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おにぎり女子マネとタイトルナイン

もちろん日本の「やきう」とアメリカのbaseballは違うスポーツなんでしょうけど、あまりにも違う関連ニュースが目に付いたので。

日本側のお話はもちろん、例のおにぎり2万個の女子マネです。私はもちろん、彼女個人の選択をあれこれ批判するつもりはないので、どこの学校の話かもわからないし、名前も知りません。それを美談に仕立て上げるマスゴミに呆れ、怒っているだけ。リンクを貼るのもいやなので、元記事は「おにぎり 女子マネ 2万個」あたりでサーチすれば出てくるんじゃないかと。

対するアメリカのニュースは、今年リトルリーグ世界大会でアメリカ代表を勝ち取ったフィラデルフィアのチームのエース投手が女の子だという話。とはいっても、女の子ピッチャーだから、という理由だけでニュースになっているわけではありません。毎年どこのチームがリトルリーグ世界大会に出場するのかは恒例のニュースとして流れます。そのチームに女の子がいる、ぐらいでは特にそのことが見出しに含まれるようなニュースにはなりません。でも今年のチームはエース投手の功績が大きかったこと、そして“たまたま”そのエース投手は女の子なんですよ、という流れでニュースになっていました。「割烹着のリケジョお手柄〜」みたいなのとは雲泥の差です。

進学の選択をさえ棒に振るド根性ストーリーとは違って、彼女はベースボールの練習も週に数回だけ、まず学校の宿題が優先だそう。将来は、っていうとWNBA、つまりベースボールではなく女子バスケのプロ選手になりたいのだとか。清々しいくらいサバサバしてるじゃないの。いや、彼女だったら高校生の段階であちこちのトップ大学から引く手あまたで結局、WNBAをさっさと引退したら医者とか弁護士になりそうな感じですが。

そのモネ・デイビス選手の投球を見ると、背中にたなびくドレッドの髪がなければ女の子とはわからないだろうし、13歳とはいえかなり洗練されたフォーム。りりしくてカッコイイ。彼女が投げるファストボールは時速72マイル(約115メートル)にも到達し、リトルリーグのマウンドの位置を考慮すると、メジャーリーグの90マイル超えに相当するとか。相手チームの男の子たちが見事に空振りしてて、可愛く見えてきます。

私がこのニュースをツイっていたら、さっそくNYタイムズは「デイビス選手もすごいけど、もう今まで17人もリトルリーグ世界大会に出た女の子がいて特に珍しいことではなくなってきている」という「あの人たちは今」的な記事が。お兄ちゃんといっしょに遊びたい一心でやっているうちにアイスホッケーもベースボールもプロ級に上達したミネソタの女性や、今期、双子の弟と同じチームのカナダの子とか。(英語ではtwin brotherとしか書いてなくてどっちが年上かわからないのですが、写真を見て、ちょっと偉そうにしている方が上かな、と勝手に判断しました。水原勇気とドカベン風w)

アメリカに「女子マネージャー」なるものは存在しません。そういえば何年も前に日本で大ヒットした本に「日本の高校の女子マネージャーが、マネージャーというのならドラッカーだろう、という大勘違いの元にチームを改善する」みたいなのがあって、「ここまで売れたんだから、これって欧米でも出版できませんかね?」という打診をされたけど、「男子ばかりの運動チームの“世話”をする女子マネージャーの存在というものさえ把握できないのでムリです」とお答えしました。

アメリカには「タイトル IX(ナイン)」という有名な法律があって、女子マネージャーなどというものはズバリ「違法」です。これは「連邦から資金援助を受けている教育機関においては、あらゆる面での男女差別を禁止する」という公民権運動の賜で、72年制定。

大学生だった頃の私の理解では、タイトル9はこんな感じでした。

・運動部はそれが何のスポーツであれ、女子が入部したいといったら許可しないとダメ(体力テストの結果、資格なしとして入部を断るのはオッケー。ただしそのテストは男女とも全く同じでなければならない。)

・男子オンリーの運動部がある場合、女子部も作らなくてはならない。(その結果、応募者がいなければ、なくてもよい。)

・男女別々の運動部の場合、学校側が提供する予算は同じ額だけ用意しなければならない。(大学アメフト部の派手さを想像してみてください。あれをやっている大学は、同じだけの予算を女子部のために用意し、決算を公開しなければならないのですよ。ただ、用意したけど使い切れなかった、というのは許される。)それでも、男子チームは女子チームより試合観戦チケットがより多く売れるとか、男子OBが多額の寄付をするなどで予算に差が付くのは仕方がない。

・反対に、チアリーダー部も男子入部希望者を断ってはいけない。実際にかなり多くの男子メンバーがいる学校もある。でも、誰が上になったりジャンプする方になるのかは、体重と運動能力で振り分けられるので、その結果として男子部員は「持ち上げ要員」になってしまうけれど。

要するに機会均等ですね。どうせ女の子にはムリとか、募集してもやりたがらないだろう、なんてのは違法な「怠慢」なのです。おにぎり2万個の記事を書いたオッサン記者的な思考というか。

タイトル IX のアドボケート団体の公式サイトを見てみたら、大学の運動部に限らず、教育機関におけるすべての男女差別を禁じるという、私が思っていたよりも幅広い法律でした。しかも2002年、パッツィー・ミンク(竹本まつという日系三世の女性議員ですよ!)の功績を讃えEqual Opportunity in Education Actと改名されてました。

もちろんアメリカにだって「アメフト(別にアメフトに限らないけど)は男のスポーツ」的な思考のオッサン(別にオッサンに限らないけど)は大勢います。でもそれは単に個人の意見であって、男女平等を謳う教育機関では間違っている、という前提があるので、それを法の力で是正しているわけです。みんなの意識が同じく、等しく揃うのを待っていたらいつまで経っても何事も変わりませんからね。

日本のおにぎり女子マネは、個人の自由選択だと言う人がいるようですが、本当に選択肢があったとは思えません。アメリカに「もしも」合法的なな女子マネージャーがいるとしたら、それは女子が男子と混合でベースボール部に入る、女子ベースボール部に入る、男子もマネージャーとしておにぎりを握る権利を与えられている、というチョイスが用意された上でのことでしょう。マネージャーがたまたま女子だったのではなく、既に“女子”マネージャーと呼ぶところからして違法と判断されるでしょう。

フェースブックで友人に教えてもらったのですが、京都大学硬式野球部の「マネージャー」の説明がココにあります。これがアメリカだったら即アウト。廃部、連邦政府から大学運用資金援助凍結、罰金、関係者の処分、などは免れないでしょう。

その制度の「是正」だけでなく、民間から女の子に対する意識を変える、という点からも行われています。例えば、生理用品のメーカー、Alwaysが作ったこんなCM。ちょっと長いけど、最初カメラを向けてなにかを「女の子らしく」やってみて、と言われた人たちの意識が変わっていく様子が鮮やかに映し出されています。一見の価値あり。

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