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「Amazonから全ての本を引き上げて過去最高収益を得る出版社とは?」に書かれていないこと

ジェフ・ベゾスが個人的に出資している金融系相手の米Business Insiderの元記事を、「打倒アマゾン」みたいなバズワードが入った記事の抄訳で紹介するGigazineの記事だから、はなからその辺は期待しませんがw、出版業界の人たちがいちばん知りたいであろう、なぜこのEDCがアマゾンを通さずに売上げを伸ばせたのか、具体的にどうやったのかがスッポリ抜け落ちているので、補足しておきます。元記事を見ればAn Army of Home Sellersという子見出しのところにちゃんと書いてあるんですけどね。

なぜ“アマゾン抜き”が可能だったのか?

・まずEDC ( Educational Development Corporation )って厳密に言えば出版社ではないんですよね。世界中の児童書の北米販売権(distribution rights)を買いとり、本を作って、それを売って商売をしているところなんです。五味太郎さんの『みんなうんち』みたいな日本の古典も入っています。だから「これからうちはアマゾンを通さないよ」と言われて「じゃ、他の出版社に移ります」って去ってしまうような著者をそもそも抱えているワケじゃない。

・本の卸し先が全国の書店だけではなく、図書館やオモチャ屋さん、子ども博物館のショップなど、あらかじめ決められた予算枠があるところや、子どものためにいい本を揃えることが、本を少しでも安く仕入れることより優先される販売先が多いというのも強み。「うちは節約してるから子どもの本もなるべく安く」とアマゾンで探すような家庭とは違う企業・法人アカウントが6000ほどあって、「うちはアマゾンとの取引やめたから直でヨロシクね」と、そことの連携を強めアマゾンに代わって頻繁に注文を取るようにしました。

・EDCには他にもホーム・ディストリビューター部門というのがあって、全国にちらばった7000人の販売員(コミッションベース、売上げの25%ぐらいかな)を抱えています。(Usborneというネットワークでヨーロッパ各国にも支部がある。)販売員はほとんどが子育て中のお母さん。その人たちが地元のブックフェアに本を持っていって売ったり、自宅で読み聞かせホームパーティーなどを催して、近所に住むママ友や、保育園や学校相手にEDCの本を売るんです。1万円ぐらいの入会金を払うと代表的なタイトルが届けられ(返却可能、いつでも脱会可能)、月々の最低ノルマなし、自宅に本は置かず注文をとるだけ…と、子育てしながらできる副業としてピッタリ。だって自分もクライアントのひとりだし、「うちの子」という最強の児童書モニターがいるわけだし。知り合いで「最近『みんなうんち』がアマゾンで買えなくなっちゃったらしくて…」「子どもの本、この年齢だと何がいいのかしら」などとつぶやくママがいたら、すぐさま聞きつけてくる感じw

そしてこれが他のママを販売員としてリクルートすることもできるネットワークビジネスになっています。地域の販売員を束ねるリーダーになれて、コミッション率が上がる。とはいえ、リクルートだけではお金も入らないし、プラミッドの上にも登れない仕組み。その人たちにとって、アマゾンでは買えない、というのは朗報で、すごいモチベーションになったことでしょう。だってそれまでは地元の学校や図書館に仕入れてもらおうと一生懸命本を見せながら営業しても、アマゾンの方がちょっと安いから、と後でネット注文されていたのがなくなったのですから。

これって児童書に限らず、他のジャンルの本でもヨーロッパでよくやっている販売法です。例えばイギリスだと、オフィス毎のブッククラブのカタログ販売をやっていて、よく受付の女性(給料安いしw、色んな部署の人と顔を合わせるから)が副業としてやってたりするんですけど、彼女を通せばベストセラーが安く買える、社内で同じ本を読んでいる人と知り合える、彼女を通して本を受け取れる、ってなメリットがあったりします。そして彼女はみんなから注文をとると、自分の本がさらに安く買えるようになるというシステム。

出版社としてもどういう会社でどういう本が売れる、みたいな情報が手に入るわけだし、私はブッククラブの元販売員で、これだけ売上げがありました、なんて人だと出版社の販売部に就職するのにも有利でしょうし。

日本みたいに「本は本屋で」という発想を捨てれば、知り合いを通して紙の本を手渡しで売る、というのは貴重なルートだと思うんですが。


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りんがる aka 大原ケイ

最近は東京ベースの文芸エージェント。日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。ブログ Books Beyond the Briny Deep 海の向こうの本の話 oharakay.com ツイッター垢はLazarastaで密かに復活。

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コメント1件

Amazonの出版社への圧力が高まる中、EDCのような販売権者が存在は興味深いです。児童書は、一度地位を確立すると、ある一定の需要が得られるため、Amazonからの脅しにも啖呵を切れるのかもしれません。通常の出版社であれば、Amazonからの取り扱い拒否は、取扱量の減少を意味し、死活問題にもなりかねないです。また、予算枠がある図書館や博物館が取引先ということも価格競争に巻き込まれないため、脱Amazonを可能にした大きい要因であることが、良く分かりました。販売員の存在感が大きいのは、乳酸菌飲料販売で活躍するセールスレディの存在を想起しました。まさしくネット(Web)VS ネット(人力)という構図が面白かったです。すでに本の世界だけでなく、生活用品や家電など様々な分野で、覇権を握るAmazonが、このEDCの取組みをどこまで容認するのか今後の推移を見守りたいと思います。今後も楽しみにしております。
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