バイオスフィア2に関する黒歴史初公開:(サボテンと雨とパスタとセックスの話)

だらだらと長い単なる思い出話です。

最近はもうトランプの名前を聞くのもイヤなので、そのおかげでニュース・ジャンキーからだいぶ更生してるんですが、ほんの些細なニュースだったけど、ピクッと反応したのが、トランプの首席戦略官に選ばれた「スティーブ・バノンは90年代にバイオスフィア2の所長をしていたこともあり…」っての。

こんな私にも駆け出しレポーターとしての黒歴史があって「バイオスフィア」と聞くと、異次元空間にしばし足を踏み入れた日々のことを思い出す。まずは背景を説明ね。

Biosphere 2 というのは、外界との接触を一切絶って暮らすエコロジーの実験をする研究をやっていたところで、要するにアリゾナ州はフェニックスとスコッツデールの間の何もない砂漠の真ん中にど〜んと建っているどでかいグリーンハウスだ。このバイオスフィア、なんで「ツー」なのかと言えば、地球そのものがバイオスフィア・ナンバーワンだから、それを再現しようという実験が2というわけ。らしい。こんな建造物、後にも先にもこれっきりのオンリーワン(だと信じたい)でしょ〜に。

地球の熱帯から海まであれこれ再現したいくつもの温室がつながってて、そこに動植物をいろいろ持ち込んで地上のエコ環境を再現したとされる。ここに男女の科学者8人を2年間閉じ込めて、サバイブできるか、ってのが実験のキモだった。

90年代前半の話だから、日本の雑誌はまだバブルで、世界のニュースに、下ネタアングルが可能ならどんなくだらないことでも大枚はたいて海外まで追っかける、みたいな時代だったんだよね。で、学生のバイトに毛が生えたような取材経験しかなかった私に、MITラボだの、フェルミ研究所だの、アメリカ国内なら、日本から忙しい記者送り込むより、私を使った方が安上がりだよね、ギャラはそこそこ払うからってんで、今から思うと「こんな小娘にそんなこと任せていいのか」ってなお仕事も色々いただきましたw

で、いきなりバイオスフィアに行ってこいって話な。ゴルフしないからアリゾナなんて興味もなかったし、え〜と、近くの空港ってどこだろ、どこに泊まればいいのかな?みたいな感覚で。いただいたお題、つまり8人の科学者に聞いてくる質問はただひとつ。

「セックスしてたんですか?」っての。

日本の週刊誌だからねぇ。こっちでいうMAXIMみたいな男性向けマイルドエロ雑誌と何が違うの?ぐらいのえげつなさ。でもそういう週刊誌が「日本のTIMEとか、ニューズウィークみたいな雑誌だって紹介しとけ」ってな風に言ってくるのよ。身の程知らずと言いますか。

もちろん、アリゾナの砂漠の真ん中までいって、いきなり科学者チームのメンバーに「お互いヤッてたんすか?」とは聞けないから、いろいろな質問を織り交ぜて、その上で切り出すように、という訓示をいただいて、向かったわけですよ。砂漠だから、取材の後に安モーテルのプールサイドでカクテル飲むぐらいしか期待していなかったんだけど。まぁ冬でも気候がいいところらしいんで、暖かいといいな、ぐらいの気持ちで。

ところが。

着いてみたら雨ざぁざぁ降ってる。

うそ〜ん。バイオスフィアに向かうタクシーで運ちゃんが「いや〜、こんな雨、1年に1度降るか降らないかだねぇ」っていうんだけど、なんで私が行くその日にここまで降るか?ってな豪雨で。サボテンが恨めしげに雨に打たれてましたよ。あの頃は雨女だったもんな、私。すまんな、サボテン。

着いたところがディズニーランドも真っ青なデカ温室。って言うか、この建造物、ナニ? 温室、って聞いて農家のビニールハウスなんて想像してちゃダメですよ。何しろ滝と言ったら華厳じゃなくてナイアガラ、谷と言ったら大涌谷じゃなくてイエローストーンかグランドキャニオンというスケールのでかい国だからね。

全米からレポーターが集まってるからと促されて、カフェテリアでまずはPRの人から説明を受ける。ニューヨークから一歩出るとアメリカ人ってのはみんなシャベり方がゆっくりで、いきなり「スイートハート」呼ばわりですか?ぐらいのフレンドリーさなんで、ここでもみんな「ハ〜イ」と親しげに順番に自己紹介。だから私もいつもの通り「ハロー、見た目アジア人だけど、ニューヨークから来たKで〜す。態度がRUDEだから、ニューヨーカーってバレちゃったかな、テヘ」と早口で笑いをとったつもりが…周りがし〜ん。

