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IT長者がカネにあかせてツブそうとしてるけどアメリカのメディアはヤワじゃない

「ゴーカーが破産」、と伝える日本のメディアがどいつもこいつもあまりよくわかってないんじゃないか?という気がしてならないので、書いておく。

そもそもゴーカーってナニそれ美味しいの?という問いへの答え。いわゆるウェブニュースサイト。Gawkは傍観するという意味。他人事のようにゆる〜く生暖か〜く見守ってる感じ。で、ゴーカーのサイトが何を見ているかというと、主にメディア業界でのスキャンダル。日本にあった「噂の真相」に近い感じですかね。マスコミ業界の人はなんだかんだ言ってしっかり読んでいる、というw

実は私も日頃からちょくちょくチェックしている。斜に構えたちょっぴり不遜な態度が面白いんだもん。辛辣で皮肉的たっぷりの言い回しがヒネクレ者の私の心に響くんだわ。でも何の証拠もないウソっぱちは書かないし。芸能人ゴシップも、ぷぷぷ、こんなことがネットで騒がれているよ、ってなスタンスだったり。

だから、ハルク・ホーガンのセックス・ビデオ流出を伝えた記事も「やだ、ホーガンったら、堂々と不倫しちゃってw 行為中のトークもつまんないし、しょぼい爺セックスじゃん。まぁ、それでも見たい人はここがリンクね」ってな紹介の仕方だったのだ。

いくら今はもうジジイとはいえ、昔はマッチョでメチャ強い人気プロレスラーとして売っていたハルク・ホーガンとしては、そりゃあプライドも傷ついたし、訴訟を起こしてもしかたがない。っていうか、ホーガンが少しでも今どきのネット事情に通じていたら、セックスビデオなんていったん流出しちゃったら、訴訟だなんだと騒げば騒ぐほどアクセスが増えるし、パリス・ヒルトンとかキム・カーダシアンとか、セックスビデオあってのセレブもいるわけだし、放っておいてそのうち忘れてもらうのが最善策、ってのがわかんなかったんだろうなぁ。しかも、長年いっしょに仕事もしてきた友人の奥さんとやってたのは事実なんだし、アメリカの法律じゃ、そんなもん、名誉毀損にもならねーよ。プライバシー侵害だぁ? だったらそんなもん、自分でビデオ撮るなよw

というわけで、さっさと棄却されたり無罪になったりしそうな瑣末な訴訟だったんだけど、引退後のプロレスラーにしては潤沢な資金を使って、優秀な弁護士団が食らいついて、ゴーカー側も手こずっていたのが、実は裏で金を出していたのが、ピーター・ティールだったというわけ。

ピーター・ティールといえば、アメリカでみんな使ってるスマホ決済アプリPayPalの創設者で、フェースブックのディレクターの一人でもあり、いろんなベンチャーにも投資してるIT長者。日本でも著書の『Zero to One:君はゼロから何を生み出せるか』ってけっこう流行ってたよね。(個人的にはこの人の言い回しが回りくどくて、ビジネス哲学としてあまり心に刺さってこなかった本だったけど。)

さて、ゴーカーってのはメインのニュースサイトで、親会社のゴーカー・メディアの傘下には、フェミ系のニュースが面白いJezebelジェゼベルとか、日本発のアキバ文化もよく伝えていたKotakuコタクとか、スポーツゴシップのDeadspinデッドスピンとか、いろいろジャンルごとに分かれたサイトがあって、情報は早いし、インサイダーじゃないと取れないようなニュースがリークされてくるし、いわゆる飛ばしやガセネタは(ほとんど)なかった。いつだったか、他のギーク系サイトを差し置いて、最新のiPhoneのデザイン画像を入手してたよね? 

ゴーカー・メディアの子会社だと、GizModeギズモードやLifeHackerライフハッカーは日本語版もあるよね。各レポーターが署名記事(っていうかブログエントリー)でスクープをとってくるネタが半端じゃないし、ニック・デントン編集長は他のバイラルメディアよりも頭ひとつ抜きんだビジネスモデルを作り上げた、NYじゃそこそこの有名人。

そもそもピーター・ティールが腹を立てた元ネタってのは、傘下のValleyWagヴァリーワグのエントリーで、「ピーター・ティールはもろゲイだよ、みんな」って見出しで、強制カミングアウト(英語だとoutを動詞として使うだけだけど、日本語でぴったりの訳語がわからん)した2007年の記事。つまりホーガン訴訟まで10年近くも執拗にゴーカーを恨んで裏工作してきたってこと。こわ。粘着系IT男子恐るべし。

