに挟まれながらも前に進もうとする主人公が描かれる。
自分が達成したい目標を達成するためには邪念を全て排除しなければならない。しかしそれは大きな代償を伴い、自分だけではなく家族や友人などを苦しませることに繋がるのかもしれない。でも、それでもやらなければ…
という分かりやすいストーリー

ストーリーだけではない。撮影技法も非常にシンプルで、特徴的である。
具体的に言えば、「ズームインとズームアウトの使い分け」が上手い。
『ラ・ラ・ランド』は30s~60sのフランスやアメリカのミュージカル映画に影響されているためミュージカル感がとても強く、印象に残るシーンはカメラを固定して撮影されているものが多いが、『セッション』や『ファースト・マン』では、頻繁に役者の顔や表情の変化を画面いっぱいに映し、かと思えば思いっきりズームアウトして撮ったりもしている。

ズームインは緊迫した状況やハイテンポなシーンを表すのに持ってこいで、ドラムセット全体をフレームに含ませるよりドラムを叩く青年の汗やスティックの早い動きに注目させることで、僕ら視聴者をよりくぎ付けにさせる。もちろん全体ショットもあるが、ところどころ出てくるこのズームインショットがとても味が良い。


『ファースト・マン』ではこのズームインよりもズームアウトの方が特徴的だった。
ズームアウトは、一般的にはキャラクターが置かれている状況やキャラ同士の関係性を見せたい場合に使用されることが多い。
初めて月面に着陸するというのは偉大だが、孤独な道のりだ。そして、彼にも家族と子ども、そして友人がいた。アームストロングと彼らが仲良く夕飯を食べるシーンを、カメラ固定で遠くから撮ることで、彼らの密接な関係性を表していると同時にアームストロングのこれからの旅がより一層辛いものになっていくということを暗示させている。他にも、カメラを敢えて機械で固定せず手持ちにすることでリアル感と臨場感が出るようにするなど、『セッション』と『ファースト・マン』には共通な撮影技法が見て取れる。

そして何といっても、チャゼル監督は「音楽」を大事にする監督だ。
彼自身、高校生の時はジャズドラマーを目指していたり、ミュージカルが好きであるなど、音楽やダンスを心から愛している。そしてそれは、上記3作品にも明快に表れている。
『セッション』は、チャゼル監督自身のジャズドラマーとしての経験を基に制作されているから専門用語や実際のプロジャズドラマーの説明などが非常に正確だ。演奏のシーンの迫力は言及しなくてもいいだろう。映画を観てくれ。
『ラ・ラ・ランド』は、チャゼル監督が夢みた映画そのものだったようだ。『42nd Street』(1933)や『‘Singin’ in the Rain』(1952)などのミュージカルスタイルに影響を受けていて、これらのミュージカルを現代風にカムバックさせたかったとも言っている。それが世界中でウケたというのは監督自身にとっても相当嬉しかったはずだ。

そして『ファースト・マン』においても、アームストロングが奥さんと一緒に音楽に合わせて踊るシーンや、宇宙船で音楽を流して物思いにふけるシーンなど、緊迫した雰囲気の中に癒し要素として音楽を取り入れていることから、音楽を大事にしていることが分かる。

最後に

このように、チャゼル監督は、非常にシンプルなストーリーの中に、彼独自のスタイルを貫いていることがわかる。
僕が映画そのものを好きになったきっかけとなった映画が『セッション』で、その後スピルバーグやノーランのような超大物映画監督が作った映画を色々観てきたが、未だにチャゼル映画が一番好きだ。

いやあ、ハリウッドで働きたいなあ。映画作りながら生きたいなあ。
うちの学部に卒業論文が無いのは少し残念ではある。

では、また!

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