誰も笑ってくれなかった。

そうかよ、本気で早口の無礼者、って思ってたんかよ!ここでまず心がポキンと折れる。今にして思えば、早口すぎてわからなかったのかもしれないと好意的に受け取っておく。

そして温室ツアーに出かけたんだが、広いわりには中にこれといって見たい動植物があちこちあるというわけでもなく、これって周りのガラス取っ払っちゃったら、外にいるのと何にも変わりませんよね〜、ぐらいの景色が広がっている。当たり前だ、珍しい植物を植えた植物園ではなくて、普通の地球の環境を再現してあるんだから。で、歩き疲れた頃にカフェに戻ったら、「これでバイオスフィア2」の1棟をみていただきました。これがここには5つあるんです」と言われて、あ、もうお腹いっぱい、お代わりは結構です。雨が降ってないってだけで、外の世界と同じじゃん。

ランチの時間も広報担当チームと全米レポーターたちといっしょに食べる羽目に。どうせRUDEだと思われてるんだろうからさ、ってな私に頑張って会話を振ろうとするアメリカ人レポーターたち。いいやつらだぜ。だけど、「ニューヨークって日本人じゃなくてもお寿司、食べるんでしょ〜?私はねぇ、エビなら食べられるわよ(とはいっても、甘エビではないだろうが、なぜか得意げ)」ってこれ、どういうマウンティングなのか?どう答えていいのかわからないが、その気持ちだけはありがたく受け取っておくよ。

あまり意味のない会話がダラダラと続き、誰かが「あ、このメニューのリガトーニって要するにマカロニのでかいのか。どうしてパスタってこんなに色々名前があるんだろうねぇ。みんな同じじゃん」と言い出した人がいたんだが、そこでそれまでずっと大人しく座っていた広報アシストの兄ちゃんが口を開いた「They ACT differently.(それぞれ違うんですよ)」って。みんなが「ハァ?アクト?何いってんのこいつ?」って反応だったけど、私はピンときたよ、今の、ブルックリン訛り。名札には「JOE」としかなかったけど、プレスリリースで苗字確かめたら、ディオニシーオ、みたいな、もろイタリアン系。同胞よ!とハグしたい気持ちをこらえて、午後の取材はこの兄ちゃんに食らいつきながら館内ツアー。

「こんなとこでニューヨーク出身の人が働いてるとはちょっと意外」
「ま〜ね。なんかサラリー良かったし、全く知らないところで働いてみたかったんだ」
「で、どう、この辺?」
「始めたばかりだし…戸惑ってるw」
「お母さんのパスタが恋しいとか? この辺じゃアルデンテじゃ出てこないよね」
「とりあえず肉食ってるから」

と、外の天気とは裏腹に乾いた会話が続いたのであった。

そして実験に参加したメンバー数人とご対面。改めてプロフィールを見てみたら、プロジェクトリーダーってのが、シニアのジジィ科学者じゃないか!(写真右端。これは実験前の写真だからこれに+2年)他の女性科学者もスッピンのおばさんばかりで、うう、このメンツにヤッてたのって聞いてもムダじゃん(ごめん、私も若かったもので。親がやって自分が生まれてきたのが受け入れられないお年頃ってのあるじゃん)。考えてみりゃ、若い世代だったらこんな温室に何年も閉じ込められてる実験なんて青春のムダ使い、遠慮するよね。迂闊だったよ。この記事の企画を考えた週刊誌の人が。

仕方がないから、用意してきた「キャビン・フィーバー(狭所恐怖症みたいな症状)みたいになったりしませんか?」とか、「中にいていちばん不自由に思ったことはなんですか?」ってな質問をしておいて、聞いちゃいましたよ。「ワット・アバウト・セックス?」って。ああ、言っちまった。聞いちまった。

そうしたら手練手管に長けてそうなおばちゃま科学者が、ニヤリと笑って「I’d say anything that may happen outside, happened inside.(外界で起こりそうなことは内側でもあったわ)」って交わしやがった。負けるな、私!

「Including sex?(セックスも?)」

と再度果敢にも聞いてしまった。乙女が他のレポーターの前で2度も。そしたらおばちゃま科学者、うなづきやがんの!これじゃquoteとして「イエス」とも書けないよ!ぢぎじょー。

ま、いいや。とりあえず聞いたんだから。そのまま書くしかないだろ。いくらなんでも、机ドン!して「だからぁ、バイオスフィアで科学者同士、2年の間にセックスしたのかしなかったのかって、聞いてんだろ!正直に答えろや!」と居直るほどのレポーター根性、私にはありません。あえなくこれにて玉砕。(ちなみに、実験後に一緒に入ってた科学者のうち2人が程なくして結婚してます。やっぱやってたんじゃんか!)