当時、ニック・デントンも「なんでティールはゲイってことを隠すのにそこまでこだわるんかね?」って書いてた。デントン自身もゲイだし。理由として挙げられているのは、ティールのIT投資ビジネスの相手は、サウジアラビアなど同性愛が御法度のイスラム圏の国の人が多いから、ってのがあったけど、だったらティム・クックなんてどうなるのさ?ってな話で。サウジアラビアのお金持ちって、アップルブランドが人一倍大好きだよねぇ。シリコンヴァレー界隈のIT企業じゃ、女性がなかなか出世できないミソジニ文化はあるけど、ゲイもストレートも仲良くプログラミング♪してると思うけどなぁ。

今回の訴訟の費用として、ティールは内緒でホーガンの弁護士側に$10ミリオン、つまり約10億円以上渡していたそうな。で、裁判の結果、デントンが敗訴して賠償金が約120億円という判決。追徴罰金としてさらに28億円、うちデントン個人が10億円以上支払う、ということになってしまった。

ゴーカーメディアにとって、支払いが全く不可能な金額ではないと思うけれど、とりあえず上訴まで取り押さえなどを防ぐ時間稼ぎの対策として、ゴーカー・メディアは連邦倒産法第11章を申請。これはいわゆる日本の民事再生法に当たる。だから「ゴーカー倒産」っていきなり書いちゃうのは誤報じゃね? 少なくとも誤解されやすい書き方だなぁ、と思ってしまった。

それと、アメリカではマスコミが訴えられたケースが最高裁まで行き着くと、表現や報道の自由を保障した憲法修正第1条ってのが重視されるので、それまで持ちこたえれば勝ち目はゴーカーにある。

ティールがゴーカーにいろいろバラされて、訴えるのを手伝ってた原告はホーガンだけじゃないけど、表立って自分が原告となって訴訟を起こさずに、裏でこそこそ赤の他人に資金援助していたのは、おそらく、アメリカではどこか特定のメディアを表立って攻撃すると、他のメディアも一丸となって団結して戦うからだ。これはどのメディアが対象になっても同じで、古くはアメリカ政府に都合の悪いベトナム戦争の裏舞台をすっぱ抜いたニューヨーク・タイムズ(「ペンタゴン白書」事件)やワシントン・ポストみたいなエリート紙の場合でも、ジャックリーン・オナシス(ケネディ大統領の未亡人)の全裸写真を載せたポルノ誌『ハスラー』の場合でも同じだ。一流紙もゴシップ誌も共闘して圧力団体(たいていは政府)と戦うのだ。日本だとマスゴミは安倍政権のいいなりで、他の新聞が一斉に朝日新聞を叩いたりするけど、あんなのはありえないね。ってこの前マーティン・ファクラーもそんなこと言ってたから、この話題はそのうちあらためて書くわ。

例えば、つい先日も、次々とドナルド・トランプの過去の悪事やビジネスの失敗を検証する調査報道記事を発表しているワシントン・ポスト紙の記者を、「ウソばっかり書いたから」という、どっちがウソつきだよ?ってな理由でトランプの選挙イベントから締め出す、ってあの****(←ここにお好きな罵詈雑言をお入れください)がほざいてたけど、そういうことって、マスコミを心の底から嫌っていたニクソン大統領だってやらなかったよ。ドナルド・トランプは、ワシントン・ポストのオーナーである、アマゾンのジェフ・ベゾスも批判しているらしい。だったら報復措置として、トランプ陣営の人たちのアマゾンアカウントを凍結、ってのはどうだろうか?w あるいはアイツのツイッターアカウント凍結すれば選挙活動できなくなるで?

そういえば、ティールが次に金を出してるのが、先日、私もツイッターで流したドナルド・トランプの植毛疑惑。あの****も70歳になったばかり、寄る年波には勝てず、ハゲなんだよ、ハゲ!

なんでも、1回6万ドル(600万円以上)なり〜の高級最新植毛サービスのオフィスが、ひっそりトランプタワー内、しかもハゲがオフィスとして使っているのと同じ階に事務所を持っていて、誰にも知られずに通えるので重宝しているらしい、って記事。これには他のマスコミも「あっぱれな調査報道w」と応援しているところが大半。

その植毛クリニックのIvariというところが今ゴーカーを名誉毀損で訴えていて、その弁護士がハルク・ホーガンのケースと同じ人物で、裏にはピーター・ティールのお金が流れているというわけ。

だけど、こういうお金の使い方は感心しませんなぁ。



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