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誰も教えてくれなかったおしゃれのルール(アーカイブ)ジーンズについて考える①

今の若い方はたぶん、知らないと思いますが、80年代から90年代にかけての一時期、ジーンズはさーっと下火になりました。

私が文化服装学院に通っていた期間は、まさに下火の時代で、学校にジーンズで来る人は、本当、数えるほどで、どちらかというと、ファッション学校に来ているのに、あまりおしゃれには気も、お金も使わない子たちでした。

本当に、本当に少なかったのです。
はいているのは、ロックをやっている子ぐらい?という感じで、ジーンズは完全にトレンドの外の存在でした。

それが見事に復活するのは、たぶん、アールジーンなんかがローライズのスキニ―(しかし現在のものと比べれば、それほどローライズではありません)を売り出した頃なのではないかと思います。

けれども、実は、この前段階として、フランスのAPCというブランドが、ストレッチ糸が入ったスキニ―パンツを発表した、というちょっとした事件があったのです。

これは爆発的に売れたパンツなのですが、細めのパンツでストレッチが入っていて、形はジーンズそのもの。しかし、素材はデニムではなく、綾織りのコットン生地でした。

多分、まだこのとき、ストレッチデニムは開発されていなかったのでしょう。

私も新宿伊勢丹のAPCで買いました。
それを買ったとき、店員さんに、こういわれました。

「洗うと縮むので、通常の丈より10センチ長めにしてください。」

10センチも縮む素材って何だろうと思いましたが、確かに言われたとおり、激しく縮む素材でした。しかし、ストレッチがはいっているため、細身なのに動きやすいのです。

こういうパンツはそれ以前、なかったので、ちょっとしたニュースであり、衝撃でした。
(しかしこの4年ほどのち、このパンツは伸びたきり戻らなくなるわけですが・・・)

何を言いたいのかというと、だいたい95年ごろを境にして、パンツにポリウレタン糸を織り込んだストレッチ素材が使われるようになった、ということです。
そのことがジーンズを大きく変えていきます。

そして、ストレッチデニムが登場するやいなや、ジーンズは急激に細くなっていきます。

そしてこれの発展形が、いわゆる「美脚ジーンズ」と言われているジーンズ。

タイトでスキニ―なだけでなく、ダメージ加工が施され、はき古していなくても、もう既にはいていたようです。そして前脚の中央を薄く色落ちさせることで、ジーンズそれ自体に陰影をつけ、布がもう既に立体的に見えます。その効果で、脚の脇側には濃い影があらわれ、より細く見えるというわけです。

前から何度も書いていますが、ポリウレタンは置いておくだけで、腐っていく素材です。
使用年数が限られています。
つまり、今、大量に売られているジーンズは、ヴィンテージにはなり得ないのです。

しかも、ダメージ加工を施すためには大量の薬剤と水を使用し、環境には大きな負荷をかけます。

今現在、ヴィンテージとして売られているジーンズは、それこそ50年、60年前のものでしょう。

それらが作られた時代は、コットンはもちろんオーガニックでしょうし、染色だって、本物のインディゴのものもあります。
(農薬を使わないオーガニック・コットンは、農薬を使ったものより長持ちすると言われています)

そして経年によって、いい味の出る、まさにスロー・ファッションの代表選手なのです。

ここから言えることは、ジーンズには2種類あるということです。

経年を楽しむことができるスローなものと、3、4年で使い捨てられるファストなもの。

これら2つは、構造こそ同じであれ、まったく別物であると考えたほうがいいでしょう。

まず、わたしたちは、この2つのうちのどちらを選ぶか、考えなくてはなりません。

多くはないですが、スローなタイプのジーンズ、つまりオーガニック・コットンを使い、ポリウレタンの入ってないデニムを使ったタイプのものも、まだ生産されています。

わたしたちは、選ぶことができます。

どんなジーンズを買うかの選択なんて、とても小さいことでしょう。

けれども、この小さな選択の積み重ねが人生を形作っていきます。

そして同時に、あたかも蝶の羽ばたきほどささやかなその選択が、世界に影響を与えていく力を持っているのです。

2012・03・12


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