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マンハッタンの店賃が上がってレストランが閉店する裏には、不動産を買いまくる海外成金の影

決して景気が悪いわけでもないのに、このところマンハッタンでは「あの老舗の一流レストランが?」ってなところが次々とクローズしていて、驚かされるような、残念なような…。

6月30日のnoteに書いた「ニューヨークやサンフランシスコで次々と本屋さんがつぶれたり、移転を余儀なくされているわけ」と同じで、書店だけでなく、レストランもリースが切れたときに急に無茶苦茶な額にレントが引き上げられて閉めざるを得なくなるのだ。どんなに流行っていると言っても、石油が湧いているでもないのに。1冊1冊、1食1食、丁寧に売り上げてきたから客が付いているだけなのに。

例えばユニオン・スクエア・カフェ。辣腕経営者ダニー・メイヤーの看板店とも言えるレストランで、2007年に六本木ミッドタウンに姉妹店をオープンしている。このユニオン・スクエア・カフェ、ザガットの上位に毎年ランクインされるのに、味(だけ)にうるさいグルメの人には「イマイチ」と評されることが多い。でもあそこの「ウリ」はいかにもアメリカらしいフレンドリーなサービスなんだよね。客に対して卑屈にならず、上から目線にならず、友だちのように接してくれて、実に気持ちよく食事ができる。気取った気分でおフレンチ食べるよりよっぽどいい、っていうファンがいっぱいいる。

ダニー・メイヤーのお店はどこをとってもそれは同じ。日本の姉妹店ではその点がどれだけ移植されているのかはわからないが、私が同じ経営の「11マジソン」で白いカーディガンにウェイターが赤ワインをがっつりこぼしたときの対応は正にネ申だったなぁ。おろしたてとは言えアン・テイラーで買った安物のカーディガンなのにそんなにしなくていいのよ、ってぐらい。

思えば、近所のグリーン・マーケットの食材で「地産地消のオーガニック」ってことをやり出したのもユニオン・スクエア・カフェだった。そのユニオン・スクエア・カフェが次のリース契約ならずで来年末で幕引きとか。

他にもロウアーイーストサイドのグルメ文化を牽引してきたWD-50や、私も大好きだったトライベッカのChanterelle、パンチの効いたテックスメックスが楽しめたボビー・フレイのMesa Grill、目玉が飛び出そうなワインのコレクションのVeritas、この辺が軒並み、レントの交渉が破綻して閉店に追い込まれている。

じゃあ、この街でどこの誰がそんなに高い不動産を買えるの?っていうと、海外の“ワケあり”の富豪たち。ペーパーカンパニーを何層にも作って誰がどこからお金を入れているのかわからないようにして、高級マンション(億ション?兆ション?)を買う。今やマンハッタンの高級大型物件の3〜4割が怪しげなLLCと付いた会社や、出資者が海外在住の人たちに買われているとか。

国別に見るとその海外組のうち、半分がアジア(今日本でもブイブイ言わせている人たちですね)で、もう半分は南米、ヨーロッパ、その他。最近のニュースではニューヨーク史上最高値のコンドミニアム物件は8800万ドル(約90億円?もうゼロが多すぎて計算が合っているのかどうかもわからないw)、買ったのはロシアの肥料王(いかにも臭そうな)、ドミートリィ・ルボロヴィエフ。コアップだとエジプトの土建屋、ナセフ・サウィリフが払った7000万ドル。

こうなったのも、9−11の同時多発テロ事件や、リーマン・ショックでも暴落しないマンハッタン不動産が、今となってはスイス銀行に預けるよりよっぽどお得、という事態になっているから。だから物件を買ってもそこに住むわけではない。せいぜい遊びに来るときに使う感じ? AirBnBでお小遣い稼ぎ、という感覚もないので、ハッキリいってゴーストタウンです。最近の国勢調査の結果から、マンハッタンの高級住宅街とされる5番街〜パーク街、49〜70丁目の一角は、1年に多くても数ヶ月しかそこにいない住民が3割だとか。

だからやっぱりホテルが足りなくてホテル代も高い。平均空室率10%だよ?平均価格は1泊280ドル、これにもろもろの税金が加算されて350ドルぐらいだよ? 誰もこの街に気軽に遊びに来てくれなくなっちゃう。不動産にお金を突っ込む超富裕層はこの街で毎日外食するわけじゃないから、当然レストランも埋まらない。何の因果か、お金もないのにこういう街に住み着いてしまっているので、トマ・ピケティの『21世紀の資本論』なんて読むと、泣けてきちゃうんですよ。


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