その後は、広報アシストのジョー君とも会話する気も薄れて、ひたすら早く帰りたかった。泊まり先のモーテルに帰って、メモ見ながらノートに下書きまとめたら7時回ってたけど、アリゾナの砂漠のど真ん中で、しかも雨降ってたし、なーんにもすることなくて、ロビーに降りていってバーでビールを飲むことに。

そしたら、バーにいた地元の客がそれぞれみんなこっちを見ている。み〜んな見ている。暗がりの中で右からも左からも刺さるこの視線、なんなの? え?

アジア人女がビール飲んでるとこ、見たことないのかよ?!

と心の中で毒づいてから思ったのです。ああ、ほんとに見たことないんだろ〜なー、と。もしかしたらアジア人そのものが初めてだったかもしれません。飲むんですよ、フツーに。まぁ案の定、バーテンさんにはID(未成年じゃないことを示すための身分証)見せろ、って言われたけど、あの頃は、ニューヨークでもそんなのしょっちゅうだったしね。さすがに居心地悪くて1杯で引き上げました。

で、翌朝、からりと晴れた雨上がりのアリゾナを後にしてそそくさと逃げ帰ったというわけです。取材の話はこれだけ。でも、雑誌記事に「外界で起こりそうなことは内側でもあった」だけじゃ済まされそうにないので、バイオスフィアのこと、あれこれリサーチしたんだよね。ネットでサクッと検索する前の時代だから、LEXUS/NEXUS(←知ってるかな〜?)とか、図書館行ったりして。

そこでわかったのは、このバイオスフィア、元からして結構ヤバい実験だった。出資したのは主に、エド・バースというテキサス州のお金持ちのボンボン息子。石油王の父ちゃんからもらった遺産で、一応エリートっぽく、フィリップ・アカデミー(プレッピー私立高校)からイェール大学行ったけど、その後アリゾナでヒッピー文化に触れて、同じくハーバードのMBAとりながらも60年代サンフランシスコでヒッピーやってたジョン・アレンって人と組んでSynergia Ranchというコミューンみたいなのを立ち上げた。8人の科学者って言ってもコミューンの元仲間で、聞いたことのない大学名と怪しい学歴ばっかり。

エド・バースの全資産は20億ドルとも言われ、そのうち1.5億ドルほどバイオスフィアにぶち込み、自称「エコプレナー」として実験をしているけど、言ってることはニューエイジの世界滅亡論だったり、かなりヤバイ。自分では否定してるけど、要するにこのバイオスフィアの実験、将来は火星をコロニー化してそこに住むことを前提にやってるらしい、ってのがわかってきた。人類滅亡したら、自分たちだけで火星に住むんだって。単なるジコチューw

さらに調べてわかったことだけど、実験の最中に温室内の二酸化炭素量が増えすぎてそれを出す装置がつけてあったとか、中で指切って治療のためにいったん外に出た人が再度、入館?するのに何やら荷物を持ち込んだとか、色々「ズル」してたんで、科学実験としての価値はほとんどゼロ。そもそも、温室なんだから「太陽が照っている」「光合成できる」って前提だから、火星に住むには役に立たなくね?って話なんだけど、その辺はどーでも良かったらしい。

結局エド・バースも興味を失ったのか2度の実験の後、バイオスフィアは売りに出されて最初はコロンビア大学が買って、人間抜きで色々エコロジーの実験したけど、それも見返りがなくて、2011年からはアリゾナ大学の所有になっているとか。っていうか、まだあったのね。

いやもう、アリゾナの砂漠までわざわざ出かけて行って、カルトまがいのおじさんおばさんにセックスしてたんか?って聞いてきた私の青春を返せって話でして。

で、この度、トランプの首席戦略官に選ばれて非難ゴーゴーのスティーブ・バノン。こいつも怪しいんですよ、色々な意味で。ポピュリズム+人種差別丸出しの「アルト・ライト」サイト、ブライトバート・ニュースを経営してたってことの他に、昔から女性の扱いもひどく、最初の妻との子供の親権を争って訴訟に発展、バイオスフィア2の所長時代にもセクハラ訴訟起こされて和解してるって話。

別にバノンがバイオスフィアの中でヤッてたって話じゃなかったので、な〜んだ、ということで昔話はこれで終わりです。さぁ忘れよう。

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りんがる aka 大原ケイ

最近は東京ベースの文芸エージェント。日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。ブログ Books Beyond the Briny Deep 海の向こうの本の話 oharakay.com ツイッター垢はLazarastaで密かに復活。
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