ウクライナ語と日本語のアクセント
ウクライナ語と日本語はアクセントのタイプがまるで違う。
前者は強弱アクセントだし,後者は高低アクセント。
なんだけど,学習者にとってのツラさに共通点があるかもと思った。
アクセントのゆれ
ウクライナ語では
ウクライナ語を学び始めたばかりの頃,教科書の巻末の単語集を眺めていて,アクセント記号が二つ付いている語を見つけた。
「いやほぅ! 誤植み〜っけ!」と小躍りした(やや脚色してます)。
私は三流ながら編集・校正・組版などの職務経験があり,文字に関する間違いには過剰反応してしまうのである。
ところが,アクセント記号が二つ付いた語は他にもあり,さらに他の教材でも見かけた。
あとで分かったことだが,アクセント位置には揺れがあり,1 語に二つのアクセントが表示されている場合は「どちらもあり」ということであった。
学習者にとっては「どっちでもいい」というのは覚えづらい。
日本語では
ああ,そういえば日本語(の共通語)だってアクセントに揺れがあるよなあ,と思った。
たとえば『スーパー大辞林』を引くと,「編み物」のアクセントは「低高低低」と「低高高低」のどちらでもよいことになっている。
(専門用語で言うと,アクセント核が第 2 拍,第 3 拍のどちらもあり)
いろんな語を見ていくと,二つ以上のアクセントが表示されている語はけっこうあることが分かる。
英語の発音はよく知らないが,どうなのだろう。
中高生のときアクセントの揺れのある語を学んだ記憶が無いが。
覚えられない
ウクライナ語では
ウクライナ語を勉強していて,やはり単語の暗記にとても苦労している。
音素の並びだけでなくアクセント位置まで覚えないと語形を覚えたことにならない。
しかも,しばしばアクセント位置が活用によって動くんである。
これはツラい。
たとえば,「する」という意味の робити という動詞がある。これは主語によって以下のようにアクセント位置が変わる(いずれも太字がアクセント位置)。
(私が)роблю
(彼らが)роблять
動詞は現在形だけで(主語によって)6 種類の活用形がある。
活用語尾には法則性があるので動詞 1 語ごとに丸暗記しなければならないわけではないが,アクセントが移動するものはその位置を動詞一つ一つについて覚えなければならない。ひ〜。
もう一つの例を。
「私」という意味の代名詞 я は,属格で мене という形になる。
アクセント位置はこれ単独だと мене だが,前置詞が付くと у мене というように前に移動する。ひ〜。
日本語では
日本語のアクセントも覚えるのが大変だよね。
私は母語が播州弁(関西の方言)だが,そこそこ共通語が話せる。
しかし,あるとき,アクセント辞典をめくって「共通語アクセントを正しく把握していない語がどのくらいあるか」を調べたところ,ざっと 1 割以上は間違えていると分かって愕然とした。
複合語を作ったときにアクセントがどうなるか,もなかなか厄介だ。
日本語のアクセントも,基本的には丸暗記するしかない。
ある程度法則性はあるようだが,「法則を覚えればどうにかなる」ほど甘くない。
おぼろげな記憶では,確か『明解日本語アクセント辞典』(三省堂;第二版だったかな)では,アクセントの法則が百項目に整理されていたと思う(法則が百個なのではなく,法則が百個に分類される,というイメージ)。
弁別機能があまりない
日本語では
日本語の共通語では,アクセントによって区別される語がよく話題にのぼる。
たとえば「端」「橋」「箸」はアクセント位置が全て違う。
しかし,アクセントだけで区別される語の組は実はそんなに多くないようだ。
だから,関西出身の私が共通語アクセントでしゃべているつもりでうっかりアクセントを間違えたとき,(文脈の力もあって)別語に誤解されることはまずないが確実に違和感を持たれる,ということになる。
「間違えてもたいがい支障はないがカッコ悪く,学習コストは高い」って泣けてくるよね。
ウクライナ語では
ひるがえってウクライナ語はどうなのだろう。
1000〜1500 語程度の単語集を眺めた感じだと,やはりアクセントによって区別される語というのはかなり少ない印象だ。
ウクライナ語のアクセントも「間違えてもたいがい支障はないがカッコ悪く,学習コストは高い」なのだろうな,きっと。
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